4万2000㎡という土地に300を超える焼酎蔵(蒸留所)が存在する九州。世界に名を知られるスコッチがスコットランドに160蒸留所があることを考えても、日本の蒸留所の多さは群をぬく。世界でジャパニーズウイスキー熱が高まるなか、日本で培われた発酵や蒸留の技術力をウイスキーづくりを通じて世界に伝えるべく、この市場で勝負をかける焼酎蔵が相次いでいる。今回は「火の神蒸溜所」を訪ねた。【特集 ニッポンのSAKE】
最南端の蒸留所から日本のウイスキーの可能性を追求したい
2023年、火の神蒸溜所でウイスキー事業を開始したのが本格焼酎のパイオニアであり、「さつま白波」で知られる薩摩酒造。九州の地酒であった焼酎を全国に広げた功績を持つ薩摩酒造は、そのチャレンジ精神を持って、世界の蒸留酒へと挑む。場所は本土最南端である枕崎だ。
「温暖な気候でありながら、冬は降雪があるなど、複雑で多岐にわたる気象条件がある枕崎では、熟成は豊かにダイナミックに進みます。この地理的な条件は強みになると信じています」と語るのは、取締役マーケティング本部長の本坊直也氏。
敷地内にはモルトウイスキーの蒸留器2基に加え、国内では少ないグレーンの連続式蒸留器も持つ。
「糖化や発酵、仕込み温度などは、長年の焼酎づくりの技術が活かせるところです」とチーフディスティリングマネージャー兼ブレンダーの松嵜聖彦氏。
蒸留器はわたりが長く、細くて上にとられたランタン型を設計した。グループ企業であり、ウイスキーづくりを長年行ってきた本坊酒造の知見を取り入れながら、グループのどの蒸留所とも違う形状にし、ここだからこそできる新たな酒質を狙う。
また、樽熟成が8割ともいわれるウイスキーづくりにおいて、火の神蒸溜所の強味はクーパレッジ(樽工房)を持つところだ。現在、樽職人であるクーパーは3名。蒸留所内に2003年、焼酎蔵では稀有なクーパレッジを設置し、これから新しいお酒をつくっていこうと決意した薩摩酒造の想いは、ウイスキー製造において花開いた。
「お酒をつくる事業を行うなかで、他のお酒から学ぶことは多いと思います。まずは国内のウイスキーファンに愛されるウイスキーをつくり、世界に打ち出していきたい」(本坊氏)
鹿児島には8蔵存在するウイスキー蒸留所。日本の蒸留酒づくりで培った技術は、世界の蒸留酒の土俵でいかに評価されていくか。ジャパニーズウイスキーの新時代は、まだ始まったばかりだ。
火の神蒸溜所
2036年に創業100周年を迎える薩摩酒造。ものづくりの可能性に挑戦し続ける想いから、2023年にウイスキー醸造に着手した。モルトウイスキーに加え、グレーンウイスキー、クーパレッジ(樽工房)を備えた数少ない蒸留所。
住所:鹿児島県枕崎市火之神北町388
TEL:0993-72-7511
この記事はGOETHE 2024年1月号「総力特集: ニッポンのSAKE」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら