世界中のラグジュアリーホテルやレストランを手がけるデザイナー・森田恭通氏。その舌を満たすのは、意外にも神戸の餃子や大阪のカレーうどん、香港のワンタン麺だった。駆け出しの頃に出会い、今も記憶に残る”初心に帰れる味”と、今も足繁く通う一軒を紹介する。【特集 心震えるS級グルメ】

駆け出しの頃に通った初心に帰れる味
食をこよなく愛し、世界各国の美味を知る森田恭通氏が紹介してくれたのは、神戸の味噌ダレぎょうざに大阪のカレーうどん、香港の海老ワンタン麺。
グラマラス、ラグジュアリー、ゴージャスといったイメージが強い森田氏だけに意外なセレクトに思えるが、「ぎょうざは約40年、うどんとワンタン麺は30年ほど前から通っていて、駆け出しの頃を思い出させてくれる味」と語る。
「僕は、街場の中華そば店など親しみのある店もデザインしますが、その際、大切にしているのはベタな感じ。のれんをくぐるとカウンターにビニール製のスツールが置かれていたり、壁にメニューがベタベタと貼られていたり、厨房のライブ感を楽しめたり。その“おいしそうな雰囲気”に、お客様は誘われるのですから。このことを学べたのは、18歳で仕事を始めたばかりの頃、この店をはじめ、10代の頃から街の店に通っていたからだと思います」
超がつく高級レストランにエレガントなラウンジ、艶っぽいバー、カウンターとスツールのみのカレーショップ。どんなオファーにも対応するのに必要なのは、フラットでニュートラルな姿勢。それを維持するために、そして、初心に帰るために、今も森田氏は件の店に足を運ぶ。
森田恭通のS級グルメ4選
1.味噌ダレで楽しむ神戸餃子の名店。ぎょうざの店 ひょうたん 元町店の「ぎょうざ」

「18歳で初めてバーのインテリアを手がけた頃からだから、出会ってからもう40年になりますね。神戸の餃子は味噌ダレが定番で、店それぞれの味があるんですが、僕はここのタレが一番好き。豚ミンチが入った赤味噌ベースで、今でも無性に食べたくなります」
国産キャベツ・国産豚肉を100%使用し、モチモチの皮で包んだ餃子に、豆味噌・ひき肉をふんだんに使った赤味噌ダレ。神戸スタイルの餃子は、1957年の創業当時から守られた伝統の味だ。
「僕の行きつけは元町店。カウンター6席だけの小さいお店で、スツールの後ろを通るのがやっとというくらい狭いんですよ。それがまた風情があるんです。2020年にクローズした時は驚きましたが、1年経たないうちに復活してくれて。長年のファンとしてはホッとしました」
2.香港へ行くたびに食べる、忘れられない一杯。麥奀雲吞麵世家Mak's Noodle「海老ワンタンヌードル」

現在、国内にとどまらず、香港、シンガポール、アブダビ、インドネシア、パリなど、海外にも活躍の場を広げている森田氏。海外最初のプロジェクトになったのが、2001年の香港の日本料理レストランだった。
「香港は、僕が27歳で初めて海外旅行した想い出の場所。その時、尖沙咀で偶然入った店で食べた海老ワンタン麺の味が忘れられなくて、香港に行くたびに通っています。海老ワンタン麺は他のお店でも食べましたが、やっぱりここが一番おいしい」
森田氏が絶賛するのが、1920年創業の「麥奀雲吞麵世家Mak's Noodle」。森田氏が初めて訪れた尖沙咀店以外に九龍や香港島内に数店舗展開しており、香港人の誰もが知る名店だ。
「今、香港で手がけている店の目の前にも支店があって、そちらにもおじゃましました。香港の街は、僕が初めて訪れた頃からずいぶん変わりましたし、お店の移り変わりも激しいですが、この店だけは昔のまま。ここに来ると、いつかは海外のお店をデザインしたいと野心に燃えていた青年時代を思い出します。初心に帰れる味ですね」
3.出汁の香りに誘われる、大阪の名物。丸万「カレーうどん」

「このお店も通い始めてもう35年になるんじゃないかな。三輪車に乗っていたご主人の息子さんが立派な大人になっているくらいですから。大阪に帰ると、寄りたくなるお店のひとつですね」
店が立地するのは、金属や機械工具の街として知られる立売堀。年季の入ったカウンターテーブルの向かいでは、うどんをゆでる釜からもうもうと湯気が立ち上り、豊かな出汁の香りが食欲をそそる。
「他にもメニューはあるけれど、僕が頼むのは『カレーうどん』。関西ならではの出汁うどんにカレーが入っていて、とにかくおいしいんですよ。
常連さんも多いけれど、関西近郊をはじめ、いろんな場所からわざわざ食べにくる人がたくさんいるみたいです。それほど人気があるのは、店主のお人柄の良さもあるのだと思います。うどんだけでなく、お店全体が温かいんです」
【番外編】どこか懐かしさを感じる大人のお子様ランチ。LA & LE「 海老マカロニグラタン」
前述の3店は森田氏にとって郷愁を抱くS級グルメだが、それとは違う理由でS級グルメとして挙げてくれたのが、2026年3月オープンの「LA & LE」。パリのカフェ文化の象徴、「カフェ・ド・フロール」で20年以上、唯一の日本人ギャルソンとして活躍した山下哲也氏によるカフェ・オールダイニングである。
「おいしくて、サービスがよくて、お客様も含めて雰囲気が良くて、昼も夜も同じメニューがオーダーできて、オフィスにも近い。だから、ついつい足が向いてしまいます。
打ち合わせに利用することも多いんですが、誰を連れて行っても、居心地が良くておいしいと好評で。とくにフランス人を連れて行くと感激してくれます。フランス人にとってS級グルメなのかもしれません」
フランス人が魂を揺さぶられる理由は、どのメニューも本場を感じさせる味なうえに、お米をミルクで煮込んだデザート「リオレ」といった伝統的なメニューがラインナップされているため。「フレンチフライ」はプレーンでサーブされ、塩やケチャップなどで自分好みに味つけするスタイルだが、それもフランス流だ。
「何を食べてもおいしいけれど、僕が一番気に入っているのが『海老マカロニグラタン』。バゲットにめちゃめちゃ合うのに、どこか懐かしさを感じる味で癒やされます。隠し味にイカ墨を使ったカレーもおすすめです」
オールデイダイニングのため、遅めのランチの後にゆっくりとお茶をすすったり、アペリティフの後にディナーをしたりと、ゲストは思いのままに過ごせる。そんな自由度の高さにも、パリのカフェの息吹が感じられる。

1967年大阪府生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で空間デザインを手がけ、2015年よりパリで写真展を開催するなど、アーティストとしても活動する。2026年12月から2027年4月までヴェルサイユ宮殿からの招聘で個展を開催予定。



