プロ野球新記録となる43試合連続無失点を達成。阪神のリリーフ右腕・石井大智がスターとなる前夜に迫った。

セ・リーグ首位を支える鉄壁リリーフ陣の要
2年ぶりのリーグ優勝に向けてセ・リーグの首位を快走している阪神。投打ともに充実の戦力を誇るが、リリーフ陣の中心として圧倒的な存在感を放っているのが石井大智だ。
2025年4月4日の巨人戦で1失点を喫したものの、その後は安定したピッチングを続け、8月17日の巨人戦で40試合連続無失点のプロ野球新記録を樹立したのだ。
続く8月19日の中日戦でも無失点を継続。ここまで46試合で防御率0.20、7セーブ、32ホールドという驚異的な数字を残している(2025年8月26日終了時点)。現役のセットアッパーでは屈指の存在と言えるだろう。
無名の高専野球から独立リーグへ
そんな石井だが、アマチュア時代は決して早くから評判だった選手ではない。
中学時代は同学年に成田翔(元ロッテ、ヤクルト)がいたこともあって内野手としてプレーすることが多く、高校は5年制の秋田高専に進学。当時はプロ野球に進むことなど全く考えていなかったという。
高校野球の3年間では目立った成績を残しておらず、3年夏も秋田大会の2回戦で敗れている。しかし中学時代のチームメイトである成田が秋田商からプロ入りしたことに刺激を受けて、4年生以降もトレーニングを継続。高専卒業後に独立リーグの高知ファイティングドッグスに入団した。
プロ入りを決めた“コロナ禍の挑戦”
そして迎えた2020年。この年は新型コロナウィルス感染拡大の影響でリーグ戦の開幕も危ぶまれる状況だったが、ドラフトで指名が見送られる悔しさを経験した石井は、それでもオフの間に課題の制球力を改善。スピードもさらにアップしてプロのスカウトからの評価を上げることとなる。
実際に石井のピッチングを見ることができたのは2020年9月12日に行われた徳島インディゴソックスとの試合だった。先発を任された石井は2回に3本のヒットを浴びて2点を先制されたものの、その後は粘り強いピッチングを披露。味方の援護がなく負け投手とはなったが、6回を投げて9奪三振、四死球0で自責点2と試合を作って見せたのだ。
当時のノートには石井のピッチングについて以下のようなメモが残っている。
「上背はない分、体の使い方が大きく、どうしてもテイクバックで右肩が下がる動きは気になる。しかしリリース時にはボールをしっかり抑え込むことができており、ボールの角度は素晴らしいものがある。
ストレートは常時140キロ台中盤で、力を入れれば後半に140キロ台後半まで加速(最速149キロ)。フォームの躍動感も十分で、ストライクゾーンで勝負できる。
変化球では縦に鋭く落ちるシンカーと、小さく横に滑るカットボールが目立つ。特にシンカーはストレートと同軌道から打者の手元で沈み、空振りを奪える球だ。
カーブとスライダーはそこまで目立つボールではないが、コントロールは悪くなく、カウント球として使える。
(中略)
短いイニングであれば、もっとスピードアップしそうな雰囲気は十分。年齢的に23歳だが大学生、社会人の候補と比べてもまったく遜色ない印象」
この年の石井は勝敗、防御率は前年と大きく変わらなかったものの、与えた四死球の数は半数以上になるなどコントロールが大きく改善。その結果、最終的には8位という順位となったが、支配下でのドラフト指名を勝ち取って見せたのだ。
コロナ禍における難しい環境のなかでも課題をしっかり解決したことがプロ入りに繋がった大きな要因と言えるだろう。
球界屈指のセットアッパーへ
プロに入ってからも1年目は苦しんだものの、2年目からは成績を上げ、2023年はチームのリーグ優勝、日本一にも大きく貢献し、今や球界屈指のセットアッパーへ。プロ入り後もあらゆる面でレベルアップしていることは間違いない。
ちなみに、過去のNPB記録では、シーズン50試合以上登板した投手の最少防御率は2011年の浅尾拓也(中日)の0.41。石井の今季ペースなら、その記録を更新する可能性も十分にある。今後も新たな記録を打ち立ててくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。