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2024.09.21

「強い組織をつくるキモは、中間管理職」ロッテ吉井理人の人身掌握術とは

現・千葉ロッテマリーンズ監督の吉井理人が就任1年目だった2023年に、監督とは何かを考え、実践し、失敗し、学び、さらに考えるという果てしないループから体得した、指導者としてのあり方。選手が主体的に勝手に成長していくための環境を整え、すべての関係者がチームの勝利に貢献できる心理的安全性の高い「機嫌のいいチーム」をつくることこそが重要だと、吉井氏は説く。プロ野球の世界とビジネスの世界に共通する、「強い組織」に必要なリーダーの姿とは。『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】

夕日と男性
Unsplash / zoltan-tasi-0khu ※画像はイメージ

現場のコーチを生かす

選手の社会人力を育成するのも、監督の担う役割だ。自分が今何をしなければならないかを考え、それを実行して勝利すれば、さらに物事を積極的に考えるようになる。

社会人力の基本は、物事を深く考えることが起点になる。負けてしまうと、自分が考えたことが正しかったのかと不安になり、思考が停止する。考える習慣をドライブさせるためにも、勝利が必要だ。勝利と育成が両輪であることは、ここでも証明される。

では、どのように育成するのか。

これは、選手個々のレベルによる。ピッチャーの場合、数多くの試合でマウンドに立ったほうが成長するピッチャーもいれば、試合で投げるよりまずは基礎体力を鍛え上げたほうがいいピッチャーもいる。それは一人ひとりをじっくり見るしかない。

監督ひとりだけでは目が届かない。技術コーチ、マッサージを選手に施すトレーナー、トレーニングを見るストレングスコーチの目も必要だ。加えて、客観的なデータも助けになる。

ホークアイというシステムは、選手の動きを超スローで見ることができるため、細かい動きを確認するのに役立つ。トラックマンはピッチャーが投げたボールの回転や質、打者が打ったときの打球の速度などを計測することができる。

選手は、基本的に自分に何が足りないのか正確に把握できない。監督、コーチからの指摘や客観的データを突きつけられたとき、選手によって反応が大きく異なる。何が何でも一軍に残りたい思いは、すべての選手に共通する。しかし、伝えられたことを素直に受け取る選手と、嫌な顔をして聞いている選手がいる。

伝える側は事実を言うだけ。どんな態度をされようが構わない。決まったことには従わなければならない。それがプロの宿命だということも教えなければならない。一軍の枠には限りがある。どんなに調子が良くても入れないこともある。そうした不条理も、若いうちに叩き込まなければならない。

二軍行きを命じられたとき、悔しくて暴れるほうが選手として見込みがある。ほっとしたような表情を見せる選手は、一度落ちるとなかなか上がってこない。学生時代にレベルが飛び抜けているからプロになれるわけだが、プロには桁違いの選手がゴロゴロいる。お金や生活がかかっているので、プレッシャーは半端なものではない。その状況をはね除ける選手でないと、育成してもものにならない。

中間管理職を否定するような言い方はしない

育成は、長期で考える。基本的に、短期での育成や戦力化は考えていない。

ただ、選手によっては、長期の育成プランをシーズンごとに分解し、段階を踏むことは考えている。シーズンごとの段階を確実にクリアし、右肩上がりの成長曲線を描いてほしいと伝えている。その達成の先には、戦力として認識する。

スポーツは直接の対戦相手がいるので、育成は思い通りにはいかない。なかば「出たとこ勝負」のようなところがあり、結果を見て次の手を打つほかない。綿密な育成プランというより、大まかなプランを立て、その後の振り返りを重視しながら育成していく方針を取る。つまり「こうなるだろう」という見立てのもとに試合に使い、やらせてみて、結果が出て、それに対して教訓を引き出し、次に進む。

そうであればあるほど、すべての段階を監督ひとりで見ることは難しくなる。大きな役割を担うのが、監督と選手の間に位置するコーチである。

より選手に近い位置にいるコーチのほうが、選手の一次情報を拾うことができる。コーチからの一次情報と、監督の目から見た選手の状態との間にギャップがある場合、コーチからの一次情報を優先する。

ただ、2023年シーズンはさまざまな事情から、監督である私が直接選手から一次情報を引き出していた。これは、できれば避けたい。コーチから質の高い一次情報が上がってくるのが理想だ。私がやったのはコーチの役割を侵害することになるので、監督は我慢することが求められる。

これは、おそらくビジネスにも通じることだろう。

マネージャーが中間管理職の報告に疑問を持ち、直接一般社員と1on1などを始めてしまうと、中間管理職の面目が立たない。かといって、疑問も放置できない。その場合は、中間管理職との1on1でなぜ疑問を持ったのかを明らかにし、疑問を持たれない情報を拾うためのスキルを身につけるよう促していく。

その場合でも、中間管理職を否定するような言い方はしてはならない。

「それは違うだろ」
「ちゃんとしなさい」

そうではなく、マネージャーが考える方向に導くような質問を重ね、中間管理職が核心を突いたときに「そうしてください」と言う。つまり、一般社員に話をさせてほしいと事あるごとに伝え、そこでどのような質問をしたかを確認し、それが不十分であればもう少し突っ込んでほしいと話をする。

中間管理職が一般社員に問いかけている質問の質を確認するのだ。問題をずばりと指摘してしまうと、中間管理職のプライドは傷つく。質問が浅いと、選手が前に進めないことを重点的に伝えるのだ。

TEXT=吉井理人

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