元気に長生きしたければ「免疫力」を上げること。免疫細胞のひとつ、NK細胞を発見し、83歳の今も免疫研究を最先端でリードする奥村康さんとの仰天・医学対談!『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。3回目。

免疫の仕組み
和田 せっかくの機会ですから、免疫について簡単に説明してもらってもよろしいですか。
奥村 いいですよ。免疫っていうのはね、脳の神経細胞と違って、ものすごく長持ちするようにできてるんです。
和田 長持ち?
奥村 そう。100歳くらいではまったく衰えない。100歳の人にインフルエンザのワクチンを打つと効果があるのは、その証拠です。ただし、加齢によって低下する免疫もあります。
和田 免疫にもいくつか種類がありますからね。
奥村 そうです。免疫の仕組みについて話しておきましょう。
和田 はい。お願いします。
奥村 免疫力を担っているのは、白血球の中にあるリンパ球です。これが外から侵入してくるウイルスなどに対処します。リンパ球にはT細胞、B細胞、NK細胞があります。
和田 3種類の役割は、それぞれ違うんですよね。
奥村 はい。T細胞とB細胞は外的と闘う「国の軍隊」のようなものです。そしてNK細胞は「町のお巡りさん」。
和田 わかりやすい(笑)。
奥村 同じ軍隊でもTとBでは敵との戦い方が違います。Bは「抗体」というミサイルを作って相手を艦砲射撃します。Tは相手に突進していく地上軍のようなものです。ミサイルと地上軍の両方がいて、敵をやっつけることができるんです。
和田 なるほど。NK細胞は?
奥村 NKは、TやBのような強力な武器は持ってないけど、一番先端でかなり頑張ってる。お巡りさんですからね。町の不良を見つけると、片っ端から排除していく。じつはこのNK細胞は、30年くらい前に、我々のチームが見つけたんです。
和田 世界的な大発見(笑)。
奥村 はい(笑)。軍隊のTやBは敵がいないときは寝ています。だから長持ちで、100歳でも衰えない。ところが、お巡りさんのNKは、四六時中、頑張って働いています。このためか、加齢と共に弱くなるし、ストレスなどのメンタルにも影響を受けやすい。
和田 なるほど。
奥村 日本の治安はお巡りさんが守るように、体内の健康はNKが守ってくれています。私たちの体内には毎日、5000~7000個ものガン細胞ができてるんですが、NK細胞はそれを排除してくれます。
和田 ガン細胞は、町の不良のようなものですね(笑)。
奥村 そうです(笑)。人間の体では1日に1兆個の細胞が増えるんですが、そのうちの一部に不良が現れる。1兆個の中の5000~7000個ですから割合としては少ないんですけどね。だけど、この不良を野放しにしておくと、5000が1万、1万が2万……と倍々で増殖していく。そうやってガンになっていくわけです。お巡りさんのNKがこれを未然に防いでくれているんですよ。
和田 日本はガンで死ぬ国ですからね。NKを活性化して、免疫力を高めることが大事なわけですよね。
奥村 そうです。それでね、NK細胞が優秀なのは、ガン細胞だけじゃなく、ウイルスもやっつけちゃうんです。
和田 なるほど。
奥村 NK細胞の弱い人って、ガンにもなりやすいし、ウイルス感染にも弱いんです。
和田 そう考えると、NKは一番大事な免疫ですね。
奥村 そう。攻撃力は、軍隊のTやBのほうが強いんですよ。だけど、お巡りさんが活発に働いていれば、そう簡単にウイルス感染にもならないし、ガンにもならない。昨今それがいろんなことで証明されて、注目されるようになってきてるんです。

精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
NKはメンタルの影響を強く受ける
和田 NKはメンタルの影響を受けるんですよね。
奥村 はい。あなたはメンタルも強そうだから、NKも強いでしょうね(笑)。
和田 (笑)。本当にそう思いますね。僕は高血圧、糖尿病、心不全という基礎疾患のデパートみたいな人間なんですけど。コロナの検査で3回も陽性反応が出たのに、一度も症状が出たことがないんです。無症状。
奥村 なるほど。免疫が強いんだね。感染しても症状が出ないのは、免疫がウイルスをしっかり撃退しているからですよ。
和田 はい。風邪もほとんどひきませんしね。
奥村 いつも、非常に前向きですからね(笑)。
和田 間違いない(笑)。
奥村 NKは年齢の影響を受けやすいんですよ。50、60代になるとどうしても下がってくる。すると発ガン率は上がる。
和田 そうですね。
奥村 若いときはみんなNKが高い。高等学校の学生を対象に面白い実験をやりましてね。期末試験のときにNKを測ったら、下がっていた。
和田 ストレスの影響を受けた証拠ですね?
奥村 はい。やはり試験というのは逃げようのないストレスなんでしょうね。試験の後なんかには風邪をひきやすくなるでしょ? それはストレスでNKが下がるからです。お母さんから「勉強しなさい」と言われるのが一番よくない(笑)。
和田 ストレスの多い職場に、風邪をひく人が多いのも、同じ理由ですね。
奥村 そうですね。だけど若い人は、楽しい話をしてると、すぐにNKが戻ります。
和田 良くも悪くも、NKはメンタルの影響を受けやすいんでしょうね。
奥村 そう。だからね、本当は臨床の医師なんかも、うまい具合にNKを高めるようにしてあげたらいいんだけどね。
和田 本当にそう思います。多くの医師は、病気ばかりみて、人を診ませんからね。
奥村 そうそう。そこがね。

順天堂大学医学部 免疫学特任教授。1942年島根県生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。サプレッサーT細胞の発見者であり免疫学の第一人者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞などの受賞歴がある。著書に『”健康常識”はウソだらけ 免疫力アップがすべてのポイント!』他。
NK細胞の強さは風邪の頻度でわかる
和田 奥村先生がNK細胞で測ってるのは、やはり活性のほうですか?
奥村 はい。数もあるけど、だいたいは活性ですね。一人一人の強さです。
和田 強い・弱いの目安は? もちろん血液を測ればわかるのですが、生活面で何か。
奥村 わかりやすいのはね、風邪をひきやすいかどうかです。「1年間のうちに何回くらい風邪をひきますか」という質問でだいたいわかる。「2~3回ひきます」という人は測ってみるとだいたい活性が低い。つまりNKが弱い。反対に「ほとんどひかない」という人はNKが強いです。
和田 なるほど。僕はいつも思うんですけどね、血液の生化学検査でGPTやコレステロール値なんかを測るより、NK細胞の活性とか男性ホルモンの値を測ったほうがいいんじゃないかって。それが一番元気につながってるんだから。
奥村 そうそう(笑)。
和田 ちなみに、NKが強くてもウイルスにやられちゃうことはあるんですか?
奥村 ウイルスがすごく多かったり、強かったりすると、やられるときがありますね。NKがやられるとTやBが出動する。そのときには熱が出ます。平熱時はね、NKが対処してくれているんですよ。
※4回目に続く