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2021.04.15

オリックス・山本由伸が才能の片鱗を見せた高2の秋季県大会【スターたちの夜明け前】

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。連載コラム「スターたちの夜明け前」第2回はオリックスの若きエース、山本由伸投手を取り上げる。連載【スターたちの夜明け前】

2015年9月26日秋季高校野球宮崎県大会・延岡学園戦

強豪・延岡学園相手に4番投手で出場していた。撮影=西尾典文

現在のプロ野球で最も勢いのある若手投手となると、最も多くの人が名前を挙げるのが山本由伸(オリックス)ではないだろうか。プロ入り2年目の2018年から中継ぎとして一軍に定着。先発に転向した'19年は最優秀防御率、'20年は最多奪三振のタイトルを獲得している。今シーズンも開幕戦こそ負け投手になったものの、続く登板ではソフトバンクを相手に被安打2、13奪三振で完封という圧巻のピッチングを見せた。防御率0.78、25奪三振はいずれも4月11日終了時点でパ・リーグトップの成績である。

そんな山本だが高校時代は全国的に有名な選手ではなく、ドラフトの順位も4位とそこまで評価が高かったわけではない。ただそのプレーは当時から大きな可能性を感じさせるものだった。山本のピッチングを初めて見たのは'15年9月26日に行われた秋季高校野球宮崎県大会、対延岡学園戦だ。この日、山本は4番、ピッチャーで出場。'13年夏の甲子園で準優勝も果たしている県内屈指の強豪を相手に抜群のピッチングを披露する。

2年秋にして「悪いところがない」

ストレートは立ち上がりの先頭打者から143キロをマークし、そこからどんどんスピードアップして最終的には148キロに達した。そして非凡さを感じさせたのが走者を背負ってからのピッチングだ。高校生の場合、セットポジションになるとスピードがガクッと落ちることも珍しくないが、山本は全くそのようなことがなく、コンスタントに140キロ台中盤を維持していたのだ。変化球もスライダーをカットボール気味の速いボールと少しスピードを落としたボールを投げ分け、130キロ台のフォークもブレーキ十分。110キロ台のカーブで緩急をつけることもできる。全てのボールでしっかり腕が振れるというのも高校生離れした長所だった。5回に制球を乱して満塁のピンチを招き、走者一掃のタイムリースリーベースを浴びて3点は失ったものの、失点はこのイニングだけ。最終的には被安打5、12奪三振で完投勝利を飾っている。

そして山本が素晴らしかったのはピッチングだけではない。4番を任せられていたバッティングでも第1打席でいきなり先制のスリーベースを放つと、第3打席でもレフト前へタイムリー。同点で迎えた9回裏にはこの日、2本目のスリーベースでサヨナラ勝ちの口火を切っている。プロ入り後はパ・リーグでプレーしているため基本的に打席に立つ機会はないが、打者としても大きな才能を持っていたことは間違いないだろう。

当時の私のノートには10行にわたって山本のプレーに関するメモが残されており、その最後には「悪いところがない」とまで書いている。私自身、高校2年秋の選手にこれだけの誉め言葉を並べることは珍しい。同じ学年では今井達也(作新学院→西武)、寺島成輝(履正社→ヤクルト)、藤平尚真(横浜→楽天)などが高い評価を受けてドラフト1位でプロ入りしているが、彼らと比べても大きく劣っている点は感じられなかった。

日本代表としても活躍する山本由伸 (c)アフロ

全国区ではなかったため低い評価に

ではなぜそんな山本がドラフト4位指名となったのだろうか。3年春に故障したという情報があったとも言われているが、一つは大舞台に出場した経験がなかったということである。山本が在籍していた当時のチームはなかなか勝ち進むことができず、甲子園はおろか九州大会にも出場していない。あくまでも"九州で"評判の投手にとどまっていた点は大きかっただろう。もう一つは体格の問題だ。先述した試合の後、視察していたスカウトと山本について話をしたが、「身長がもう少しあればね」というコメントを残していたのをよく覚えている。

当時の山本は177㎝、73㎏と投手としては確かに大柄ではない。プロのスカウトは高校生には実績よりもポテンシャルを求める傾向が強く、その点で平凡な体格の山本は物足りなく映ったと考えられるだろう。

しかしそんな低い評価をことごとく覆し、今年で23歳という若さでプロ野球を代表する投手にまで成長したことは見事というほかない。わずかなスタンドしかない宮崎の地方球場でその才能の片鱗を見せてから6年。山本の現在のピッチングを見る度に、若者の持つ大きな可能性を感じずにはいられない。

【第1回 ダルビッシュ有(パドレス)】

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

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