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2025.01.15

150gまでは肉は食べるほど寿命が延びる【88歳川淵三郎×和田秀樹対談③】

Jリーグの初代チェアマンであり、今もなお多様な“スポーツ改革”に邁進する川淵三郎氏。同じく“高齢者の医療・生き方改革”に励む和田秀樹氏。両者を突き動かすエネルギーの源泉とは。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。川淵三郎対談3回目。

年を取れば、悪いところも出る。でも、全体のバランスが狂うからイジらない

和田 ちょっと健康の話をします。見た限り、川淵さんはとてもお元気そうで(笑)。

川淵 病院には怒られるかもしれないけど、僕は健康診断を受けないんです。だからどこが悪いかわからない(笑)。

和田 いいですね。

川淵 75歳ぐらいまでは健康診断を受けていました。だけど基準より悪い数値が出てくるでしょ。Aという評価がBやCになり、Dまで出てくる。それも考えたら当たり前で、この基準自体が若い人と同じものだから。「高齢者用の数値」に対応してないんですよ。

和田 仰る通り。さすがです。

川淵 だから今は全然やってないんですよ。最終的には、がんなどが見つかったときに「もう手遅れだ」って言われるのが一番いいなと思うようになって。

和田 それがいいと思います。

川淵 ただ、血液検査だけは、診療所に行ったときにやってもらいます。前立腺がんとか胃がんとか、早期に見つかったら治る確率の高い病気もあるので。

和田 いいですね。僕は以前、杉並の浴風会という老人専門の総合病院に勤務していました。そこでは毎年100人ぐらいのご遺体を解剖するのですが、85歳を過ぎて、体中のどこにもがんがない人はいないんです。

川淵 そうでしょうね。

和田 ところが、がんだと知って亡くなる人は3分の1で、残りの3分の2は、がんになったことを知らずに亡くなってるんです。

川淵 なるほど。

和田 日本の医者は、若い人も高齢者も同じ治療方針なので、がんが見つかれば治療します。でもそれは、高齢者には大きな負担になる。例えば胃がんの手術をする場合も、がんだけ取ってくれればいいのに、胃まで切り取る。すると一気に栄養状態が悪くなってしまうんです。ガリガリに痩せて、ヨボヨボになる。

川淵 そうか。僕が今思うのはね、ともかく88年、ずっと同じ部品を使って、よく頑張ったなと。

和田 仰る通りですね。

川淵 年を取れば悪いところも出てきますよ。だけど、それを触ったら全体のバランスが狂うに違いない。だから触らないほうがいい、というのが僕の考え方。

和田 正しいと思いますね。少なくとも80過ぎまで生きてこられた方は、そのほうがいい。なのに医者というのは大きなお世話ばっかりするんです。年を取って積極的に治療をしても、元気になる人はほとんどいないんです。

川淵 そうかもしれませんね。

好き嫌いはあってもいい

和田 食事で気をつけていることはありますか?

川淵 女房に任せっきりです。現役時代からずっと、体にいいと言われる食事をね。好き嫌いの中で栄養のバランスを考えてくれる。

和田 栄養って、年を取れば取るほど、足りないものの害が大きくなるんです。だから結局、雑食のほうがいいんですよ。

川淵 僕は好き嫌いが多くてね。地方に行くと「川淵さん、今日は最高の料理を用意しました」なんて言ってくれるんだけど「最高」というと、だいたい苦手なものが出てくる(笑)。昔は鰻も食べられなかったから。

和田 そうなんですね。

川淵 あるとき仕方がないので無理やり食べたら「あ、おいしい」ってなって。それから食べるようになったものも結構あります。

和田 とくに年を取ったら、いろいろなものを食べることが大事です。ムリしてまで食べる必要はありませんが。

川淵 僕は肉が好きなんですよ。長生きしている人を見ていると、肉好きが多いですよね。

和田 その通りです。やはり肉っていうのは体の材料ですから。

川淵 なるほど。

和田 肉もやはり食べすぎはよくない。1日300gの肉を食べてるアメリカ人は心筋梗塞が多い。日本は100gほどです。

川淵 せいぜい食べても150gぐらいですよね。

和田 そうですね。150gぐらいまでは肉は食べるほど寿命が延びるという調査結果があります。1980年頃、1日300g食べてるアメリカが「心臓病を減らすために肉を減らせ」と言い出したら70gしか食べてない日本まで「肉はダメ」と後追いした。コレステロール害悪説は、この流れでできたものです。

骨が弱いとろくなことがない

川淵 僕は小学校3年生で終戦を迎えました。食べ盛りのときに食べるものがない。中学時代の弁当は麦でしたね。へしゃげてない麦なんて知らないでしょ? あと「じゃこ」が少しだけ。

和田 硬いものばかり。じゃこは小魚ですね。

川淵 硬いし量も少ないから、一生懸命に咀嚼(そしゃく)するんです。

和田 よく噛むと、唾液も出て、消化にもいい。

川淵 僕は骨がものすごい太いんですよ。今思うと、そういうものを食べたから丈夫になったのかもしれません。

和田 若いうちに丈夫な骨を作っておくと、年を取ったときに有利なんです。年齢とともに、骨は弱くなってきますから。

川淵 そうでしょうね。

和田 骨が弱い高齢者は転びやすいし、骨折もしやすい。そこから寝たきりになるケースも多い。やはり骨は強いほうがいいです。

川淵 年齢を重ねたら、若い頃よりも身長が5㎝ぐらい縮んだかな。だからあんまり測りたくない(笑)。

和田 体重は?

川淵 変わらない。大学でサッカーしているときからずっと72キロ。なのに医者は「7キロぐらい減らせ」と言う。身長から計算して65キロが標準だからって。

和田 医者の悪いところですね。川淵 そう。「何言ってんだ」って思いますよ。骨の太さとか、その体重で何十年も健康でいるとかを、全く考慮しないんだから。

和田 仰る通りです。宮城県の大規模調査では「BMIが25~30の人が一番長生き」という結果が出ました。そういう調査は無視されて「痩せろ」の一点張りです。

川淵 BMIって体重計にも出てくる数値ですよね。

和田 はい。日本では「22」が標準とされています。でも高齢者の場合は「25~30」の栄養状態のいい人のほうが長生きで健康なんです。やはり人間って、体に余裕があったほうがいいですからね。標準よりやや多いぐらいのほうが、年を取ってから老化が遅れるんですよ。

川淵 年を取っている人が増えてきているのだから、高齢者用の基準があってもいいと思いますね。

和田 本当にその通りです。

※4回目に続く

和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

川淵三郎/Saburo Kawabuchi(左)
日本トップリーグ連携機構 会長。1936年大阪府生まれ。早稲田大学サッカー部を経て1961年より古河電工サッカー部でプレイ。1970年に現役引退。1991年にJリーグ初代チェアマンに就任。2002年に日本サッカー協会会長に就任。現在は相談役。著書に『独裁力』(幻冬舎)ほかがある。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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