ビジネスは闘いだ。百戦錬磨の男たちは何を心の拠り所としてきたのだろうか――。9人の勝負師のパワーアイテムから、仕事との向き合い方を知る。今回は、サッカー解説者・監督の槙野智章氏に話を聞いた。【特集 勝ち運アイテム】
髪型は自分の闘争心を表現するためのもの
トレードマークである七三ツーブロックヘアをジェルでしっかり固める時、槙野智章氏の勝負のスイッチは入る。
「僕にとって髪型は、自分の闘争心を表現する大事なものだと思っているんです」
10代の頃は赤髪のモヒカンや長髪など、さまざまなヘアスタイルでピッチを駆け巡った。現在の髪型に行きついたのは、ドイツ・ブンデスリーガの1.FCケルンに在籍していた2011年頃からだという。
「欧州へ来て出場機会がほとんどない、これまでのように常に見られているという状況ではないからこそ、サッカー選手が誰もしていないような新しいヘアスタイルにして自分の闘争心を表現しようと思ったんです」
ユース時代から日本代表として活躍、ドイツへ移籍するまでは、サンフレッチェ広島で圧倒的レギュラーとしてJリーグのすべての試合に出場してきた。出場機会に恵まれないという経験は、それまでのサッカー人生で初めてのことだった。
「試合に出ない間、どうやって心と身体のコンディションを保ち、闘争心を燃やし続けるのか。サッカーというものに向きあう、とても重要な時間でした」
この時に完成したヘアスタイルは、2018年のロシアW杯後に世界中で注目される。「最もクールな髪型の選手」としてイタリア『GQ』誌の誌面をクリスティアーノ・ロナウド氏とともに飾ったことをきっかけに、自身でヘアジェルのブランドHALTENを立ちあげた。
「どうせなら自分のジェルをつくりたいなと。こだわったのは香りです。僕は大好きなシャネルの香水『エゴイスト プラチナム』の香りをいつも手のテーピングに染みこませていて、試合中熱くなりすぎてしまいそうな時に嗅いでいました。その香水に近い香りをジェルにも使用することで、試合中の気分を落ちつかせることができるんです」
しっかりと固まるのでヘディングをしても崩れず、髪が視界を邪魔することもない。試合に、そして仕事に100%集中するための理想のジェルとなった。
「現在もテレビ出演の前にこのジェルで髪をセットすると、戦いが始まる、という感覚になります。これまでの人生でサッカーしかやってこなかった僕がテレビのバラエティでさまざまな体験をさせてもらっている。新しい場所に飛びこんだのですから、今も毎日が勝負なんです」
自分に矢印を向けなければ勝負はできない
現役時代から勝負前のゲン担ぎも多かったという槙野氏。ジェルで髪をセットする以外にも今も続けている勝つためのルーティンがある。
「仕事でホテルに宿泊する時は、チェックアウトの際に部屋を綺麗に整えること。僕は現役時代、試合前日は遠征地でなくても必ずホテルに泊まって気持ちと身体を集中させるのが習慣でした。ホテルを去る時、部屋を掃除することで、感謝の気持ちを示しつつこれから始まる試合に向けて気持ちを整える。これはクセで今も続けています」
現在は社会人リーグの品川CC(カルチャークラブ)の監督としても手腕を振るい、夢である指導者への道を進んでいる。
「自分はちゃんとやれているのか、甘えていないか。常に自分自身に厳しく矢印を向け続けなければ勝負はできない。現役時代から今も、そういう気持ちで試合に、そして仕事に挑んでいます」
常に闘争心の矛先を自分自身に向け続けてきた。今日もジェルで髪を固め、勝負の場所へ向かう。
POWER ITEM|HALTENのヘアジェル
TOMOAKI MAKINO Steps in History
23歳|ドイツ・ブンデスリーガ1.FCケルンへ入団。夢だった欧州リーグへの挑戦
31歳|FIFAワールドカップにポーランド戦で初出場。日本代表史上最年長でのW杯デビューを果たす
35歳|浦和レッズ、ヴィッセル神戸でのプレイを経て、現役引退。指導者への道を進むことを決断
37歳|日本サッカー協会指導者ライセンスのA級ライセンスを取得。品川カルチャークラブの監督に就任
槙野さん着用衣装:シャツ[参考商品]、ベルト¥42,900、パンツ¥352,000[ジャケットとセット価格](すべてエンポリオ アルマーニ)、ネクタイ¥26,400(ジョルジオ アルマーニ/すべてジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03-6274-7070)
この記事はGOETHE 2025年2月号「総力特集:仕事を極めたトップランナーたちの勝ち運アイテム」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら