放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、「エバース」「ヨネダ2000」をはじめ、多くの教え子を2025年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「29歳のエンジニアです。年初めに立てた目標を達成できず、人間って変われないなぁ……と、沈んでしまいます。うまく変われないときは、どのように考えていけばよいのでしょうか?」という相談をいただきました。
キャリアアップする、資格を取る、お金を増やす、パートナーをつくる……など、1年前に目標を立てたのは、「変わりたい」と思ったから。
でも、いつも現実は青写真から外れ、「変われない自分」をなじってしまう。年末はそんな気持ちになる人も増えますよね。
実は、ポジティブに見える芸人さんたちも、「売れた・売れていない」が明確に線引きされてしまう稼業なので、うまく現状を変えられない自分にモヤモヤする人が多い世界でもあります。
そこで今年最後のコラムは、僕が1万人の教え子に伝えてきた、「なかなか変われない自分との向き合いかた、考えかた」を、シェアしていきたいと思います。
「変われた」の正体は「変わりたいと思ったとき」です
まず、私たち人間が「変わる=成長するとき」とは、いつのことを指すでしょうか?
「目標を達成したとき→変われた」、「達成できなかったとき→変われなかった」と捉える人は多いと思いますが、僕の考えはちょっと違います。
目標が叶わなかったという「結果」だけを拡大すれば、あなたの感情は、世間の言う「人間はかんたんには変われない」という常套句へと向かっていきます。
しかし、現状を打破しようと思い立ち、心の中で「変わりたい」という感情が芽生えたときも立派な「成長」。つまり「変わった」でもあるのです。
例えば、「もしかして、自分って性格がキツいかも」と気づき、「やさしくあろう」としたけど、やがて忘れてしまい、また誰かにキツく当たってしまったとします。
結果は「変われなかった」ですが、僕に言わせれば、本当にヤバい人は「自分って性格キツいかも」とさえ思わないし、気づくこともありません。
ふと立ち止まり、「やさしくあろう」とした時点で成長。以前とは「変わった人」とも言えるのです。
拙著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』の中でもふれましたが、吉本NSCに「滑舌がよくならない自分」を責めていた生徒がいたので、僕はこう伝えました。
「窓の外を見てごらん。たくさんの人が歩いているけど、滑舌をよくしたいと思っている人は何人いるだろう? ほとんどの人は気づいてさえいないよ。君は、芸人になるために上京して、漫才に挑戦しているからこそ、自分の滑舌の弱点に気づき、向き合っている。その時点で変われているんだよ」と。
そのときの彼の笑顔は今でも忘れませんし、その後、彼の滑舌はどんどん改善されていきました。
大切なのは、「変われない」と捉えるか、「変わっている過程なんだ」という思考を手に入れるかなんですね。
変わるコツは「変わらないもの」を中心にそえる、です
では、「理想の自分」に変わっていくためには、他にどのような思考をすればいいのでしょうか?
僕は生徒たちに“「変わりたいこと」があるなら「変えないもの」を自分の中心にそえてみよう”とも伝えてきました。
誰にでも、簡単には変えられないものがあります。生年月日、父母、出生地、身長、利き腕などはもちろん、芸人さんなら、笑いのツボ、声量、身体能力、ニン(人柄や個性)などがあります。
豊かに変化していく人は、この自分にとって変わらないもの、言い換えると「ゆずれないもの」を中心にそえて、周りにあるものだけを変えていく思考があるのです。
例えば、俳優の菅田将暉さんは、かつて舞台でのすべての演技を全力でやっていたそうです。
すると、名演出家の蜷川幸雄さんから「すべて全力だとお客さんは疲れるよ。引くところをつくりなさい」と言われ、“「引くところ」と「出すところ」を分けてみたら、評価が倍くらい上がった”んだそうです。
僕はこの話を聞いて、きっと菅田さんは、自分のパーソナルや特性と向き合い、「変えるもの」と「変えないもの」を仕分けできたんだろうな。だから成長したんだろうなと思いました。
変わりたいと考えている方、新年の目標を立てる方は、自分の「変わらないもの」「変わらなくていい個性」にも目を向けてみてください。
今年もお付き合いいただきありがとうございました。
ではまた来年、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中!
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