PERSON

2025.01.18

88歳川淵三郎「ネガティブでも、ポジティブでも、結果は変わらない」なら、どうする?【精神科医・和田秀樹対談⑥】

Jリーグの初代チェアマンであり、今もなお多様な“スポーツ改革”に邁進する川淵三郎氏。同じく“高齢者の医療・生き方改革”に励む和田秀樹氏。両者を突き動かすエネルギーの源泉とは。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。川淵三郎対談、最終回。

ポジティブに考えたほうがいい

和田 川淵さんは、やはり心が強いです。日本人は周りの声を気にしてストレスを溜めている人は多いですからね。

川淵 そうですね。

和田 面と向かって言われるまでは、本当のところはわからないのに、先回りして心配する。

川淵 確かに、そういう人は多いですね。

和田 川淵さんのように「わからんもんはわからん。どうしても気に入らないんだったら、面と向かってその理由を話してくれよ」と言えるのが、リーダーとして正しい在り方だと思いますけどね。

川淵 僕があんまりクヨクヨしないのは、もって生まれた性格もあるのだと思う。これは両親に感謝しています。

和田 そうですね。性格は簡単には変えられませんから。

川淵 「こうしろ」って言われたってできやしない。うちの女房なんか、常にネガティブに考えるからね(笑)。

和田 そうなんですか。

川淵 僕は常にポジティブに考える。

和田 いいですね。

川淵 女房に「ポジティブに考えろ」とずっと言い続けてきたけど、結婚して六十何年ずっとネガティブだから(笑)。それは変わりようがない。

和田 でも結局、ネガティブに考えてもポジティブに考えても、結果は変わらないですよね。

川淵 僕もそう思います。

和田 結果が変わらないんだったら、ポジティブに考えたほうが得じゃないですか。

川淵 絶対そうなんですよ。いつもそれを言うんだけど(笑)。

和田 なかなか変わらない。

体を動かすことの大事さ

和田 隠居してゆっくりしようとか、そういう気持ちは起きないんですか?

川淵 今のところ、まだいろいろと動いていますから。それと最近は「これは僕がやらなきゃ」と思うことが出てきたんで。

和田 いいですね。よかったら教えてください。

川淵 全く新しいスポーツのカタチです。

和田 どのような?

川淵 未経験者も子どももお年寄りも、みんなで一緒に楽しめるスポーツです。

和田 なるほど。

川淵 オリンピックにも、新しい競技がどんどん増えていますよね。それはとてもいいことだと思うけど、世の中の人が全員「スポーツが好き」ってわけじゃない。スポーツが嫌いな人も大勢いるわけですよ。テレビも含め「私はスポーツを一切見ない」という人が。

和田 よくわかります。

川淵 そんななかで、今後はシンギュラリティの時代が来るだろうと僕は思っていましてね。

和田 なるほど。AIが人間を超える知能を持つ時代になるということですね。

川淵 はい。そうなると、人間には余暇がいっぱいできますよね。「余暇をどう使うか」ってことが問題になってくるわけです。

和田 なるほど。余暇には体を動かさないとダメだと。

川淵 そう! 体を動かさないと人体はうまく機能しなくなります。筋肉だけじゃなく、細胞やニューロンなども育たない。神経細胞の発達に、スポーツは大きく影響するらしいのでね。

和田 なるほど。だから誰でもできるスポーツをつくると。

川淵 はい。「人間が生きていくには体を動かすことが大事だ」ということを十分理解してもらったうえで、全く新たなスポーツを開発する。これはとても大事なことだと思ったんで、それをやろうと。

和田 素晴らしいですね。何か具体的に動いているんですか?

川淵 例えば「ウォーキングフットボール」っていう競技があるんです。イングランドが発祥で、今は日本でもかなり広がっています。「走っちゃいけない」「ヘディングしちゃいけない」「危ないプレーをしちゃいけない」というね(笑)。

和田 サッカーなんだけど、サッカーとは正反対。

川淵 そうです。要するに誰もが楽しくやれる、未運動が苦手な人でもいきなりやれるスポーツなんですよ。これを今、広く日本に進めていこうとしているわけです。

和田 いいですね。

川淵 サッカーでそれができるなら、バスケットボールでもできないか? 野球ならどうするか?などと、いろいろな競技で発想してみる。あるいは、競技の垣根を超えて「おもしろい競技」を発明できないか、とかね。発想がどんどん膨れていくわけです。

和田 おもしろいですね。

川淵 スポーツに全く興味を持ってなかった人が「これはおもしろそうだからやってみたい」と思えるスポーツ。ボッチャなんかもその一種かもしれませんね。こうした新しいスポーツを世の中に広めていくことが、僕の新たな役割かなと。

和田 すごくいいと思います。川淵さんが中心で音頭を取れば動きそうですね。

川淵 僕は今、日本トップリーグ連携機構の会長をやっているでしょ。バレーやバスケ、ハンドボールなど、いろいろな競技のトップリーグに「みんな一緒につながってみないか」と、投げかけているところです。先日も関係者にそんな話をしました。

和田 いいですね。競技っていうのは勝ち負けだけじゃないって思うんですよ。

川淵 そうなんです。楽しくやれることが一番大事。要するにエンジョイなんですよね。

ワクワクしながら生きる

和田 僕のような高齢者医療の立場からすれば、年を取って筋力が弱ってもできるスポーツがあればいいと思いますね。ワクワクできるものがあったら、残りの人生は楽しくなります。仲間もできるし、楽しければ来週も来月も来年もと、長生きする目標にもなります。

川淵 そうなんです。

和田 楽しくなければ、やめてもいいわけですから。

川淵 だからなるべく難しくない、みんなで楽しめるスポーツを考えたい。これからの時代には、そういうスポーツが必要になると思っています。

和田 やっぱり、まだまだ引退できませんね(笑)。

川淵 僕は80歳になったらすべて引退しようと思ったんだけど、みなさんから「こうしてほしい」とか「相談に乗ってくれ」って言われてしまって。そのうちに、今話したようなやりたいことが出てきたので。

和田 自分から引退することはありませんよ。

川淵 今は完全にそう思っています。「いらない」と言われるまでやり続けます(笑)。

和田 素晴らしいです。今日は本当にありがとうございました。社会の新しい活力となる提言もいただきました。

川淵 いやいや。こちらこそありがとうございます。

川淵三郎/Saburo Kawabuchi(左)
日本トップリーグ連携機構 会長。1936年大阪府生まれ。早稲田大学サッカー部を経て1961年より古河電工サッカー部でプレイ。1970年に現役引退。1991年にJリーグ初代チェアマンに就任。2002年に日本サッカー協会会長に就任。現在は相談役。著書に『独裁力』ほかがある。

和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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