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2021.04.01

ダルビッシュ有が開花した高校3年春のセンバツ1回戦【スターたちの夜明け前】

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。連載コラム「スターたちの夜明け前」第1回は、メジャーリーグでも屈指の投手となったダルビッシュ有(パドレス)を取り上げる。連載【スターたちの夜明け前】

2004年3月26日 選抜高校野球1回戦・熊本工戦

2004年選抜の熊本工戦でノーヒット・ノーランを達成した東北高3年時代のダルビッシュ有 ©毎日新聞社/アフロ

2004年選抜高校野球1回戦・熊本工戦

ダルビッシュの名前が野球界の間で聞かれるようになったのは中学3年とかなり早い段階だった。中学硬式野球のクラブチーム、全羽曳野ボーイズでエースとして活躍。当時から190㎝を超える長身と140キロを超えるストレートを誇り、高校野球関係者の間ではその進学先が大きな話題となっていた。最終的にダルビッシュが進学先に選んだのは地元大阪から遠く離れた宮城県の東北高校。入学した当時は2学年上に高井雄平(現ヤクルト)が高校ナンバーワン左腕として注目を集めていた。

ダルビッシュは高井の引退した1年秋からエースとなり、2年時には春夏連続で甲子園に出場。夏には決勝進出も果たしている。しかしこれだけの結果を残してはいたものの、ピッチングには常に物足りなさがついてまとった。

筆者が最初にその投球を現場で見たのは1年秋に出場した明治神宮大会。1回戦では平安(現龍谷大平安)を相手に12奪三振で完封勝利をマークしたが、続く2回戦の中京戦では4回途中2失点で負け投手となっている。何よりも引っかかったのがその投球スタイルだ。1試合の中で全力のボールはせいぜい20球程度で、肘を大きく下げてサイドスローで投げることもあった。力を抜いて投げてこれだけ抑えていることが凄いと言えばそれまでだが、打者をかわすことに終始するピッチングのようにも見えてしまった。それはその後に出場した2年春、夏の甲子園でも同様だった。2年秋にも東北高校は明治神宮大会に出場しているが、今度は初戦で済美に打ち込まれて0対7で7回コールド負けを喫している。

3年春にノーヒット・ノーラン達成

そんなダルビッシュの見方が一変したのが3年春の選抜高校野球、熊本工戦だ。1回の先頭打者は味方のエラーで出塁を許し、2回にもワンアウトから四球を出すなど抜群の立ち上がりというわけではなかったが、フォームの安定感もボールの力強さも前年秋と比べても安定感が増していることは明らかだった。序盤のピンチを切り抜けると徐々にエンジンがかかり、3回と4回は6者連続三振を記録。ストレートの最速は147kmをマークし、スライダーとシンカーでも面白いように空振りを奪った。終わってみれば許したランナーは初回の味方のエラーと、2回、5回に与えた四球の3人だけでノーヒット・ノーランを達成。6回からは1人のランナーを出すこともなく、外野に飛んだ打球もわずかに2球というほぼ完璧な内容だった。ちなみに春、夏の甲子園大会ではこれ以降ノーヒット・ノーランは達成されていない(2021年3月21日現在)。

そして何よりも前年と大きく変化を感じたのが明らかに手を抜く場面と、サイドスローでのピッチングがなくなったという点である。もちろん全てのボールを全力で投げていたわけではないが、小手先でかわすような投球は完全になくなっていた。裏を返せばそのような目先のテクニックに頼らなくても、打者を抑えられる次元に達したと言えるだろう。続く大阪桐蔭戦では肩を痛めた影響もあって6回で降板したものの、2本のソロホームランによる2失点で勝ち投手になっている。また夏の甲子園では1回戦、2回戦を連続完封。3回戦の千葉経大付戦で3試合連続完封目前から味方のエラーで追いつかれ、最終的に負け投手となったものの、内容的には見事なものだった。

ダルビッシュは2年時に2回、3年時に2回、合計4回甲子園に出場しているが、成績を比べてみると以下のようになっている。

2年:7試合 49回1/3 被安打44 42奪三振 15四死球 17失点(自責点11)
3年:5試合 42回2/3 被安打25 45奪三振 11四死球 5失点(自責点4)

この数字を見ても、3年春の熊本工戦以降の安定感が際立っていることがよく分かる。ダルビッシュの甲子園というと、決勝で敗れた2年夏が取り上げられることが多いが、本当の意味で超高校級となったのはやはり3年春の熊本工戦以降と言えるだろう。

プロ入り後も1年目のキャンプで喫煙が発覚して謹慎処分となり、メジャーに移籍した後も4年目の2015年には右肘を故障してトミー・ジョン手術を受けるなど決して順風満帆だったわけではない。それでもつまずくたびに見事な復活を果たし、今年で35歳となるシーズンで更に大きな大輪の花を咲かせようとしている。

2004年の春、甲子園に伝説を刻んだダルビッシュ有の物語が終わりを迎える日は、まだまだ先のことになりそうだ。

【第2回・山本由伸(オリックス)】

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

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