4万2000㎡という土地に300を超える焼酎蔵(蒸留所)が存在する九州。世界に名を知られるスコッチがスコットランドに160蒸留所があることを考えても、日本の蒸留所の多さは群をぬく。世界でジャパニーズウイスキー熱が高まるなか、日本で培われた発酵や蒸留の技術力をウイスキーづくりを通じて世界に伝えるべく、この市場で勝負をかける焼酎蔵が相次いでいる。今回は「嘉之助(かのすけ)蒸溜所」を訪ねた。【特集 ニッポンのSAKE】
2代目嘉之助が世界を夢見た土地で鹿児島のウイスキーを
焼酎の一大生産地、鹿児島で新興蒸溜所として先陣を切ったのは、「メローコヅル」の小正醸造が2017年に始動させた嘉之助蒸溜所。鹿児島県西岸、吹上浜沿いの9000㎡の土地は戦後、2代目小正嘉之助が高付加価値な焼酎をこの地から届けようと、夢を描いた場所だ。
「新しい概念や市場をつくるというチャレンジ精神は代々受け継がれています。我々は海外に焼酎を展開してきましたが、なかなか浸透しない。そうした時に世界の共通言語であるウイスキーをとおして焼酎の背景を伝えていくのがよいのではないかと考えました」と代表取締役社長の小正芳嗣氏。
小正氏が注目したのは多彩な原酒を生みだす焼酎の蒸留技術だ。各焼酎蔵では独自の酒質を生みだすべく、蒸留器の形状をさまざまに持つ。そこから着想を得て、マイクロディスティラリーでは珍しい3基の異なるポットスチルを設置した。
「目指すのは多彩な原酒づくりです。初留釡(しょりゅうがま)として使える2基と再留器1基を置き、3基で3回蒸留も行います。3基による原酒のバリエーションに原材料と複数の樽が合わさることで、より豊かな表現ができます」
樽にも自社のアイデンティティを忍ばせる。バーボン樽、シェリー樽とともに並ぶのは、2代目嘉之助による長期樽熟成の米焼酎「メローコヅル」の樽だ。
「嘉之助の味わいはリッチでスイートですが、米焼酎樽由来の優しい甘さやハッカ、梅酒のような和のテイストが柔らかく香ります」と所長の中村俊一氏。
2021年には英国のディアジオが出資したことで、その名は今や世界に知られるようになった。
「世界への門戸が開いたと感じています。いつかウイスキーと並び、焼酎も世界の共通言語にしていきたいですね」(小正氏)
嘉之助蒸溜所
2017年にウイスキーの新規免許を取得した小正醸造が始動した蒸留所。鹿児島県西岸、吹上浜沿いに蒸留施設やテイスティングルームを備えた本棟が立つ。小規模蒸留所には珍しい3基のポットスチルが特徴。
住所:鹿児島県日置市日吉町神之川845-3
TEL:099-201-7700
この記事はGOETHE 2024年1月号「総力特集: ニッポンのSAKE」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら