PERSON

2025.02.12

長生きの一番の条件、免疫力を保つためにすべきこと【和田秀樹×菊池武夫③】

日本を代表するファッションデザイナーの菊池武夫さんに、『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る。連載3回目。

和田秀樹/Hideki Wada
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

どのように服を選ぶか

和田 毎日のお洋服は、どんなふうに選ぶんですか?

菊池 僕は、わりと境目がないから、いつ選ぶとか、そういうのはないんです。日頃から、なんとなく自分の持っている洋服を記憶の中から引っ張り出して、活かしてる感じなのかな。例えば、これまで「みっともないなあ」と思うことは何回もあって、それは避けるようにするとか。

和田 量は膨大でしょうから、思い起こすのも大変そうです。

菊池 こういう仕事だから、ものすごい服があったんです。何度か店に持っていこうと思ったんだけど。熊本大震災がありましてね。

和田 2016年でしたね。

菊池 うちの先祖は熊本なんですよ。だから何か役に立ちたいと思って、僕の持っている洋服の3分の1ぐらいを、ここで売って、全額寄付をしました。

和田 素晴らしい!

菊池 おかげで何が手元に残っているのか、わからなくなりました。「あれを着よう」と思っても、もう手元になかったりして収集がつかないんですよ。何着あるかはわかりません。人の洋服もあるし、自分の服もある。アンティークもたくさんありますしね。

和田 やっぱりいろんな服を着る経験は大事でしょうね。

菊池 はい。そう思いますね。

人に興味がある

菊池 それと僕は、人にすごい興味があるというか、いつもなんとなく観察しています。どんな服を着ているとか、どんな顔をしてるとか、人の感じを見てる。

和田 さすがですね。今の医療にはそれがないんです。全員に同じような薬を出すなど、パターン化されています。私たちが学生のころは、もう少しましだったんですけどね。先生たちも「患者さんの顔を見なさい」とか言ってましたしね。聴診器を当てる診察もやっていました。ところが今は、電子カルテや検査データを見て判断する。顔色とかは見ないんです。

菊池 そうなんですか。

和田 と思いますよ。だって、いまだにほとんどの病院でマスクをさせられるでしょ? マスクをしたら顔がわかりません。本来なら「あなたの顔色を見たいからマスクを外して」と言うのが医者の仕事ですよ。

菊池 その通りですね。

和田 特に私のような精神科医は、表情を見なければ患者さんの具合はわかりません。

菊池 顔が見えなきゃ、判断がつきませんね。

和田 はい。しかも医者がマスクをすることは、患者さんにとってもよくないことなんです。なぜなら精神科では、医者がニコッとすることで患者さんは安心するわけですから。

菊池 なるほど。

和田 菊池さんみたいな仕事だと、人間を見ることからインスピレーションがわいて、デザインとかにつながりますか?

菊池 そうですね。

和田 じつは私たちも同じで、人間を見ることがスタートラインなんですよ。

菊池 一番大事ですよね。

和田 はい。観察してないから先生から習ったことはすべて正しいと思ってしまうんです。それでは医学は進歩しない。

菊池 困りますね。

菊池武夫/Takeo Kikuchi
ファッションデザイナー。1939年東京都生まれ。1970年にBIGI、1975年にMEN’S BIGI、1984年TAKEO KIKUCHIを設立。DCブランドブームの火つけ役。現在も、TAKEO KIKUCHIのクリエイティブディレクターとして精力的に活動している。

刺激を受けたクリエイター

和田 個人的に興味があるんですが、広告の製作やカタログ、ビジュアルなどを作るときに、刺激を受けたクリエイターさんはいますか?

菊池 もちろん、いろいろいますが、すごく影響を受けたのは写真家の立木義浩さんかな。同じような人種だと思うんです。あの人の写真は、すごいリアリティがあった。ほかの人は型にはめ込んだり、自分が持っている世界に引っ張り込んだりするんだけど、立木さんにはその強烈さがないんです。その人が持っている特性を活かしてくれるんです。僕は、強い人が苦手でね(笑)。

和田 私も、立木さんに一回だけ撮ってもらったことがあります。本当にシャッターを切らないんですよね。

菊池 そうですよね。

和田 立木さんに撮ってもらえるだけですごくうれしかったんですけど、たぶん2~3枚しか撮らなかったと思います。

菊池 それなのに、すごく安心感があるんです。彼は僕の二つ上で、若いときから知っています。仕事をバリバリやって、背も高いし、いい男でしたね。ジャズも好きでね、そこは僕との共通点。

和田 クリエイター同士で刺激し合うって素敵ですね。

現役を続けられる秘訣

菊池 あ、そうだ。今日は僕、聞きたいことがありまして。

和田 なんでもどうぞ(笑)。

菊池 今めちゃくちゃタンパク質が気になっていましてね。成人男性は1日65gと書いてあったんすが、その量を摂るのは大変じゃないですか?

和田 仰る通りですね。しかも65gって体重が65kgの人の場合なんですよ。80kgの人だと80gを摂取しないといけない。

菊池 体重と比例してる?

和田 そうです。だけど80gのタンパク質を摂ろうと思ったら400gの肉を食べないといけないんです。それはきついでしょ。

菊池 そうなんです。だから聞こうと思って。

和田 実際には「何g摂らなきゃ」などと考えずに、できるだけ多く摂ろうと心がければいいと思いますよ。

菊池 よかった。

和田 とくに高齢者にとって、タンパク質は重要です。例えば戦前の日本人が長生きできなかったのは、タンパク質の摂取量が極めて少なかったからです。

菊池 やっぱり、そうですか。

和田 タンパク質が不足すると、いろんな臓器が早く衰えるし、免疫力も落ちる。戦前に結核などで死ぬ人が多かったのは、このためです。

菊池 なるほど。

和田 もうひとつ、私が大事だと思うのは「おいしいと思えるかどうか」です。なぜなら、長生きの一番の条件である免疫力を保つには、十分な栄養と、精神的な安定が必要だからです。

菊池 気分がいいと、免疫力が上がる?

和田 そうなんです。免疫力が高い人はがんにもなりにくいし風邪もひきにくい。つまり、長寿には免疫力が欠かせません。「健康にいいから」と食べたいものを我慢したりすると、結果的に、免疫力が落ちて、不健康になってしまうのです。

菊池 私は大丈夫ですね。好きなものばかり、好き勝手に食べていますから(笑)。

※4回目に続く

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年3月号

自分らしい、靴と鞄

GOETHE(ゲーテ)2025年3月号

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年3月号

自分らしい、靴と鞄

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ3月号』が2025年1月24日に発売となる。今回の特集は“靴と鞄”。エグゼクティブが実際に愛用するものから、オンとオフを格上げし、ライフスタイルを充実させる「自分らしい」靴と鞄を紹介する。表紙にはSnow Manの目黒蓮が初登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる