2025年のホームラン王になるか!? チームを首位独走に導く、阪神・佐藤輝明がスターとなる前夜に迫った。

単独リーグトップ、月間9本塁打
藤川球児新監督を迎えて2年ぶりのリーグ優勝、日本一を目指している阪神。宿敵である巨人に開幕から5連勝を記録するなど首位争いを演じているが、打線を牽引する活躍を見せているのが佐藤輝明だ。
開幕戦の第1打席でいきなりマツダスタジアムのライトスタンドに叩き込むと、その後のホームランを量産。ここまで両リーグでトップとなる9本塁打、セ・リーグ2位の23打点と見事な成績を残しているのだ(2025年4月28日終了時点)。
阪神ジュニアに選ばれるも大学まで目立たず
そんな佐藤は、小学校6年で年末に行われている12球団ジュニアトーナメントで阪神タイガースジュニアにも選出されているが、その後は決して有名な選手だったわけではない。
仁川学院では2年から中軸を任されていたものの、3年夏の兵庫大会ではチームは初戦でコールド負けを喫しており、スカウトの間からもその名前が聞かれることはなかった。
素質の片鱗が見られたのは大学入学後のことである。
筆者が初めて佐藤のプレーを見たのは1年春のシーズン、2017年5月12日に甲子園球場で行われた京都大との試合だった。
1年生ながら5番、レフトで出場すると、1対0で迎えた6回の第3打席に先頭打者としてライト前ヒットを放ち追加点を演出。チームの勝利に貢献している。当時の試合を記録したメモには以下のように書かれている。
「1年生ながら体格の良さはチームでも随一。
まだトップの形が不安定で、体の“割れ”も不十分に見えるが、それでもインパクトの強さは目立ち、打球音が一人だけ違う。良くも悪くも外国人選手のような雰囲気。
脚力もあり、上手く角がとれて柔らかさが出てくれば面白い」
1年春のシーズンは0本塁打に終わっているが、1年秋以降はホームランを量産。2年春から3季連続で打率3割以上も記録し、この頃から佐藤の名前はスカウトや関係者の間から頻繁に聞かれるようになった。
ホームランに、スタンドから思わずどよめき
そして強く印象に残っているのが2年秋に出場した明治神宮大会の対筑波大戦だ。
0対0で迎えた4回の第2打席。佐藤の打ち上げた打球は平凡なレフトフライに見えたが、そのまま落ちることなくレフトスタンドへ着弾する先制ホームランとなったのだ。
この日の佐藤のプレーについては以下のように書かれている。
「昨年と比べてもしっかりトップの形を作れるようになり、フルスイングの迫力は明らかにアップしたように見える。まだ少しステップの動きが淡白なのは課題で、なかなか自分のポイントでとらえられない。
それでも差し込まれたような当たりが逆方向にホームランになるパワーは尋常ではない。タイミングのとり方に余裕が出てくればもっと怖い打者になる」
この佐藤のホームランに、スタンドの観客からは思わずどよめきが起こり、打たれた筑波大のエースの村木文哉(元ヤマハ)も驚きの表情を見せていたのをよく覚えている。当時からパワーは規格外のものがあったことは間違いないだろう。
プロ入り後に極度の不振に
ただ大学時代の佐藤もすべてが順風満帆だったわけではない。
紹介したホームランと話は前後するが、2年時に出場した大学日本代表としての国際大会では5試合でわずか1安打に終わり、力を発揮することができなかった。
また、リーグ戦でも3年秋のシーズンは厳しいマークもあって打率は1割台と低迷。それまでの実績があったため、12月に行われた大学日本代表候補合宿には招集されていたが、その時のフリーバッティングや紅白戦でも明らかに打撃の形が定まっていないように見えた。
4年春のシーズンは新型コロナウィルス感染拡大の影響でリーグ戦も中止になっている。3年秋の成績が悪かっただけに、佐藤の実力を懐疑的に見る声があったことも確かだ。
しかし4年秋のシーズンには10試合で3本塁打、11打点と復調。最終的には4球団が1位で競合するという高い評価でのプロ入りとなった。
プロ入り後もルーキーイヤーからいきなり3年連続で20本塁打以上を放ったが、2024年は開幕から極度の不振に苦しみキャリア最少となる16本塁打に終わっている。しかしそこから2025年のホームラン量産につなげられたのは大学時代の経験があったからではないだろうか。
2025年の佐藤の打撃を見ていると三振を恐れずに自分の持ち味であるパワーを最大限生かせているように見える。
このまま順調にいけば初のホームラン王も見えてくるはずだ。今後のシーズンでもその豪快な打撃でファンを熱狂させてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。