“カルチャーを着る”という意識が、Tシャツに新たな価値をもたらしてからすでに半世紀余。1980〜90年代のヴィンテージTシャツには、当時のストリートが放っていた圧倒的な熱量が、今も色濃く息づいている。フォトグラファーTシャツ編。人気スタイリスト・野口強による連載「The character of G」。

1.不世出の写真家が手がけた秀逸のアートディレクション
写真家のブルース・ウェバーが監督し、アート系の劇場で大ヒットした『レッツ・ゲット・ロスト』は、伝説のジャズミュージシャン、チェット・ベイカーの生涯を描いた1988年公開のドキュメンタリー作品。デッドストックのフォトプリントTは、モノクロ写真にブルーの文字を配したコンポジションが芸術的。袖部分にも彼の名言がプリントされていて、そちらも必見。

2.ケイト・モスの輝きを再確認する珠玉のフォトT
フロントにプリントされているのは、ジーンズだけをはいて座るケイト・モスのポートレート。ヴォーグやハーパースバザーなどの表紙を数多く手がけ、ʼ90年代を代表するファッションフォトグラファーとして一世を風靡した、パトリック・デマルシェリエが撮影したカルバン クライン ジーンズのキャンペーンフォト。モノクロのトーンも儚げで美しく、ケイトの魅力を改めて知らしめる1枚。

3.Tシャツがギャラリーのような役割を果たす1枚
ウクライナ出身の稀代のバレエダンサー、ウラジーミル・マラーホフが魅せる、均整の取れた身体と一瞬の肉体美。巨匠・篠山紀信が2年間にわたって撮影し、1998年に写真集として発表した作品からのワンショット。背景のグレーの階調も美しく、人物とのコントラストも秀逸。Tシャツがまるで額のようにも見え、ギャラリーのような役割を果たしている1枚。

4.有名写真家の傑作ショットがかすれてまた違う味わいに
フロントに大きくプリントされているのは、写真家ハーブ・リッツの代表作ともいえる『Fred with Tires(タイヤを持つフレッド)』。肉体のフォルムを芸術にまで高め数多くの名作を残したフォトグラファーの傑作は、プリントが着古されてかすれているのも、ヴィンテージならではの味わいがある。ボディが白の長袖Tシャツというのもなかなかに希少。

5.スーパーモデルの圧倒的な存在感を今改めて実感
ブランドのメインアイテムの赤文字をズラリと並べたうえに、スーパーモデルブームを牽引したひとりであるステファニー・シーモアのモノクロフォトを重ねたグラフィックが、ʼ90年代ならではのグルーヴを表す1枚。ノルウェーのオスロ発のデニムブランド、ヘンリー チョイスのʼ90年代のTシャツは、日本ではあまり知られていないブランドのマニアックさとも合わせて、レアさが冴える。
