役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2025年1月31日公開の映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』を取り上げる。
最期の顔は自分では決められない。生き様だ!
今回の『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』。生き方の神髄を問われているような。まさに終え方の美学。最期を迎えた時、どんな顔でいるのか。その顔は人生の集大成となっているのだろうか。その顔が見る人を魅了するような顔なら。逆に……嫌だ! 想像したくない!
世界三大映画祭のすべてで女優賞を受賞したジュリアン・ムーアが人気作家イングリッドを演じ、ニューヨークの書店でサイン会を行っているところから映画は始まります。そこで、かつての同僚で、戦場ジャーナリストのマーサがガンで闘病中と聞き、すぐさま見舞いに。よき治療法が見つからないマーサの絶望にじっと耳を傾ける。そんなイングリッドはマーサから安楽死を望んでいることを打ち明けられ、最後の日々を一緒に過ごしてくれないかと提案されます。
鳥のさえずりが響く森の中の瀟洒(しょうしゃ)な別荘。マーサのこれまでの人生を聞きながら、“その時”が来るのを待つ。朝、マーサの部屋のドアが閉まっていたらマーサはもう……。ふむふむ。怖すぎる。私が見届け人なら毎朝恐怖で寝られませんよ。身内ならまだしも、他人。
まぁ、それは置いといて、どうやって自分の人生を終えるのかという題材は興味深い。滝藤にもその時は一歩一歩近づいております。正直、終わり方がこんなに大切だとは考えもしませんでした。人生の主人公は自分なのだから、突発的なことでなければ、終え方は自分で脚本を書き、演出しなければならない。時間が許されるのであれば、考え抜いて納得のいく、終幕にしたい。
ということはですよ、その時を最高傑作にするためにも今までの生き方、そして、今、これからの生き方がとても重要な気がしてきました。2025年、一発目から良い作品。
世界的巨匠のペドロ・アルモドバル監督、いつものごとくスペインの感性による、生活の場を彩る鮮やかな色使いも素晴らしく、詩のようなセリフで繋いでいくストーリーは、まるでアート作品を観ているよう。どのシーンも美術館で絵画を鑑賞している錯覚に陥りました。今年も良い年になりそうです。
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』
スペインのペドロ・アルモドバル監督による初の英語作品で、第81回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞受賞作。不治の病にかかり安楽死を望む女性マーサと、彼女と数十年ぶりに再会したイングリッド。ふたりは理想の死に方を巡り、対話を重ねるが……。
2024/スペイン
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーアほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
2025年1月31日より公開
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。映画『私にふさわしいホテル』が公開中。ドラマ『TRUE COLORS(トゥルー カラーズ)』(NHK BSプレミアム4K&BS)にも出演している。