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2025.01.01

「チャレンジとギャンブルは違う」黒田剛は、どんな時に、どういう風にリスクをとれと話しているのか【町田快進撃の秘密⑦】

常勝軍団、青森山田高校からFC町田ゼルビアの監督に転じ、わずか1年でJ2からJ1に昇格、そして2024年J1での大躍進させた名将、黒田剛監督。著書『勝つ、ではなく、負けない。』の刊行記念トークイベントで太田宏介氏と対談した連載7回目。【連載をすべて読む】

黒田剛/Go Kuroda
1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業勤務等を経て、1994年、青森山田高校のコーチとなり、翌年教員、そして監督に就任。以降、全国高校サッカー選手権26回連続出場、 同大会を含む計7回の日本一という偉業を達成する。2023年、FC町田ゼルビア社長、藤田晋氏に請われ、同チームの監督に就任。2023シーズンの優勝、J1昇格に導く。

「もう一度応援してもらえるチームに」という想いで奮起

寄せられた質問のひとつが、J1~J3まで全60チームの頂点を決める「2024年JリーグYBCルヴァンカップ」プライムラウンド準々決勝について。FC町田ゼルビアは、アルビレックス新潟と対戦。9月4日に行われたアウェー戦では0-5で敗戦、トークイベント当日の9月8日、ホームで行われた試合は2-0で快勝したものの、得失点差で惜しくも準決勝進出を逃した。

質問者 昨日は、心を揺さぶられる、素晴らしい試合を見せていただきました。だからこそ、1回戦目の、あの屈辱的というか、悔しい敗戦の後、黒田監督が選手たちにどんな話をしていたのかが気になっています。

黒田 ありがとうございます。まず、こういう質問があったということ、すごく良い試合をしたら、サポーターのみなさんもそれを感じ取ってくださるということを選手たちに伝えたいです。

(どちらの試合も)同じトレーニングをしてきて、我々も同じことを落とし込んでいたつもりではありますが、やっぱり想いがなければ、こんなにも違うサッカーになってしまうんだということを実感し、我々にとってすごく良い勉強になりました。何か邪念が入っていたり、他のことに気を取られて、トレーニングしてきたことが散漫になり、集中できないということで、これほどパフォーマンスに差が出てしまう。0-5という屈辱を、選手たちがどう捉えるかによって、次の一歩に繋がるんだという……。

あの日(9月4日)、現地に150名のサポーターに来ていただいて、「オレたちは負けないぞ」「ずっと応援し続ける」という声を聞きました。あの声に、(選手たちが)何も感じないような、そんな心無いマネジメントはしてこなかったと、私は思っているんですよね。

だから今日の試合は、ここで奮起し、ずっと勝てなかった新潟(リーグ戦は1敗1分)を一掃してやるんだ、無失点で勝つんだというね。今まで応援してくれた、でも今、「この先ゼルビアは大丈夫なのか」という不安を感じているサポーターに、もう一度希望を持ってもらうためには、こういう試合をしなきゃダメなんだという想いを、成功するか失敗するかわからないなんてそんなことじゃない、とにかく“想い”をプレーで見せてくれと、伝えました。

みんなの心がひとつになって、トレーニングの時から頑張ってくれて、それで昨日のあの試合になったわけですが、やっぱりそれは、「サポーターにもう一度応援してもらえるチームになろう」という想いが、選手たちの心に火をつけたんじゃないかと思います。

太田宏介/Kosuke Ota
1987年東京都生まれ。ジュニアユース年代をFC町田(現・FC町田ゼルビアジュニアユース)で過ごし、2006年、横浜FCでプロデビュー。その後、オランダのSBVフィテッセやFC東京など国内外のチームを経て、2022年、FC町田ゼルビアに加入。2023年のJ1昇格に貢献し、現役を引退。現在、チームのアンバサダーとして宣伝担当を担い、解説やサッカー教室など幅広く活動する。

チャレンジはしてもギャンブルはしない

次の質問は、「リスクのとりかた」について。

質問者 黒田監督のこれまでのインタビュー記事を見て思うのは、リスクは排除して確実性をとることを重視されているということ。ただ、サッカーはチャレンジすることも必要なスポーツなので、どんな時に、どういう風にリスクをとりなさいと、選手たちに話しているのかを知りたいです。

黒田 そうですね。まず、選手たちには、リスクとはなんぞやという概念から話していかなくてはいけないと思っています。

よく言うのは、ギャンブルとチャレンジの違いを見極めろということ。チャレンジとは、みんなが共有し理解しているもの。だから、たとえミスが起こったとしても、みんなでカバーができる。それに対してギャンブルとは、自分本位で何かをしてしまって、誰もカバーできず、失点につながってしまう。まずこの大きな違いを知ることですね。

ギャンブルではなく、チャレンジであれば、いくらでもしろと思っています。その代わり、みんなで共有したことをチームとしてやっていく。そのためには、自分勝手(な振る舞い)とかそういうものは排除していかないと。

例え話としてするのが、みんなから1万円を集めてパチンコに行ったとしても、みんなが、「お前はツキがあるから、これで勝負してきてくれ!」と期待されてやったのなら、負けて帰ってきても、誰もが笑って文句は言わないけれど、断りなく、勝手にパチンコに行って負けてきて、みんなから1万円回収したい、なんて言っても誰も許さないという話。

つまり、「自分でいいと思ったことをやってみろ。オレたちがいるから大丈夫だぞ」と、みんなが送り出したのなら、たとえ失敗したとしても、それはチャレンジ。で、チャレンジは必ず根拠があるから、ミスしたとしても、「次はこうやったらうまくいく」と、その先につなげることができる。でも、ギャンブルは、その人が自分勝手な発想でやっているものだから、誰も救えないし、次も同じ失敗を繰り返すことになるかもしれない。

だから、チャレンジはいいけれど、ギャンブルはいけないよねと、いつも選手には話しています。

※8回目に続く【連載をすべて読む】

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TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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