元気に長生きしたければ「免疫力」を上げること。免疫細胞のひとつ、NK細胞を発見し、83歳の今も免疫研究を最先端でリードする奥村康さんとの仰天・医学対談!『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。6回目。

デタラメだったコロナ対策
和田 コロナのニュースもね、「何人亡くなった」と総数でひとまとめにして言われたので、みんなびびったわけです。
奥村 そもそもね、若い人は死んでない。病気を持った人ばかりですよ。今、日本には80歳以上が1000万人くらいいて、そのうちの100万人ぐらいが、なんらかの病気を持って、寝たきりの状態です。コロナで亡くなった8~9割はその方たちです。
和田 そうですね。コロナよりインフルエンザのほうがよっぽど怖い。若い人も亡くなりますからね。
奥村 おっしゃる通り。
和田 不安を煽られるとNKは下がりますよね。
奥村 そりゃそうです。僕はコロナのニュースが出た当初から「ウイルスが日本に入ってきたら10年は居着く。だからムダに恐れるな」と言っていました。
和田 なるほど。コロナは弱いウイルスですからね。
奥村 そう。免疫からすると、弱くて、非常に印象の薄いウイルスだから、叩きようがない。だから居座る。ワクチンができても効かないんですよ。
和田 それ、わかりやすくお話しいただけますか。
奥村 例えば、風邪は1年に3回も4回もひく人がいるでしょ。それは弱いウイルスだからです。NKは弱い相手をわざわざ覚えないんですよ。ところが、インフルエンザは1回ワクチンを打つと4~5年は効く。ウイルスが強いとNKは「こいつはやばいやつだ」と覚えるんです。はしかのワクチンはもっと効くでしょ。1回打つと一生効く。非常に印象が強いんです。
和田 なるほど。
奥村 怖かった学校の先生の顔はずっと覚えてるけど、さっき電車で会った人の顔は覚えてない。免疫からすると、コロナは電車で会った程度の印象なんです。だから長く居座る。でも弱いから被害はそれほど出ない。
和田 なのに、いまだに多くの人がマスクをしている。
奥村 デンマークの実験では、マスクをしてもしなくても、感染症の数、死人の数は全然変わらないことがわかってます。
和田 ですよね。僕がマスクを反対するのは、いろいろ理由があるんだけど。その一つは不織布マスクって性能が良すぎるから、吐いた息を自分で吸うことになるんですよ。酸素濃度が低くて二酸化炭素濃度が高い悪い空気をわざわざ吸っている。簡単に言うと、口から吐く息というのは排気ガスなんです。そんなもん吸ってたら、何年か後にガンとか、ほかの病気が増えるのではないかと危惧してます。
奥村 僕はね、コロナが入ってきたときに一番流行るのはどこかって聞かれて「大阪の北のほうだ」って答えたんです。あの辺りの河内弁って、つばきが飛ぶの。大阪の人は声も大きいからね(笑)。だからコロナの立ち上がりが一番早いんじゃないかと予想した。逆に、東北や島根はボソボソしゃべるから遅いってね。そしたら「奥村先生の言った通りの立ち上がりになりました」って。だから立ち上がりは、マスクの価値はあったかもしれない。

ウイルス疾患が増えた理由
和田 もう一つ、免疫の件で、奥村先生にお聞きしたくて。
奥村 はい。なんでしょう。
和田 コロナの後、ここ数年、インフルエンザやマイコプラズマなどの感染症が増えてます。それは菌やウイルスを遠ざけたために、免疫が弱まったからではないかと。というのは、昔、藤田紘一郎先生という医科歯科の先生が「清潔は病気だ」と言っていて。几帳面にアルコール消毒をしたり手洗いをしたりすると、逆に免疫が落ちる、と。
奥村 それは、その通りですね。外からの刺激は大事ですから。
和田 例えば、僕らが外国に行って水を飲んだらお腹を壊すけど、そこに住んでいる人は慣れてるからなんともない。それと同じで、ある程度、ばい菌やウイルスに触れていたほうが、免疫は刺激されて、よく働くんじゃないかと。
奥村 それは絶対そうです。
和田 コロナの3年間できれいにしすぎたから、日本人の免疫力が落ちた。このため、それまでは撃退できていたマイコプラズマやインフルエンザにもやられるようになったんじゃないかと。僕はそう思うんです。
奥村 おっしゃる通りかもしれませんね。

自然免疫が大事
和田 僕は毎朝、ヨーグルトを食べるんですが、免疫力を高めるには、いいんですかね?
奥村 僕たちも昔、実験をしたんですよ。ある町の2つの小学校で、それぞれ「乳酸菌のあるR1」と「乳酸菌のないR1」を飲んでもらう。味は同じにして。どっちがインフルエンザに効果があるかを調べたんです。結果は「乳酸菌の入ったR1」の学校はNKも高く、学級閉鎖にならなかった。反対に「乳酸菌の入ってないR1」の学校はNKが低く、学級閉鎖になったんです。それは米国の論文に出しました。
和田 R1じゃなくて、普通のヨーグルトでもいい?
奥村 そうだと思うけど、僕は論文がないことは言えない。大学の先生はね、論文がないことは絶対に言えないの(笑)。
和田 (笑)。なるほど。コロナの前まではね、冬場になると、免疫力を高めるために「しっかり栄養を取りましょう」「ビタミンCを取りましょう」「軽い運動しましょう」などと言ってたんですよ。なのに、コロナ以降は「こうしたら免疫が上がる」という話はあんまりしなくなって、薬やワクチンで対応しようと言い出した。これ、絶対におかしいと思うんです。
奥村 その通りです。
和田 人間はやはり、自然免疫が第一で、それでも対応できなかったときに初めて薬って話になると思うんですよ。
奥村 本当にその通りですよ。

精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
奥村康/Ko Okumura(左)
順天堂大学医学部 免疫学特任教授。1942年島根県生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。サプレッサーT細胞の発見者であり免疫学の第一人者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞などの受賞歴がある。著書に『”健康常識”はウソだらけ 免疫力アップがすべてのポイント!』他。
21世紀は心の医学
和田 対談の5回目で、奥村先生が21世紀は心の医学だとおっしゃいました。
奥村 心の仕組みを解明する時代ですよ。脳みそが電気で動いてるとわかったのは最近でしょ。それと同じで、目に見えないものがあるに違いない。違う電波かなんかね。
和田 何かある。もちろんね、いろんな仮説は立てられます。例えば、人間の表情もその一つでしょう。相手のニコニコした顔を見てると人間、明るくなる。
奥村 表情、大事ですよね。
和田 僕がマスクを反対するのも、それが理由の一つです。マスクをしてると、相手がニコニコしてるのか、むっつりしてるのかわかんない。僕ら精神科の医者は、患者さんにマスクをされちゃうと、表情がわからないから、すごい困るんですよ。
奥村 それは困りますね。心のことは現場にいる和田先生が一番わかっている。21世紀は心の医学。和田先生の分野です。
和田 メンタルと免疫も連動しています。
奥村 たしかに。心の動き一つで免疫は影響されますからね。
和田 今日はいい話ができました。ありがとうございます。
奥村 こちらこそ、ありがとう。また話しましょう。