元気に長生きしたければ「免疫力」を上げること。免疫細胞のひとつ、NK細胞を発見し、83歳の今も免疫研究を最先端でリードする奥村康さんとの仰天・医学対談!『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。5回目。

NK細胞を活性化させるには笑うのがいい
和田 チームで仕事をしていると人に気を使うとか、いろんなストレスもあるでしょうね。何か心掛けていることはありますか?
奥村 ストレスの逃がし方は、いろいろありますけどね。一般の人によく言うのは「NK(細胞)を上げるにはゲラゲラ笑うのがいい」って。
和田 それは精神医学的にも言えることです。
奥村 笑うだけでNKが上がっちゃう。それはいろんな人が実験をして実証されています。吉本興業に協力してもらった実験もありましてね。観客に漫才や落語を楽しんでもらった後、採血をしてNK細胞の活性を調べた。そしたらね、NKが上がってるんですよ。アメリカの実験では、面白い映画を見せてゲラゲラ笑った人とクスクス笑った人を比べると、ゲラゲラ笑った人のほうがNKの活性が高いという結果も出ています。
和田 大笑いするのがいい?
奥村 日本の実験ではクスクス笑いでもNKが上がることがわかっています。そこは国民性の違いかもしれない。いずれにしても笑いが免疫を高めてくれるのは確かですよ。
和田 なるほど。
奥村 心理学者に聞くと、声を出して笑ってるときは、頭が真っ白でなんにも考えてない。借金のことも仕事のことも、好きな異性のことも考えてないんだそうです。つまりね、時々、頭を白くする、なんにも考えてない状態にすることが、NKを上げるコツなんですよ。
和田 なるほど。笑いじゃなくてもいいわけですね。
奥村 そうです。例えば「南無妙法蓮華経」と唱えるとか、カラオケで熱唱する。僕は関西出身だけど、阪神ファンは夢中で応援するでしょ。そんなのもいい。趣味に没頭するのもいい。
和田 なるほど。
奥村 それとね、一番簡単なのは、人の悪口を言うこと。ものすごくNKが活性します(笑)。
和田 面白い。
奥村 悪口ってなかなか言えないでしょ。人の悪口を言ったら自分に返ってくるんじゃないかって思ったりするから。だけどね、本当の親友には言える。そうやって、心から安心して付き合える人を持つのも、すごく大事なの。
和田 いいですね。
奥村 僕もね、よっぽど親しい人にだけは少し言う(笑)。
和田 僕もYouTubeとかで人のことをボロクソに言う(笑)。
奥村 あー、だからか。あなたはあんまりストレスないみたい。NKも強い(笑)。
和田 ですね。
奥村 なんでも言い合える親友を持つ、あるいは家族を持つっていうのは大事なんですよ。
和田 僕も日大の常務理事を1年半やって、世の中の人は大変だなと思いましたね。僕は早くにクビになったからよかったけど(笑)。言いたいことがなんにも言えなくて、当時は非常にストレスがありましたね。
奥村 辞めてよかったよ。

順天堂大学医学部 免疫学特任教授。1942年島根県生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。サプレッサーT細胞の発見者であり免疫学の第一人者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞などの受賞歴がある。著書に『”健康常識”はウソだらけ 免疫力アップがすべてのポイント!』他。
精神状態は人にうつる
奥村 ストレスって「ネガティブなストレス」と「ポジティブなストレス」があってね。例えば、お母さんに怒られるとか期末試験とか、逃げようのないストレスはネガティブ。動物実験の結果では、一番激しいストレスは、お母さんから子どもを取り上げたとき。NKがものの見事にドスーンと下がりますよ。要するに、愛するものを失うのは一番強いストレスなんです。
和田 人間もそうですよね。
奥村 この実験には興味深い続きがあってね。その隣のケージに元気のいい動物を置いておくんです。すると、子を取られたお母さんのNKが下がると、隣の元気な動物のNKも一緒に下がっちゃうんですよ。
和田 精神状態がうつる?
奥村 そう。うつるんです。なぜうつるかというシステムは、まだわからない。電波なのかなんなのか、なぜうつるかというシステムは、まだわかっていません。だけど見事にうつるわけです。
和田 逆はないんですか? 落ち込んでいるほうに、明るいのがうつるっていうのは。
奥村 そのデータはない。この仕組みがわかるのが21世紀の医学でしょうね。
和田 でも実際、楽しい人と一緒にいると楽しくなりますよね。
奥村 そうそう。だからできるだけ、楽しい人のそばに行ったらいい。和田先生は精神科だから、落ち込んでいる患者さんもいるでしょ。うつるっていうか、引きずられたりはしない?
和田 患者さんの言うことを真正面から受けてたら、たぶんうつっちゃうと思うんです。
奥村 真正面から受けない?
和田 はい。僕の場合は「別な考え方もあるよね」って切り返していくわけですよ。
奥村 なるほど。それが治療にもつながるわけですね。

精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
答えがいくつもある人は心の健康を保てる
和田 相手の考え方を「こうしなさい」と変えようとするのは、ある種の洗脳なんです。これはよくありません。精神科では、Aという考え方をしている人に「BもCもDもあるよね」と「ほかの考え方がある」と教えていく。これが精神科の治療なんですよ。だから僕は、一つのことに対して常にいくつもの答えを用意しておく。すると相手に振り回されずにすみます。
奥村 なるほど。
和田 コロナのときも「家に閉じこもらないと死ぬぞ」って脅されたでしょ。そしたらみんな、びびって元気がなくなった。NKも下がったわけですよ。だから僕は「外に出ましょうね」とか「人としゃべったほうが免疫力が上がりますよ」と、いろんな考え方を話したわけです。
奥村 さすがですね。
和田 テレビって、人間を単細胞にするんですよ。例えば、お年寄りが事故を起こしたら、全部年のせいにしてしまう。年を取っても事故を起こさない人はいっぱいいるわけだから、本当はほかの可能性も考えるべきなんですよ。なのに一律に「年のせい」と言うから、みんなそれを信じて免許を返納する。交通事故はね、若い人だって起こすんですよ。むしろ若い人の事故のほうが多いくらいです。
奥村 そうそう。
和田 僕は、お年寄りの交通事故は、年のせいだとは考えてません。むしろ薬の影響のほうが大きいと思っています。アメリカの論文なんかを見ると「高齢者の交通事故の8割は運転障害薬を服用」とあるくらいですからね。物事を単純に考えてると、いいように引きずられてしまう。弱くなってしまうんですよ。
奥村 おっしゃる通りだね。
和田 単純に考えてると、いいときは楽なんです。ところが、単純だと、悪い状況になったときに、悪いことしか考えられなくなる。やはり、いろんな状況に応じて、いろんな可能性を考えられる人のほうが強いと思いますね。
奥村 それは間違いないね。
※6回目に続く