“カルチャーを着る”という意識が、Tシャツに新たな価値をもたらしてからすでに半世紀余。1980〜90年代のヴィンテージTシャツには、当時のストリートが放っていた圧倒的な熱量が、今も色濃く息づいている。ミュージックTシャツ編。人気スタイリスト・野口強による連載「The character of G」。

1.著名人の着用でがぜん注目度が高まった長袖T
海外の有名アーティストが揃って着用しSNSなどで披露したことで、一気に人気に火がついたヴィンテージ長袖Tシャツ。長袖部分のグラフィックが別モチーフになっているなどのバリエーション違いも数多く出回っているなかでも、ボディの状態やプリントのトーンなどのコンディションもよく、前後のグラフィックもクリアで美しい逸品。

2.おなじみのロゴマークにニヤリとさせられる会心作
その意味を知る人は内心、苦笑。唐辛子を食べた際の状態を暗示するアスタリスクモチーフをレッド・ホット・チリ・ペッパーズのバンド名が取り囲むおなじみのロゴマーク。それを背面にダイナミックにプリント。フロントは1992年発売のシングル「if you have to ask」のジャケ写”ビキニウォール”を、フロントにこれもデカデカと配した1着。懐かしく痛快な思い出の1曲を、つい聴きたくなってくる。

3.ジャケ写からトリミングしたナイーブな表情がアイコンに
ʼ80年代に伝説的な人気を博したバンド、ザ・スミスのフロントマン、モリッシーが1991年にリリースしたソロアルバム『キル・アンクル』のジャケ写の顔部分のみを、大胆にトリミング。甘いピンクのボディにモノクロでプリントしたTシャツは、モノトーンカラーボディが比較的多いバンドT界隈においては、かなりレアといえる。表情そのものがアイコニックなのも、繊細なモリッシーならでは。

4.レトロなCGグラフィックを配したブリットポップの雄
バンド名と楽曲名を絶妙にズラして重ねることで、敢えてCGグラフィックのバグのような効果を狙ったʼ90年代のオアシスT。オアシスはヒットアルバムのジャケ写やギャラガー兄弟、ライヴのフォトTが多い印象だが、グラフィックのみというのも新鮮。ネイビーのボディに、サックスブルー、白、黒といった抑えたカラーリングもなかなかに洒落ている。

5.チャーミングな表情が魅力を物語るフォトT
白いフードを被ったポートレートを、白地のボディにプリント。そんなダイナミックな写真の配置や、背面のアーティスト名とのコンポジションはもちろんのこと、写真家ステファン・セドナウィが撮影したビョークのポートレートが何よりもチャーミング。発色も鮮やかで、コンディションのいい1994年製。ゆったりしたオーバーサイズなのも今っぽい。

6.今でもかなりのインパクト名作アルバムのアートワーク
フロントにプリントされているのは、プライマル・スクリームの出世作であり、1991年にリリースされた3rdアルバム『スクリーマデリカ』のアートワーク。ステージ上のボビー・ギレスピーとジム・ビーティを彷彿とさせる背面に配されたシルエットも、英国のバンドらしいセンスのよさを感じさせる。このマークを見て、万博のマスコットの元ネタと信じる人もいるとかいないとか!?

7.稀代のシンガーの表情と背面の線画の繊細さが突出
ローリン・ヒルのツアーTも、グラフィックのモダンさとスタイリッシュさでは群を抜いて素晴らしいものが多い。1998年にソロアルバムとしてリリースし、第41回グラミー賞で最優秀アルバム賞をはじめとする5部門を受賞した『ミスエデュケーション』を引っ提げたワールドツアーTは、パステルの線画が絶妙。シンプルながらも力強い、歌姫のキャラクターを物語っているかのようでもある。

8.アーティストリストは名盤と名高いサントラから
ナイン・インチ・ネイルズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなど、背面にリストアップされたアーティストは、1994年の映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のサントラからのピックアップ。フロントには作中に登場するシリアルキラー番組のタイトルバックがプリント。このサントラを爆音で聴きながら、バイオレンスな物語のムードにまたどっぷりと浸かってみたくなる。

9.バンドの世界的な人気を物語るワールドツアーT
音楽系のヴィンテージTシャツのなかでも、バンドのツアーTシャツは常に人気となるアイテム。ガンズ・アンド・ローゼズが2年半をかけて1993年に終えたワールドツアーTは、北米だけでも圧巻のリストがラインナップ。フロントのグラフィックもバンドの初期のものとは異なり、アーティスティック寄りなムード。アウターの下に着ても映える。

10.往年のゴスバンドの初期のグラフィックを堪能
1980年代初頭に活躍した英国のバンド、バウハウスのファーストシングルのアートワークをモノクロでプリント。ゴシックロックの先駆けといわれているバンドだけあって、グラフィックやバンド名のタイポグラフィもコントラストが荘厳かつスタイリッシュ。プリントのかすれもいい味わいで、ヴィンテージTシャツの醍醐味を存分に堪能できる1枚に。
