『あしたのジョー』の作者であり、漫画家初の文化勲章を受章、86歳の今も連載を続けるレジェンド漫画家・ちばてつや。高齢者医療の専門家で、『80歳の壁』著者・和田秀樹。“長生きの真意”に迫る連載、ちばてつや編7回目。

無理をせず自然に任せる
和田 ちば先生は外に出るのは好きなほうですか。
ちば そうですね。長い間ひきこもっているとまいっちゃう。すぐうつっぽくなるんですよ。だから、できるだけ日に当たりたいんです。
和田 それはいいですね。
ちば 意識して表へ出るようにします。天気がよければとくにね。お日様に当たる、自然の中に身を置くことは意識していますけど、雨が降ったら降ったで。それはそれで楽しい。
和田 晴耕雨読じゃないけど、自然に任せ、無理しないのが一番です。できること、やりたいことを気の向くままに。
ちば 自然に任せるのね。和田先生は肌がつやつやですね。やっぱり自然に任せて?
和田 おいしく食べる。ちば先生と同じで、なんでもおいしく食べますね。
ちば 雑食ですか(笑)。
和田 はい。一応、雑食を心がけています。それでも、タンパク質はたくさん取ろうと意識していますね。
ちば 肉とか魚とか。
和田 そうですね。ちば先生の世代は若い頃、食べる物がなくてたいへんな思いをしたんじゃないですか。だけど今はありがたいことに、なんでもある。その幸せを感じています。
ちば お酒も飲むんですか?
和田 ワインが好きです。
ちば ワインもいいみたいですね、赤いワインはね。
和田 と思っているんですけどね。ちば先生、お酒は?
ちば 私もお酒、大好きなんですけどね。だけど病気してからね、すぐに酔っ払っちゃう。10年前に腸を少し取ったんですよ。
和田 なるほど。
ちば 怪しいポリープがあるからって取られちゃった。ちくわ1本分ぐらい。
和田 ちくわ1本(笑)。
ちば そう(笑)。ちくわみたいなね。腸を取られたら、そのあとガラッとお酒が弱くなっちゃってね。おいしいとは思うんだけど顔も体も真っ赤になってね。
和田 僕も最近弱くなりました。前は結構飲めたんだけど、今はワイン半分飲めば、もうかなりできあがる(笑)。
ちば 半分ってボトルの?
和田 ボトルの半分ですね。
ちば すごいのんべえですね(笑)。
和田 前は1本ぐらい飲んでいたんですよ。でも半分ぐらいが体にいいらしいんです。だから弱くなったのはラッキーかなと思うようにしています(笑)。
ちば 自然に調整しているんですかね、体がね。
和田 おっしゃる通りです。
ちば 体は賢いですね。
和田 そうなんですよ。
ちば 体の言うことを聞いてね。やっぱり自然に任せるのがいいんでしょうね。

1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数
自分に合った数値がある
和田 偉そうなことを言うようで申し訳ないんですけど。医者は検査の結果や数字を見ていろいろ言いますが、本来、その数字は一人一人にとって意味が違うはずなんです。それを体が教えてくれるかどうかが大事なんでね。
ちば 自分の体に聞く。
和田 そうです。体調が悪いなら治療を受けるなり、数字を下げるなりしたほうがいいけど、体調がいいのに、数字が悪いからって薬を飲む必要はない。それはかえって体に悪いと、僕は信じているんですよ。
ちば だけど病院に行けばね、お医者さんも仕事だから、何か見つけてあげないといけないって思うでしょ。
和田 そうなんです。
ちば だから血圧がどうとかいろいろ言ってくる。
和田 言われますか。
ちば 心配するとね、「じゃあ下げるお薬を出しましょう」なんて言ってね。すぐ病気にされちゃうよね。
和田 血圧はね、高いのはよくないと言われています。だけど高いほうが明らかに頭は冴えるんです。
ちば そうですか。
和田 だって血圧が低いとフラフラするじゃないですか。元気もなくなるし、頭もボーっとする。以前、この連載で87歳のデイトレーダーと対談したんですよ。藤本茂さんという方で、20億円を動かしている。
ちば 20億! すごいですね。
和田 今も毎日、パソコンの前に朝から晩まで座って、株の取引をやっているんです。神戸のご自宅まで会いに行ったんですが、藤本さんの血圧、いくつだと思いますか?
ちば 高いんですか?
和田 はい。246だって。
ちば うわー。
和田 ねえ(笑)。「医者から血圧を下げろと言われませんか」と聞いたら「言われても下げない。血圧下げたら頭が働かん。株の勘が鈍るねん」って。
ちば おお、すごいな。だけど246って、ちょっと怖い感じがしますね。
和田 怖いんですけど、大事なのは血管が丈夫かどうかなんです。ちば先生、血圧は?
ちば ちょっと高めなんです。180とかね、ほっとくと200ぐらいになる。たぶん今飲んでいる薬はね、血圧下げる薬も入っていると思います。そんな強い薬じゃないと思うけど。
和田 強い薬じゃないほうがいいですよ。年を取って正常まで下げちゃうと、ちょっと頭がボーッとして仕事に影響が出ることも出てきますから。ちば先生のようなクリエイティブな仕事をされている人は、とくにそうです。血圧はちょい高めのほうが元気でいられると僕は思っています。

漫画家。1939年東京都生まれ、満州育ち。1956年にデビュー。2024年に菊地寛賞受賞、同年文化勲章を受章。主な作品に『ハリスの旋風』『あしたのジョー』『おれは鉄兵』『あした天気になあれ』など多数。現在もビッグコミックにて『ひねもすのたり日記』を連載中。
タンパク質は肉、魚、植物系、3つをバランスよく食べる
和田 日本人は戦後、肉を食べるようになって栄養状態が改善しました。そこから平均寿命も延び始めたんです。タンパク質を摂るようになって血管が丈夫になった。だから脳卒中、とくに脳出血が減ったんですよ。
ちば そうみたいですね。タンパク質は何がいいんですか。
和田 なんでもいいんです。豆腐でも肉でも魚でもいい。だけどバランスよく取ったほうがいい。例えば、肉だけでなく魚も食べる。交互に、1日おきで構いません。すると心筋梗塞になるリスクが減るんです。アメリカ人は肉だけだから心筋梗塞になるんです。
ちば お豆腐もいいですか?
和田 お豆腐もいいですね。大豆そのものよりもイソフラボンという成分がいいですからね。ただお豆腐だけではなく肉と魚も食べてほしいです。
ちば 肉と魚と豆腐ですね。
和田 つまり和食がいいんです。肉と魚、大豆などの植物系、3つのタンパク質が食べられるのは和食だけですからね。
ちば じゃあもう、タンパク質を一生懸命食べなきゃね。血管を丈夫にしてね。ああ、また長生きしちゃいそうだね(笑)。
和田 長生きしてほしいです。だってちば先生は、世界の宝みたいな人なわけですから。
ちば いやいや。今日は体にいいお話をたくさん聞いたからね。
和田 漫画は世界に誇る日本の文化なので。
ちば ありがとうございます。せっかく漫画が日本の文化だと言ってくれるようになったんだから、もっと長生きしてね。漫画を世界中に広めていきたいと思います。手塚治虫さんや、漫画家仲間たちの代わりに頑張りますよ。
和田 今日はどうもありがとうございました。
ちば こちらこそ、ありがとうございました。