PERSON

2025.03.06

体を守るNK細胞を、より活性化させる方法とは【免疫学の権威・奥村康×和田秀樹④】

元気に長生きしたければ「免疫力」を上げること。免疫細胞のひとつ、NK細胞を発見し、83歳の今も免疫研究を最先端でリードする奥村康さんとの仰天・医学対談!『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。4回目。

NK細胞を強くするには、栄養も重要

和田 NK細胞を強くするには、栄養も大事ですよね?

奥村 大いに大いに。栄養状態がものすごく関係します。

和田 日本人の悪い癖で、痩せてないといけないなど、変な思い込みがあるから食べたいものを我慢する。そんなことをしていたら、免疫が強くなるとは絶対に思えないですね。

奥村 コロナのときも、アメリカで亡くなった人の多くは、低所得者層の栄養状態の悪い人たちでしたからね。あまり知られていない話ですが。

和田 彼らはジャンクフードや炭水化物ばかり食べてるから太ってしまう。太っているので見た目には栄養状態がよさそうでも、タンパク質や必要な栄養素は不足してるんです。

奥村 NK細胞だけじゃなく、T細胞、B細胞もしっかり働くためには、栄養は必須ですよ。

和田 それと対談2回目で「修復機転」の話がありましたよね。体は少しいじめると必ず元に返ろうとする。これが大事だと。

奥村 そう。例えばね、みんな放射線は悪いと思ってるけど、じつは毎日浴びてるんです。浴びてるから、体の修復機転を使って頑張ろうとするわけ。

和田 低量の放射線は体にいいというのは有名な話です。鳥取の三朝温泉の話も有名です。三朝温泉は全国平均の3倍ぐらいの自然放射線量なんだけど、ガン死亡率は全国平均の半分なんですよ。

奥村 少し体をいじめて、修復機転を使うっていうのは、長生きする一つのコツなんです。スポーツ選手だってそうでしょ。体をいじめて強くなる。

和田 鍼や灸もそうですよね。修復機転を使った治療です。

奥村 免疫も同じですよ。

和田 ほどほどにいじめる。

奥村 そう。ほどほどがいい。お酒も二日酔いするほど飲んだらダメ。一気飲みは死んじゃいますよね。微量の刺激を与えるのが大事なんです。

和田 タバコは?

奥村 タバコはよくわかりません。動物実験でも、タバコでガンをつくることに成功した人は、未だに一人もいません。

和田 それなのにタバコでガンになると、医学常識のように言われている。

奥村 いわゆる医学の定説が真実とは限らない。本当のことは違うわけよね。

日本の平均寿命は今後下がるかも

和田 今、日本の平均寿命は世界トップクラスですが、この先はわからないと僕は思ってます。

奥村 たしかに、今の高齢者は強いですよね。

和田 今の平均寿命を支えている人たちはすでに80代で、女性なんかはもう90近い。この世代は、人生の前半で、戦後の飢餓や衛生状態の悪いことを経験してきています。人工甘味料とか人工着色料とか体に悪いものも食べている。昭和50年代ぐらいまではタバコを吸うのも当たり前だった。それなのに平均寿命が世界でトップレベルなんです。いや、それだから世界でトップレベルになった可能性もある。

奥村 なるほど。

和田 逆に、今の若い世代は、周りでタバコを吸ってる人もいないし、人工調味料とかも禁止されてる。そうやって過保護に育ってきてる世代だから、修復機転が利かず、平均寿命が下がる可能性もあると、僕は思っています。

奥村 そうかもしれませんね。

和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

奥村康/Ko Okumura(右)
順天堂大学医学部 免疫学特任教授。1942年島根県生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。サプレッサーT細胞の発見者であり免疫学の第一人者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞などの受賞歴がある。著書に『”健康常識”はウソだらけ 免疫力アップがすべてのポイント!』他。

研究費を稼ぐから健康で長生きできている

和田 奥村先生は、健康に関して、気をつけてることはありますか。例えば運動とか。

奥村 いや、別になんも気をつけてないですね。

和田 現役でいることが元気の秘訣ですか?

奥村 そうでしょうね。僕の商売も関係しているかもしれません。研究教育というのはね、お金がないとできないんですよ。

和田 研究は本当にお金がかかります。

奥村 だから朝から晩までお金のことばかり考えてる。研究費をどうやって稼いでこようかと。僕の部屋ではお医者さんが40人ぐらい働いてますからね。儲ける人は一人もいない。みんなお金を使うばっかりで(笑)。

和田 研究って、お金を使う一方ですからね。

奥村 そう。研究費を取ってこなければ、仕事ができないわけです。それが僕の生涯です。

和田 奥村先生がいつもネクタイをして、きちんとした格好をしているのは、そのためなんですね。営業マン(笑)。

奥村 (笑)そうです。国や官僚に頭を下げて、保管されているお金をもってくる。もちろん民間からもね。それが僕の仕事。じつは順天堂の中でも、僕は稼ぎ頭の方なんです。だから82歳でもクビにできない(笑)。

和田 対談の1回目で、元気で長生きするには、お金のことを考えるのが一番の刺激になるとおっしゃったのは、ご自身のことでもあったんですね(笑)。

奥村 そう。僕自身がね、お金が刺激になっている。僕が稼いでこないと研究できないし、みんな飢え死にしちゃいますから。40~50人の医学研究者が。

和田 切実です。

奥村 患者さんを診たらお金は儲かりますよ。だけど研究教育も大事なんです。それなのに儲からないし、一番お金がかかる(笑)。

和田 日本は研究費が少ないですからね。

奥村 米国なんかは研究教育に使ってるお金の桁が違いますからね。順天堂の総予算は2000〜3000億円ぐらいですが、スタンフォードは3兆円。10倍です。

和田 でもすごいですよね。順天堂の中でも82歳の奥村先生が一番お金を集めてこられるというのは。

奥村 日本の研究者全体の中でもね、僕は15位です。これがそのリストですけど。

和田 (リストを見ながら)錚々たる名前が並んでますね。ノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑教授の名もあります。数多いる研究者の中でもトップ15はすごい。

奥村 年齢的には僕が一番上。本庶さんは同じ歳ですけどね。僕のほうが順位は上(笑)。論文が出てないとこのリストに載りません。いわゆるインパクトファクターってやつです。

和田 ストレスは?

奥村 それはやっぱりね。でもグループでやってますから。僕だけじゃなくみんなで。

和田 精神医学的にも、人とつながることはストレス対策になると言われています。

奥村 やっぱり人ですよ。ヒューマニゼーション。それが一番大事だと思いますね。

和田 仲間との一体感を持つことで、免疫も高まる。

奥村 そうそう。グループでやってると、全体で戦おうという気分になりますから。

※5回目に続く

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年4月号

人生の相棒、アートな家具

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年4月号

人生の相棒、アートな家具

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ4月号』が2025年2月25日に発売となる。今回の特集は“アートな家具”。豊かな人生を送るうえでなくてはならない、惚れ惚れするほどの家具を紹介。表紙には羽生結弦が撮り下ろし初登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる