ビジネスは闘いだ。百戦錬磨の男たちは何を心の拠り所としてきたのだろうか――。9人の勝負師のパワーアイテムから、仕事との向き合い方を知る。今回は、フラワーアーティストの東 信(あずままこと)氏に話を聞いた。【特集 勝ち運アイテム】
ウイスキーもフラワーアートも、どちらも時間の芸術
売れ残った花が大量に廃棄される従来のフラワーショップへの疑問から、“花屋なのに花がない”オートクチュールの花束専門店「ジャルダン・デ・フルール」を2002年にオープン。“植物彫刻”と評される独創的な作品群や、成層圏への花束の打ち上げなど、植物による表現の可能性を追求した活動で、世界的な注目を集めるフラワーアーティストの東 信氏。
世界の名だたる美術館やアートギャラリーを舞台にした活動の他、ビッグメゾンとのコラボレーションも数多く手がけ、2016年には世界各地を巡り人々に花と希望を届けるプロジェクト「フラワーショップ希望」もスタートさせた。
「先週までは中国で、その前はアムステルダム。1年の半分以上は海外にいますね」
そう話す東氏のクリエイションの源となっているのが、仕事終わりに飲むウイスキーだ。
異国での1日の締めに欠かせないウイスキー
選ぶのは決まってグレンモーレンジィ。スコットランド北部の海沿いの街で、1843年に創業したグレンモーレンジィ蒸留所でつくられるシングルモルトウイスキーだ。
「スコットランドで最も背の高いポットスチルで蒸留されるグレンモーレンジィは、芳醇な柑橘系の香りが特徴的ですが、花々を思わせるフローラルなニュアンスも感じられます。ヨーロッパや米国、中国などでも人気のあるウイスキーで、バーに行けばたいていは置いてある。1日の締めくくりに、世界のどこにいても飲めるところも気に入っています」
元々ウイスキー好きだった東氏が、グレンモーレンジィに深く魅了されることになったのは、2020年に行われた同ブランドとのコラボレーションがきっかけ。その過程で実際に蒸留所を訪ね、スコットランドの風土やそこで暮らす人々の素朴さ、蒸留所で働く人々のものづくりにかける情熱に触れた。
ウイスキーはよく“風土の酒”といわれる。
「この風土がこの味わいを生むのかといった発見もありましたし、何よりグレンモーレンジィの最高蒸留・製造責任者であるビル・ラムズデン博士のパンクな精神に共感した。彼は180年も続くブランドの伝統を守りながらも、留まることなく挑戦を続けています。その姿勢はアーティストそのもの。何度も飲み交わすうちに、友人ともいえる存在になりました」
樽の中で数年から数十年かけて熟成される原酒と真摯に向き合うウイスキーづくりに対し、東氏は短い花の命と真摯に向き合いながら、植物の美しさを芸術へと昇華させてきた。
「ウイスキーもフラワーアートも、ある意味ではどちらも時間の芸術。ウイスキーの可能性を広げる挑戦を続けるグレンモーレンジィを飲むことで得られるインスピレーションは、自分自身の表現の可能性も広げてくれます」
2024年9月には、第二弾のコラボレーションとなる「グレンモーレンジィ 23年 by Azuma Mako
to」をリリース。業界では天才的なウイスキーメーカーとして知られるビル博士とともに、東氏が辿り着いたテーマは「森羅万象」だ。
「花だけでなく苔や木の皮、蜂の巣など、自然界のあらゆる生命や生態系の美しさを、200種類以上の草花を使った作品でボトルに表現しました。味わいも、さすがビル博士。都会のなかで自然の神秘を感じてもらえるような、素晴らしいものに仕上がっています」
それは、ふたりの魂が共鳴した特別なウイスキーであり、自然と時間のアートだ。
POWER ITEM |グレンモーレンジィのウイスキー
AZUMA MAKOTO Steps in History
26歳|東京で日本初のオートクチュールの花屋をオープン
29歳|ニューヨークでの個展を皮切りに、世界各地で作品発表を重ねる
33歳|実験的植物集団「東信、花樹研究所(AMKK)」を設立
43歳|The New York Timesにて各大陸を代表するフローリストに選出
この記事はGOETHE 2025年2月号「総力特集:仕事を極めたトップランナーたちの勝ち運アイテム」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら