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2023.05.04

オリックスの超逸材、山下舜平大の高校時代

今がまさに飛躍の時。プロ初登板で開幕投手を務めたオリックス・山下舜平大(しゅんぺいた)がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは……

オリックス・山下舜平大

20歳の剛腕に多くの球界関係者が注目

この連載はそのタイトル通り、スターとなった選手の無名時代を紹介するものだが、今回取り上げるのはまさに今が“夜明け”という選手である。その選手とはオリックスの3年目、山下舜平大だ。

2022年までの2年間は二軍暮らしが続いていたものの、2023年はキャンプからメキメキと頭角を現すと、プロ初登板で開幕投手を任せられたのだ。

山本由伸、宮城大弥の先発2人がワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場していた影響はもちろんあるものの、期待の高さは相当なものがうかがえる。

そして山下もそんな首脳陣の思いに応えて6回途中を1失点、7奪三振と好投。味方の援護がなく勝ち星はつかなかったものの、続く4月11日の楽天戦では5回を無失点、10奪三振と圧巻の投球を見せてプロ初勝利をマークした。

結果ももちろんだが、コンスタントに150キロ台後半をマークし、そのスケール溢れるピッチングに多くの球界関係者からも驚きの声が上がっている。

なかなか空振りが奪えなかった高校2年

そんな山下は九州でも指折りの強豪チームである福岡大大濠の出身である。

初めてそのピッチングを見たのは2年春に出場した九州大会の対球磨工戦だった。先発のマウンドに上がった山下は8回を1失点と好投。ストレートの最速も2年生としては十分な数字となる144キロをマークしている。当然試合開始直後からその投球は目立っており、当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「細身だが長いリーチを生かした腕の振りは出色。高い位置から振り下ろし、ボールの角度も申し分ない。(中略)体重移動のスピードは不十分で、まだまだ躍動感には欠ける印象。スピードの割にバットに当てられるボールが多く、突然ボール球が続くのも課題。(中略)ただ長身でいかにも投手らしい雰囲気あり、体ができてくればまだまだ速くなりそう」

当時のプロフィールは身長186㎝、体重80㎏となっており、写真を見てもまだ高校生らしい体格ということがよく分かる。投球自体ももちろん素晴らしい面はあったが、メモの通りなかなか空振りが奪えず、三振の数は3個にとどまっている。

この時点では高校からのプロ入りというよりも、同校の先輩である大石達也(元西武)や三浦銀二(DeNA)のように大学を経由してプロを狙うタイプという投手に見えた。

エース山本由伸の“後釜”候補

そんな印象が一変したのが約1年後のことだ。

山下が3年生となった2020年はコロナ禍によって春夏の甲子園大会など公式戦が軒並み中止となり、選手にとってはアピールの場は極端に少なかったが、それでもスカウトの間では『福岡大大濠の山下が凄くなっている』と評判になっていたのだ。

実際にピッチングを見られたのは2020年8月3日に行われた福岡県福岡地区の独自大会決勝、対福岡戦だったが、まず驚かされたのがその体格である。

上半身も下半身も2年春とは別人と思えるほど大きくなっており、マウンドでの立ち姿はとても高校生とは思えないものとなっていたのだ。

そして投球でも山下は大きな成長ぶりを見せつけることとなる。

1回から投じたストレート5球すべてが147キロ以上を計測すると、その後も145キロを超えるスピードを連発。9回までスコアボードに0を並べて見せたのだ。

10回からはノーアウト一・二塁から始まるタイブレークとなり、最終的には延長11回の末に3対4で敗れたものの、自責点は1。9回に150キロ、11回にもこの日最速となる151キロをマークしている。

近年は高校生でも150キロを超えることは珍しくなくなっているが、ここまで長いイニングで高い出力を維持できる投手はなかなかいないだろう。

そしてもう一つ驚かされたのが、将来のことを考えてカーブ以外の変化球を封印していたという点だ。タイブレークで敗れたのは完全にストレートを狙われたという部分は確かにあったものの、今の時代にストレートとカーブだけでこれだけのピッチングをするというのは本当に驚きである。

山下は結局この年のドラフト1位でオリックスに入団。プロでは2年間の雌伏の時を経て、まさに今飛躍の時を迎えているというのは冒頭で触れたとおりである。

同じ学年では以前このコラムでも取り上げた高橋宏斗(中日)がWBCでも活躍してトップランナーとなっているが、投手としてのスケールは山下の方が上回っているという声も少なくない。果たしてここからどこまでの投手になるのか。今後の山下の投球にぜひ注目してもらいたい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

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