国内最大級のオンラインサロンを運営し、さまざまなビジネスや表現活動を展開する西野亮廣氏と、ゲーム特化のブロックチェーンを開発するOasys(オアシス)の代表を務める松原亮氏。エンターテインメントとWeb3のそれぞれの業界を牽引する両者が、ビジネスパーソンが知っておくべきトークンの知識と、トークンを活用することで見えてくる新しい世界について対談した。

日本におけるWeb3の黎明期から業界に身を置き、その最先端をリードしてきたOasys(オアシス)の松原亮氏は2025年3月6日に、Oasys上で誰でも気軽にトークンが発行できるプラットフォーム「yukichi.fun」をリリースした。「トークンを活用した新しいコミュニティのあり方」を考える松原氏は今回、オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」をはじめ、さまざまなコミュニティを運営する西野亮廣氏に熱烈オファーし、対談が実現することなった。
Web3の本質とはトークンである
松原亮(以下松原) 西野さんはこれまでさまざまな活動をしてきたなかで、NFTにもチャレンジをされてましたが、NFTについてはどのように捉えていますか?
西野亮廣(以下西野) NFTをやっていた時に考えたことはあるのですが、投機筋が入ってきていたずらに値があがるのが嫌だなと。僕らはミュージカルなどのファミリーエンタテインメントをやっていますから、お客さんには主婦の方なんかもいて、そういう人がうっかり「儲かるかも」なんて思って僕らのNFTを買ってしまい、後で価値が暴落してめっちゃ損をするみたいなことも起こり得る。それは嫌だなって思ったんですよね。リテラシーの低い人が損をして投機筋が勝つっていう世界線はちょっと……。でもトークンとかの仕組みは面白いと思っています。

松原 なるほど。Oasys上でも、誰でも簡単にトークンを発行することができ、自分たちのコミュニティを盛り上げられるトークン発行プラットフォーム「yukichi.fun」がこれからリリースされるし、さらにその後、投機筋というより“そのコミュニティのために!”というプラットフォームも準備していますので、、西野さんの活動にもいいかもしれません。
(この対談は2025年2月28日に実施。「yukichi.fun」は3月6日に正式リリースされた)
西野 どういうことですか?
松原 例えば、ファンコミュニティーのためにトークンを持ってもらって、一定以上のトークンを持っている人だけがアクセスできるサイトやイベントを企画するとか。
西野 実は僕らも、「チムニータウン」に貢献してくれた人たちにカードみたいなのを送って、例えばイベントの時に並ばずに優先的に入れるとか、そういうことはやろうかなと進めていたんです。
でもこの場合の“貢献”って、グッズや高いチケットを買ってくれたり、“お金を払ってくれた人”ってことになってしまって。お金持ちだけが優先される世界ってあんまり面白くないなと悩んでもいたんですよね。だって会場でゴミを拾ってくれたり、ボランティアしてくれた人だって貢献しているわけで、その方たちに対しても何かポイントを差し上げられないだろうかって。でもお金をあげるわけにもいかないし……。だけど確かにトークンならそれができる可能性がありますね。
松原 そうです。仮にチムニートークンを発行するとして、最初は西野さんがそれを持っていて太客の方に買ってもらうのでもいいですし、貢献してくださった方に渡すのでもいい。さらに「チムニータウン」にはいろんなお仕事をされているスタッフがいらっしゃいますが、西野さんだけではなくその方々もトークンを発行できます。そしてコミュニティ内のいろいろなトークンは、チムニートークンを基軸通貨とすることもできる。
トークンは一定条件を満たして、かつ発行数が100万個以上でないと暗号資産とみなされませんが、規模が大きくなってそれを超えて必要性がでてきたら、法令を遵守しながら実際に通貨性を持たせる形に変換してもいい。そうすれば、本当に「チムニータウン」を中心とした経済圏が完成するんです。

1988年生まれ。アクセンチュアを経て2018年にモバイルオンラインゲーム会社のgumiに入社。ブロックチェーンコンテンツ協会を立ち上げ、2021年にブロックチェーン技術を用いてゲームを制作するdoublejump.tokyoに参画。同年、Oasys創業。トークンを誰でも発行できる「yukichi.fun」を2025年3月6日にローンチした。
西野 「チムニー“タウン”」って言ってますからね、本当に経済を回せる“町”ができるってことか!
松原 僕らはゲームのためのブロックチェーンを開発してきて、ずっとWeb3ってなんなんだろうって考えてきたんです。そして出た答えが「Web3はトークンだ!」ということ。
西野 Web3はトークン! 確かにわかりやすいかも。ちなみにチムニートークンをつくったら、それはコミュニティ外の人も手にいれることができるんですか?
松原 もちろんです。例えば、ジャマイカの人がチムニートークンを買って、『えんとつ町のプペル』のミュージカルを見に日本やブロードウェイにやってくる。そんなことだって可能になります。
西野 面白い!
人は役割とつながりを求めている
西野 話は変わりますが、最近「なぜ人は悩むのか」って考えてたんですよ(笑)。悩むことで得られるものは何かと。そしたらふたつあって、ひとつは「役割」。悩みを解決するために自分がすべきことを見つけますから。そしてもうひとつが、「人とのつながり」。悩みを誰かに相談したり、共感したりってことですね。そもそも時間がありすぎて、暇だから悩むわけです。自分の役割も人とのつながりも、本来は仕事に没頭していれば自然と生まれるものですよね。でもそうじゃない人もいて、だから悩む。
僕は前にミュージカルで、A席、B席、S席というチケットだけではなく「スタッフになれる権利」も売ったんですが、これが最初に売り切れたんですよ。一番高いのに(笑)。
松原 面白いですね。
西野 お金を払ってでも人は役割とつながりを欲している。これだ! と思ったんです。でもやっぱりその役割を得る権利は、日本円でしか売れなくて。お金って、不思議なんです。19歳の時の僕と今の僕、どっちがお金を稼げるだろうと考えると、どう考えたってお金を持っている今のほうが稼げるはず。でも、19歳の時の自分には時間がたくさんあったなって。その時に何か人に貢献してトークンとかもらえていたら、時間でお金の差を埋めることができたかもしれないですね。
松原 そうなんです。例えば、すごく並ぶラーメン屋があったとして、100トークン以上持っている人しか入れない時間があるとか、そういうこともできます。実際、ある街のラーメン屋では常連にならないとビールが頼めないっていうところもあって、それと同じようなことがトークンでできるんですよね。
西野 僕、2018年頃から「レターポット」っていうものをやってるんです。1文字5円で文字を買い、誰かにメッセージを送れるというもの。「ありがとう」だったら5文字なので25円。そしてこれを受け取った人は、5文字分、別の誰かに自由に言葉を送ることができる。換金はできず通貨性はありませんが、たくさんレターを受け取った人は「言葉持ち」になって、人にもたくさん言葉をあげることができる。なんかちょっと、トークンと似てないですか?
松原 確かに。それをもう、ずいぶん前からやっていたなんて先進的ですね!

1980年生まれ。芸人、絵本作家、プロデューサー、映画監督など。著書に、絵本『Dr.インクの星空キネマ』、『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』、『えんとつ町のプペル』、『チックタック~約束の時計台~』、ビジネス書に『革命のファンファーレ』『新世界』『夢と金』などがあり全作ベストセラーとなる。国内最大級を誇る会員制オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』を運営。取締役を務める会社CHIMNEY TOWN(チムニータウン)が、2025年2月24日から上演中のブロードウェイ舞台『OTHELLO(オセロ)』に共同プロデューサーとして参画している。2025年8月9日から30日までミュージカル『えんとつ町のプペル』がKAAT 神奈川芸術劇場にて上演予定。また、2025年11月1日、2日に幕張メッセにて『えんとつ町の“踊る”ハロウィンナイト2025』が開催される。
誰でもブロードウェイに出資できる!? 推し活トークン化の未来
西野 今思いついたんですが、トークンって地方創生とも相性よさそう。地方の温泉地とかって財政が厳しいと言われるところも多いのですが、お客さん自体はどこも結構いる。ただ銭湯の利用料が1回300円とかすごく安いから、いくら人がたくさん来てもビジネス的に厳しくなっちゃうわけです。でも、海外から来た人からしてみれば日本の温泉には3000円でも入りたいですよね。だから、例えば料金設定を地元の人は300円、他所から来た人3000円とかにするのが、一番簡単な解決方法。
だけど、今お話をうかがってて思ったのが、地元民だけど銭湯に行かない人もいるわけで、その人の「300円で温泉に入れる権利」を誰かが買う、つまりその権利をトークンにするってのもありかなと。
松原 そうそう、そういうことがいくらでもできるんですよ!
西野 あと、僕はブロードウェイで上演中のミュージカル『オセロ』に共同プロデューサーとして出資しているんです。デンゼル・ワシントンとジェイク・ギレンホールという世界のトップスターが出演する舞台。出資者なので、作品が当たればちょっとバックがあります。そしてこんな大スターが出ている舞台、絶対当たります。お金を出したら、返ってくるのはもう目に見えている。普通はこんな美味しい案件を日本人が持てるわけがないんですよ。
でも僕らはブロードウェイ村に入りこんで、トニー賞を獲ってるような人たちを自分たちのチームにも入れているんです。だからこそ来た話なんですよね。一回この村に入りこめれば、また同じような出資の話は来る。それも有象無象のショーではなく、美味しい案件ばかりが。
こんな面白いポジションないなと思ったんですよ。で、どうすればもっと面白くなるか考えてみた時、ブロードウェイミュージカルに出資したい日本人専用のベンチャーキャピタルみたいなものをつくってもいいかもって。ひとり10万でも100万でもいいから募る。その人たちは飲み屋とかで「俺、ブロードウェイの『ライオンキング』に出資してるんだよね」とかって言えちゃうわけですから(笑)。
でも実際、ベンチャーキャピタルだといろいろ問題があるんです。それなら作品ごとに会社をつくって、出資したい人はその会社の株を買ってもらう、とかも考えました。でもこれも株主の上限がどうしてもあって。僕はむっちゃ小口で集めるのが面白いと思うし、多くの人が出資者になれるのがいいんですが、それも難しいかなあと。でもトークンをつかっていろいろ整理したら、いろんな可能性がありますよね!?
松原 直接的だと証券性の議論などありますが、工夫するといろいろなことができる思います! 他にも推し活のトークン化とかもできるかも。トークンってエンタテインメントともすごく相性がいいですし、アイデアしだいでどんどん世界を広げていけるものだと思います。
西野 本当ですね。
松原 だから、僕はもっと多くの人に気軽に自由にトークンを発行して遊んでみてほしい。まずは遊び感覚で触れてみる。そうすれば、その面白さを実感することができるはずです。
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Oasys https://www.oasys.games