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2024.03.26

誕生100周年「木彫りの熊」、ちょっと前からブームなの知ってる?

木彫りの熊が空前のブームというと、あの、鮭を口に咥えたあれ? って言われるかもしれないけど、ちょっと違います。尾張徳川家の殿様がスイスから持ち込んで、そこから始まる木彫り熊の歴史。個性と技術力に富んだ作家たちが見せてくれる様々な熊は知ってしまったら、必ず欲しくなる感じ。折しも2024年はその木彫り熊100周年なのだそうだ。■連載「アートというお買い物」とは

加藤貞夫の作品 八雲町木彫り熊資料館蔵

尾張徳川家第19代当主が北海道に持ち込んだ木彫り熊

少し前から、木彫りの熊が大変なブームになっていることに気づいていたのだが、北海道八雲町で最初の木彫り熊が発表されてから、2024年はちょうど100年目にあたるとのこと。そして、事後報告になって申し訳ないのだが、3月20日から26日まで伊勢丹新宿店であった「北海道の熊彫100周年記念『熊は100歳100祭』」に出ていた木彫り熊をいくつかお見せしよう。

八雲町というのは、たとえば函館から小樽方面に陸路で行く場合、必ず通る土地だ。というのも、太平洋と日本海という2つの海に唯一面している町が八雲町なのである。そもそも、明治維新の廃藩で職を失った旧尾張藩士を救済すべく、明治期初頭、尾張徳川家第17代当主、徳川慶勝(よしかつ)がこの北の大地に活路を見出した。

大正12年、尾張徳川家第19代当主、徳川義親(よしちか)は渡欧した際に購入した木彫り熊を日本に持ち帰り、八雲町の農民たちに示し、冬の農閑期に楽しみながら制作でき、販売すれば現金収入を得られ生活改善に役立つことから、翌大正13年「第一回農村美術工芸品評会」を開催したのだ。そこから今年はちょうど100年後ということになる。

出品された作品、販売された作品の一部を紹介しよう。トップに上げた画像は加藤貞夫の熊(八雲町木彫り熊資料館蔵)。

加藤貞夫(1926-2013)は八雲町生まれ。神奈川県・湯河原で指物師の技術を学んだあと、1949年に八雲町に帰郷。八雲鉱山で技術職として働いた。1960年頃から熊彫を学ぶ。一時転勤で本州へ渡るも1975年頃に八雲町に戻り、木彫り熊の制作に専念。2010年の上海万博ではブドウの木に登る熊の作品が展示された。

柴崎重行の作品 写真/©︎塚田直寛
柴崎重行の作品 写真/©︎塚田直寛

その入手困難さから、北海道内でも“幻の熊”と呼ばれた柴崎重行の作品をはじめ、戦前に八雲農民美術研究会で彫られたものから、根本勲、引間二郎といったこの世界では著名な作家の作品まで、「八雲町木彫り熊資料館」が所蔵する名作の数々がこのイベントに展示された。道外初となる展示作品も多く、八雲町の熊彫の凄みを生で感じられる貴重な機会となった。

柴崎重行の作品 写真/©︎塚田直寛
柴崎重行の作品 写真/©︎塚田直寛

柴崎重行(1905-1991)は八雲町鉛川生まれ。家業の農業を手伝いながら、彫刻を開始。昭和3年、講習会に参加し、熊彫を行うようになった。戦後、ハツリ彫りという手法が高い評価を受け、その作品は「幻の熊」と呼ばれ八雲町を代表する作家になった。

柴崎重行の作品 写真/©︎塚田直寛
柴崎重行の作品 写真/©︎塚田直寛

柴崎重行の次男、柴崎宏明さんはこう話している。

「(柴崎重行の熊は)目標とする形は最初からなくて、一つひとつ、作っていく過程で作品ができあがっていく。表現したかったのは、たとえば喜怒哀楽や強さや弱さといった、人間なら誰しもが抱えているもの。それらを表すのに、たまたま熊がいい材料だったじゃないかな。作品を見た人に、何かを感じてもらえるものを彫りたい、と考えていたんだと思います」

『熊彫図鑑』

美術館で大規模な展覧会が開催された作家も

藤戸竹喜の作品 写真/©︎塚田直寛
藤戸竹喜の作品 写真/©︎塚田直寛

藤戸竹喜(1934-2018)は北海道美幌町でアイヌ民族の両親のもとに生まれ、旭川市で育つ。木彫り熊の職人だった父に12歳の頃から師事した。一気呵成に彫り進められる熊や動物の姿は生きているかのように躍動し、旺盛な生命力を感じさせる一方で、仕上げに行われる毛彫りは細密で、硬い木であることを忘れさせるような柔らかな質感を生み出している。2021年、東京ステーションギャラリーで「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜」が開催された作家である。

今回の伊勢丹新宿店での会期中、隣接した販売ブースでは、高野夕輝、高旗将雄など熊彫を後世へ引き継ぐ現代作家の作品や極めて希少なビンテージ作品の販売も行われた。柴崎重行作品は15点以上。東京ステーションギャラリーで個展が開催され話題となった藤戸竹喜の作品も5点が並んだ。どちらも、地元北海道でも販売されているのを見かけることすらない作家で、この規模の販売は関東エリアで初。貴重な作品を購入するには優先入場の権利の予約が必要だった。

写真/©︎塚田直寛
こちらは、今回とは別のイベント時に出品された熊たち。 写真/©︎塚田直寛

見れば見るほど、欲しくなってくる。

参考資料:
東京903会『熊彫図鑑』プレコグ・スタジオ 2019年
内田鋼一・編『熊と鷹』BANKO archive design museum 2021年

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

■連載「アートというお買い物」とは
美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

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アートというお買い物

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

TEXT=鈴木芳雄

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