パフォーマーとして、そして俳優として。悦びも葛藤も静かに噛み締めながら、岩田剛典は未来への「時」を刻み続ける。【特集 時計をつける悦び】

岩田剛典が織りなす、 時を巡る悦び
精緻に刻まれる秒針のリズムは、時に記憶を揺り起こし、心を整える静かな力となるものだ。手首に収まる時計は、それらを如実に宿し、過去と未来をつなぐ導線ともなる。岩田剛典はグループの核を担うアーティストとして、そして俳優として、多彩な表現を磨いてきた。メゾンの最新時計を装着し、名機たちが放つリズムをダイレクトに感じながら、彼は今、来たるべき「時」をどのように歩もうとしているのだろうか。
「時計は、俳優として光栄な賞をいただいた際の記念品だったり、祖父の形見として譲りうけたものだったりと、人生の節目と重なる1本がいくつか手元にあります。身につけるのは、人に会う時や、ドレスアップする時など、気持ちを切り替える特別な場面が多いです。自分の内面を整える、ささやかなお守りのような存在とでもいうのでしょうか。年々、物欲は薄れてきていますが、この仕事が終わったらこのモデルを買いに行こうといったふうに、モチベーションを喚起する存在でもある。そんなところも時計というアイテムの魅力だと思っています」
多忙でせわしない日々を送るなかでも、自分で自分の機嫌を取る方法を知っている人間は強いもの。岩田にとって珠玉の1本と向き合う瞬間は、大きな山を越えるたびに自らの手で引き寄せる、確かな達成感でもあるようだ。

初めての“情けない”役柄もフラットな気持ちで挑めた
現在公開中の主演映画『金髪』は、これまでの岩田剛典のイメージを覆す「イタい中年予備軍」を体当たりで演じた異色作だ。自身初となる「情けない役」として挑んだのは、一見すると爽やかで生徒に慕われる先生──かと思いきや、実際は若手でもベテランでもない年齢で、自分の立ち位置を見失いながら足踏みする中学教師。「情けない先生の役なんですけれど、人間味があって、僕は大好きなんです」と岩田本人が語るように、見栄や照れを脱ぎ捨てた演技が、リアリティと共感を呼び起こす。教師のブラックな職場環境や暴走するSNSといった現代の社会問題を背景に、生徒たちに振り回されながら成長していくその姿に、どこか自分を重ねてしまう観客も少なくないだろう。
「この作品のお話をいただいた時、まずは脚本がすごく面白くて。こういうのを演ってみたかったなと思えたのが一番でした。坂下雄一郎監督は言葉は少ないのですが演出が的確で、僕自身もフラットな状態で現場に挑むことができました。台詞回しは大変でしたけれど、本当に楽しく取り組めた作品ですね」
噛みしめる孤独こそが生の実感、そのもの
岩田剛典は、ストイックな仕事ぶりでも知られている。文武両道でルックスも爽やか。名門大学を卒業し、さまざまな選択肢があるなか、それらを辞してエンタテインメントの道へ飛びこんだのは、すでに広く知られているところだ。けれど、才能や資質だけで渡っていけるほど、この世界は甘くはない。厳しい環境のなかで、第一線に身を置き続けてきた15年。その時間のなかで、彼は仕事にどんな「悦び」を見いだしてきたのか。
「一番は自分が携わった仕事が世に出て、なにかしらの評価を得られた時ですね。加えて、これまでの経験値をすべて注ぎこみながら、成功するか失敗するかもわからないような。そんな不確かで緊張感のある場面が実は最も楽しいかもしれません。いうなれば、苦しみやプレッシャーを抱えながら噛みしめる『孤独』こそが、今の自分にとって生きているという実感そのものだったりします」
三代目J SOUL BROTHERSというグループの一員として、ボーカルふたりを支える立場でもある任務を完璧に全うしてきた。だからこそ、俳優など個人の活動では、取捨選択の自由を最大限に活かし、自分なりの表現を研ぎ澄ます。その先にある手応えを見据えながら、岩田は自身の道をしなやかに切り開いているかのようだ。
「やはりいつかは海外に挑戦して、自分が携わった作品を、異なる文化のなかに届けたいという想いがあります。日本とはまったく違うフィールドで活動している方々の姿に刺激を受ければ受けるほど、どこか劣等感のような感情も芽生えるんです。もともと不器用なタイプですが、だからこそ丁寧に、一歩ずつ。悦びを重ねながら、これからも自分らしい時間を刻んでいけたらと思っています」
節目ごとに手にした時計のように、岩田剛典はこれまでの時間を、自分自身で着実に積み重ねてきた。成功も孤独も、悦びも挑戦も。そのすべてが今の彼を形づくる糧となり、その手にはまた新たなリズムが宿る。岩田剛典は、次の一歩に向けて、確実に歩みを進めている。
岩田剛典/Takanori Iwata
1989年愛知県生まれ。2010年に、三代目J SOUL BROTHERSのメンバーとしてデビュー。2021年にはソロアーティストとして始動。俳優としても多くの話題作に出演し、第40回日本アカデミー賞では新人俳優・話題賞を獲得。現在、主演映画『金髪』が絶賛公開中。
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