ビジネスは闘いだ。百戦錬磨の男たちは何を心の拠り所としてきたのだろうか――。9人の勝負師のパワーアイテムから、仕事との向き合い方を知る。今回は、DDグループ代表取締役社長・グループCEOの松村厚久氏に話を聞いた。【特集 勝ち運アイテム】
眺めるたびに力が出て、諦めたくないと勇気が湧く
外食産業ほか、さまざまな事業を手がける、DDグループの松村厚久代表。業界では松村氏のファッションへのアディクトぶりは、つとに知られている。今回は深いネイビーのジャケットに赤と青のチェック柄のベストを合わせ、ボルドーのハットをひょいとのせた出立ちで登場。さらに蝶ネクタイ、ポケットチーフ、ピンブローチは赤で揃えるというこだわりぶりだ。
「赤と青。これは我がグループのコーポレートカラー。いざというお披露目の時や事業の節目を迎えた時、この2色をパワーアイテムとして纏ってきました。そうすることで、自分を鼓舞してきたのだと思います」
その松村氏が、さらなるパワーアイテムとして大切にしているのが、2020年の東京五輪の聖火リレートーチだ。全世界にダメージを与えたパンデミックにより、メモリアルなスポーツの祭典は延期に。さらにその間、外食産業を手がけるDDグループは、創業以来、類を見ない大打撃を受けていた。身も心もボロボロになっていた松村氏だが、いよいよオリンピック開催直前の2021年の夏、待ちこがれていた聖火リレーに参加した。
「本来は聖火を灯したトーチを高々と掲げて、江東区内を走る予定でした。ところが感染防止のために中止となり、品川区の公園にランナーが集まって『トーチキス』を行うことに。特別に設けられたステージにて、聖なる火を粛々と交わし合う。カタチは変わりましたが、それは感動的な瞬間でした」
そのイベントにて、松村氏はメディアに対してこんな内容の発言をしている。
「聖火リレーに挑むことで、病気を抱える人やコロナ禍で苦しむ人々に、挑戦することの大切さを伝えたいと思いました。重度の若年性パーキンソン病と闘う自分の姿を見た多くの人には、諦めない心と、勇気を忘れないで欲しいと願っています」
神は乗り越えられない試練は与えないから
コロナ禍において、松村氏がその未曾有の危機をどう闘い抜いたのかは、著書『熱狂宣言2 コロナ激闘編』に詳しい。外食産業に命を燃やしてきた松村氏は、その火を決して絶やしてはならないと、聖火という炎に熱い想いを注いだのだ。
ちなみに、聖火リレーのトーチキスを終えた松村氏は、なんとそのままのユニフォーム姿で、このトーチを抱えて、丸2日間、街から街へと出歩いていたのだそう。
「昼間はユニフォームのまま仕事して、夜は知り合いのパーティーに呼ばれたり、自分のお店に顔を出したり、六本木や新橋を朝まで練り歩いていましたね。待ちに待ったオリンピックがとうとう開催される! 僕もみんなも、街全体が世紀の興奮に包まれていた。そんな記憶があります」
この聖火リレートーチはデザイナーの吉岡徳仁氏が手がけたもので、俯瞰で見ると桜の花の形をしている。それは福島県の被災地の子供たちと桜の絵を描いたことがきっかけで、復興への想いや希望が込められているのだとか。
「今まで多くの危機があったけれど、神は乗り越えられない試練は与えないっていうでしょ? 僕はいつも禍いが過ぎ去ったあとは『大したことなかったな』って思うようにしてる。『いろいろあったけどさ、忘れちゃったよ』って(笑)」
そう笑顔でうそぶくが、DDグループが見事にV字回復を果たした今、この桜の花咲くトーチが、今後もきっと自身をエンパワーメントしてくれるに違いない。
POWER ITEM 1|2020東京五輪の聖火トーチ
POWER ITEM 2|赤と青のファッションアイテム
ATSUHISA MATSUMURA Steps in History
28歳|日焼けサロンで独立
34歳|銀座に「VAMPIRE CAFE」開店。翌年、ダイヤモンドダイニングに商号変更
43歳|100店舗100業態を達成する
48歳|東京証券取引所一部(現・東証プライム)に上場
57歳|パンデミックの危機を乗り越え、V字回復を果たし、過去最高益を記録
この記事はGOETHE 2025年2月号「総力特集:仕事を極めたトップランナーたちの勝ち運アイテム」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら