Jリーグの初代チェアマンであり、今もなお多様な“スポーツ改革”に邁進する88歳の川淵三郎氏と、『80歳の壁』著者・和田秀樹氏の対談ををまとめてお届け! ※2025年1月掲載記事を再編。

1.Jリーグ、Bリーグ、大学理事長…88歳川淵三郎。衰え知らずの活力の秘訣は前頭葉!?

和田 川淵さんはサッカーだけじゃなく、バスケットのBリーグも成功させ、さらには東京都の教育改革も推し進めた方です。初対面ですが、やっぱりすごいエネルギーを感じます(笑)。
川淵 ゴルフ場でもね、キャディさんに年を聞かれ「88」と答えると、びっくりされる。その時に「そうか。僕は88だったんだ」と自覚する(笑)。日頃は年なんて気にしてないから。
和田 お元気な証拠です。
川淵 50、60代の時は80代の自分なんて想像もしなかった。だから今、こうして元気に生きていることを「もうけた人生だ」と思える。僕自身は「もういつコロッと逝ってもいい。後悔はない」と思ってます。女房ともよく「ピンピンコロリで逝きたいね」なんて話すんだけど、娘の前でそんな話をすると娘が本気で怒るので、絶対に話せない。年齢を重ね、「うまく死にたい。長患いはしたくない」と思うようになりました。
和田 生命は、遺伝的なことも含めて、期間は限られています。残念ながらそれは回避できない。認知症なんかも老化現象ですから、回避はできない。だけど、遅らせることはできるんです。
川淵 なるほど。
2.「元気に長生きするポイントは、興味・好奇心・意欲をどう保つか」

和田 川淵さんが理事長を務めた「首都大学東京」って、東京都立大学のことですか?
川淵 そうです。わかりづらいですよね。一時期「首都大学東京」となりました。だけど、僕もこの学校名には異論がありましてね。それで動いた。今は東京都立大学に戻っています。
和田 そうだったんですね。
川淵 学生に「学校に対する要望」を書いてもらったら、半数以上が「名前を都立大に戻してほしい」というものでした。一番のインパクトは、スーパーで接客をするアルバイトの学生が「君はどこの学生?」と聞かれ、「元都立大学の首都大学東京です」と答えた、という話を聞いたときです。
和田 自分の学校を堂々と言えないのは悲しいですからね。
川淵 歴史ある優秀な公立大学なのに、多くの学生が「首都大学って私立?」「新設校?」などと聞かれてしまう。学生は嫌だったと思いますよ。だから僕は任期を終えるときの挨拶で、職員や理事を前に「僕の遺言と思って聞いてください。都立大学の名に戻すよう知事と話すから絶対に実行してほしい」と伝え、小池都知事にお願いしました。小さな貢献ですけどね。
3.150gまでは肉は食べるほど寿命が延びる

和田 ちょっと健康の話をします。見た限り、川淵さんはとてもお元気そうで(笑)。
川淵 病院には怒られるかもしれないけど、僕は健康診断を受けないんです。だからどこが悪いかわからない(笑)。
和田 いいですね。
川淵 75歳ぐらいまでは健康診断を受けていました。だけど基準より悪い数値が出てくるでしょ。Aという評価がBやCになり、Dまで出てくる。それも考えたら当たり前で、この基準自体が若い人と同じものだから。「高齢者用の数値」に対応してないんですよ。
和田 仰る通り。さすがです。
川淵 だから今は全然やってないんですよ。最終的には、がんなどが見つかったときに「もう手遅れだ」って言われるのが一番いいなと思うようになって。
和田 それがいいと思います。
川淵 ただ、血液検査だけは、診療所に行ったときにやってもらいます。前立腺がんとか胃がんとか、早期に見つかったら治る確率の高い病気もあるので。
4.88歳川淵三郎「かかとあげ1日50回、ゴルフ月最低5回。大事なのは強度より持続性」運動を続ける2つのコツ

和田 何か特定の「健康法」みたいなものはありますか?
川淵 ゴルフは続けていますね。「かかと上げ」も、ずっと続けています。
和田 かかと上げ? かかとを上げて、つま先立ちになる?
川淵 そうです。かかとを上げて下げるだけ。これを連続して50回ほどやるんです。僕はこの運動は本当にいいなあと思っていまして。
和田 簡単そうでいいですね。
川淵 そうなんです。顔を洗いながらできるし、台所で料理をしながらでもできます。
和田 いいですね。
川淵 ふくらはぎは第二の心臓と言われますからね。つま先立ちをすれば簡単にふくらはぎを鍛えられます。だから最低限、1日50回はやる。2セットやればもっといい。
和田 かかと上げは脳にもいいという説があります。足からの刺激は脳に結構いくらしい。
川淵 血流もよくなる。
5.88歳川淵三郎「嫌なことを言われても引きづらない」そのコツとは。精神科医・和田秀樹が分析

和田 川淵さんは声の張りが本当にいいですね。
川淵 ありがとうございます。
和田 僕の観察では、声の張りがいい人って、やっぱり長生きするし、元気なんですよ。やっぱり講演や会議などで、声を出す機会が多いからですかね。
川淵 僕が電話で話していると女房が「何人と喋っているの」って笑うんです。僕の声の大きさは、演劇少年だったからかもしれません。小学校のときに、マイクのない広い劇場なんかで発声法とかをやっていましたから。
和田 いいですね。
川淵 小さな声で話せないんですよ。自分では小さい声で喋っているつもりなのに「もうちょっと小さく」と言われる(笑)。
和田 でも、声の大きな人がいると、周囲も元気になります。
川淵 いいのか悪いのか。僕の場合は、電車で隣の車両にいた人から「川淵さんの声が聞こえた」って言われるくらいだから。レストランなんかで食事しているときもね、別に悪口じゃないけど、人の話になるでしょ。すると女房が「そんな声で話したら誰が聞いているかわからないから」といつも心配そうに言う。僕は気にせず喋っちゃうほうだから。
6.88歳川淵三郎「ネガティブでも、ポジティブでも、結果は変わらない」なら、どうする?

和田 川淵さんは、やはり心が強いです。日本人は周りの声を気にしてストレスを溜めている人は多いですからね。
川淵 そうですね。
和田 面と向かって言われるまでは、本当のところはわからないのに、先回りして心配する。
川淵 確かに、そういう人は多いですね。
和田 川淵さんのように「わからんもんはわからん。どうしても気に入らないんだったら、面と向かってその理由を話してくれよ」と言えるのが、リーダーとして正しい在り方だと思いますけどね。
川淵 僕があんまりクヨクヨしないのは、もって生まれた性格もあるのだと思う。これは両親に感謝しています。
和田 そうですね。性格は簡単には変えられませんから。
川淵 「こうしろ」って言われたってできやしない。うちの女房なんか、常にネガティブに考えるからね(笑)。
和田 そうなんですか。
川淵 僕は常にポジティブに考える。
和田 いいですね。

