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2024.09.02

“健康じゃないとダメ”は間違い! 老いを受け入れて、足りない部分をAIで補う【和田秀樹×89歳若宮正子⑥】

81歳の時にiPhoneのゲームアプリを開発して“世界最高齢プログラマー”として各界が注目。Apple社のCEOティム・クック氏や台湾のデジタル大臣だったオードリー・タン氏からも一目置かれる存在になった。政府の会議でもズバリ物申す若宮正子さん。常識や世間の目に囚われないこの対談は「日本の壁」を切り崩す。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。6回目。

健康を失っても人生は終わらない

若宮 みんなね、健康第一って言います。だけど健康っていつかは失われるんです。そして健康が失われても、その人の人生は終わらないんです。だからそのへん、よく考えておいたほうがいいと思います。

和田 その通りですね。

若宮 先ほど、メロウ倶楽部の話をしましたが、倶楽部にも車いすから一歩も降りられない人や寝たきりの人がいます。だけど精神的には豊かな暮らしをしているんですね。だから、健康第一っていうのも、もちろん悪くはないけど、さっきの「健康のためなら死んでもいい」みたいな絶対的な価値をあまり持たせないほうがいいと、私は思いますね。

和田 本当にそうだと思います。人によって程度の差はありますが、老いは必ずやってきます。私は高齢者の専門医として、多数の患者さんを診ていますが、経験から言うと、いつまでも健康や若さにこだわって老いと闘い続けている人は、今を楽しめなくなってしまうんです。「昔はできたのに、今の自分は情けない」と敗北感や挫折感にとらわれてしまうんです。

若宮 それ、わかりますね。

和田 もちろん、老いと闘ってもいいんですよ。でも例えば、いよいよ老いが迫ってくる80代になったら、素直に老いを受け入れてしまったほうがいい。

若宮 老いを受け入れる?

和田 はい。老いを受け入れるというのは「年だから何もしなくていい」とか「人生をあきらめよ」ということではない。むしろその逆で、自分の状態を受け入れて、うまく文明の利器や誰かのサポートを借りながら生きると言うことです。例えば、立ち上がりにくいなら手すりをつける。歩きづらいなら、杖や車いすを使う。聞こえにくいなら補聴器を使う、ということです。

若宮 「健康じゃないとダメ」と考えると、苦しくなりますからね。

和田 若宮さんは、体に悪いところはありませんか?

若宮 もちろんいっぱいありますよ。この年ですから(笑)。今も補聴器をつけているでしょ。目も白内障の手術をして、レンズを貼り付けていますよ。

和田 老いを受け入れていらっしゃるんですね。

若宮 積極的に受け入れている意識はありません。眼科医に、「どういうふうに暮らしたいですか?」と聞かれたので、私はいつもほとんど30センチ以内の中で暮らしていると答えて、レンズを入れてもらったんです。だから老眼鏡はいらない。遠くを見る時だけはメガネが必要です。野球を観にいったりする時にメガネをかけるけど、1年に何度もありませんね。若い時だって、いつも元気とは限らないわけだから。

和田 その通りです。

若宮 かかりつけのお医者さんは「とくに心配することはありませんよ」と言ってくださるので。普通に暮らせればいいんじゃないですかね。

和田 無理せず、自然体なのが元気の秘訣ですね。

若宮 運動も特にやっていない。そんな時間はないですし(笑)。

忙しくするのがいちばん

和田 地方の講演会にも歩いていかれるんですか?

若宮 はい。出かける回数は多いので、自然に、歩く機会は増えます。地方にも行くので、結構、距離も歩くと思います。

和田 大事なことですよね。運動するより、忙しくするほうがいいんです。

若宮 地方にはリュックサックに荷物を詰めて1泊か2泊で行くでしょ。かなり重いんです。それを背負って歩くんですが、道に迷うことが多くて(笑)。それこそGoogleマップで一生懸命に調べながら訪ねて行くんです。だから結構な運動になっていると思いますよ。

和田 素晴らしいと思います。

若宮 あと、乗り物が好きで。

和田 乗り物がお好きなの?

若宮 そう、鉄っちゃんなの。乗り鉄です。飛行機はあんまり好きじゃない。

和田 鉄道好きなら、移動も楽しいですね。最適な移動手段を考える?

若宮 はい。チケットや宿の手配も自分でやります。自分のペースでできるから気楽です。

和田 講演会から次の講演会へとハシゴすることもあると聞きました。

若宮 そういう時は、あっちをウロウロ、こっちをウロウロ、見物して回ります。そういうのも楽しいのよね。

和田 旺盛な好奇心も、若宮さんの元気の秘訣なんですね。

デジタルは高齢者の味方

和田 デジタル機器を使いこなす若宮さんから、同世代の方へお伝えすることはありますか?

若宮 私は高齢者が自立するためにも、デジタル機器は積極的に使うべきだと思っています。私の一日は、リビングのAIスピーカーに話しかけることから始まるんですよ。

和田 それはすごい。

若宮 「OKグーグル。今日の天気を教えて」と話すと、天気や降水確率、気温などを瞬時に教えてくれます。講演で訪れる先の天気も即答してくれるので便利ですよ。おまけに、「何を着ていけばいい?」と聞けば「厚手の上着が必要でしょう」などと親切に答えてくれます。

和田 非常に便利ですよね。というか便利に使えばいい。

若宮 そうなんです。私はアップルウォッチも着用し、スマホとつないでいるので、心電図のデータも記録として残ります。先ほど和田先生が仰っていたように、老いを受け入れて、足りない部分をAIで補うようにしたらいいと思うのです。記憶力が衰えても、人工知能が「今日はごみ捨ての日です」などと教えてくれますからね。

和田 AIに使われるのではなく、AIを便利に使う。それこそ高齢者の強い味方です。

若宮 そう! 人間が最後まで心豊かに暮らすためには、本当に頼もしい相棒になり得ます。私はいっぱいやりたいことがあって、1日24時間ではとても足りない。デジタル技術を活用することで、ずいぶん助けられているんですよ。

和田 本当に素晴らしいです。とても勉強になりました。

和田秀樹氏と若宮正子さんの座りショット
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

若宮正子/Masako Wakamiya(右)
ICTエバンジェリスト。1935年東京都生まれ。高校卒業後、三菱銀行に就職、同行で女性初の管理職を務める。81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、世界最高齢のプログラマーに。現在、シニア世代向けの情報共有サイト「一般社団法人メロウ倶楽部」副会長。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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