元気に長生きしたければ「免疫力」を上げること。免疫細胞のひとつ、NK細胞を発見し、83歳の今も免疫研究を最先端でリードする奥村康さんとの仰天・医学対談!『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。2回目。

タバコは悪者ではない
和田 僕はたくさんの高齢者を診てきましたが、禁煙すると元気がなくなってしまう人は少なくありません。逆に、ガンで余命宣告を受けたような人が、タバコを吸い続けてイキイキと長生きしたりする。
奥村 脳とメンタルには、タバコはいいですからね。
和田 タバコは肺ガンの元凶みたいに言われてるけど、そもそもこれも怪しいんですよ。だってタバコが原因とされる「扁平上皮ガン」っていうのは減ってるんですよ。一方で「腺ガン」は増えています。
奥村 そうですね。
和田 タバコは粒が大きくて気管支で引っかかる。だから気管支の「扁平上皮ガン」の原因になります。実際、タバコの喫煙率が3分の1に減ったら、その10~20年後くらいに、扁平上皮ガンも3分の1になったんです。それなのに、肺ガンになる人は年々増加している。それはやはり「腺ガン」がすごく増えているからです。腺ガンは、小さい粒が肺の先まで行って起こります。
奥村 そうそう。扁平上皮ガンが減っている以上に、腺ガンが増えてるんですよ。
和田 腺ガンの一因として考えられるは、交通渋滞です。
奥村 そうだね。
和田 近年は高速道路の整備が一段落して、一般道の工事が多くなりました。都市部のあちこちですごい渋滞が起きています。僕は、この渋滞が腺ガンの原因じゃないかと思ってます。
奥村 排気ガスは、タバコとは桁違いと言えるほど、肺ガンの原因になりますからね。
和田 昔の排気ガスは白い煙が見えました。粒が大きかったんです。だけど今の排気ガスは色が見えない。
奥村 粒が小さいんだね。
和田 はい。だから一見きれいに見えるけど、完全にクリーンなわけじゃないんです。
奥村 排気ガスが肺ガンの大きな一員であることはわかってるのに、みんな言わない。言ったら大騒ぎになるからね。
和田 で、タバコが諸悪の根源みたいにされてしまった。
奥村 いい例はね、例えば八丈島ではほとんど肺ガンがいないんですよ。交通量が少ないでしょ。ところが、八丈島育ちの兄弟の一人が東京へくると、肺ガンになってしまう。孤島や離島では、肺ガンを見つけることはまずできませんよ。
和田 渋滞がないから。
奥村 そうそう。
和田 結局ね、無駄な道路工事っていうのは、公共事業費を浪費するだけじゃなく、人の生活や健康まで蝕んでるんです。
奥村 そうそう。
和田 腺ガンがこの20年ぐらいで増えたっていうのは、そういうことなんでしょうね。
奥村 あとストレスね。免疫力はメンタルの影響でどーんと下がりますから。
和田 タバコだけじゃなく、太っちゃいけないとダイエットしたり、病気になるからと食べたいものを我慢したり。空気が悪くて本当は免疫を高めておかなきゃいけないのに、ストレスで免疫が下がってしまう。これじゃあ、ガンになれと仕向けているようなもんですよ。
奥村 メンタルと免疫の関係については、いろいろなデータもありましてね。東洋大学でタバコを吸っている学生を禁煙させたんです。そしたらストレスでNKが下がったんです。

順天堂大学医学部 免疫学特任教授。1942年島根県生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。サプレッサーT細胞の発見者であり免疫学の第一人者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞などの受賞歴がある。著書に『”健康常識”はウソだらけ 免疫力アップがすべてのポイント!』他。
栄養の大事さ
和田 僕は日本の医者には、いくつか欠けている視点があると思っています。それはメンタルと免疫と栄養。この3つを重要視していないんです。
奥村 栄養は大事ですね。
和田 栄養は、免疫にも影響しますからね。日本人が長生きするようになったのは、栄養状態が改善したからですよ。一般的には、医者が薬を出すようになったからだと言われているけど。
奥村 薬ではなく、やはり一番は栄養だよね。
和田 戦前は結核患者がすごく多かったのに戦後は減った。それはストレプトマイシンという抗生物質のおかげ、というのが定説なんだけど、それだと結核になる人が減ったことの説明がつかない。だってストレプトマイシンは、結核になった後の薬だから。
奥村 その通りです。やっぱり栄養のおかげですよ。
和田 米軍が脱脂粉乳を配って栄養状態がよくなり、免疫力も上がった。だから結核になる人が減ったと考えるほうが自然です。そう考えると、出血型の脳卒中が減り、脳梗塞が増えた理由も説明がつきます。栄養状態の悪かった時代には、脳の血管が破れやすかったんです。
奥村 昔はね、岩手県や秋田県の寒村に脳出血が多かった。栄養状態が悪くて脳血管が弱かったからです。だけど今は昔の10分の1くらいに減っています。
和田 医者はみんな一律に「血圧は下げろ」と言います。それは血管が破れるからですが、脳梗塞が多い現代は、むしろ血圧は高くてもいいはずなんです。血圧を下げると元気もなくなっちゃうわけだから。仮に「血管を丈夫にしよう」と言うんだったら、血圧を下げるより栄養を摂ったほうがいいはずですよ。
奥村 その通りですね。栄養は一番大事なのに、大学ではあんまり重視しない。
和田 奥村先生はおいしいものが大好きですよね。
奥村 はい。
和田 僕は先生にいつもご馳走になってまして(笑)。やっぱりおいしいものは、栄養にも免疫にもメンタルにもいい(笑)。
奥村 楽しくて、つい飲み過ぎちゃうんだけどね(笑)。

精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
アルコールと長生きの関係
和田 アルコールは神経細胞を殺す作用があるんですけど、楽しく飲むと、免疫力は上がるんですよね。
奥村 うん。それは大事。
和田 僕は「お酒は一人で飲むな」と主張しているんですが、それは依存症にもなりやすいからです。飲むなら大勢で、しかも楽しくおしゃべりしながら飲んだほうがいい。
奥村 そうそう。コミュニケーションをとると、脳のネットワークも強くなる。
和田 お酒に関して、何か注意はありますか?
奥村 やはり飲み過ぎはよくないですね。翌日に二日酔いするほど飲むと、いいことは一つもない。脳だけじゃなく、体全体にとってよくない。
和田 二日酔いしないぐらいの量だったら毎日飲んでいいんですか?
奥村 アルコールは個人差があるから、一概には言えません。だけど、体は適度にいじめたほうがいい。いじめると、必ず元に返ろうとしますからね。これを「修復機転」と言います。毎日少しずつ飲んでる人のほうが長生きなのは、修復機転がうまく利いているからです。
和田 そうですね。
※3回目に続く