絶景に抱かれ、大自然と一体化したリゾートは、よりラグジュアリーでプリミティブ、そしてパーソナルなものになっている。特別な体験ができるよう、さまざまな仕かけやデザインが施され、ダイナミックに進化を遂げた、世界のアイランド・ホテルへ。今回は、インドネシア・スンバ島の「NIHI Sumba(ニヒ スンバ)」を紹介する。【特集 死ぬまでに泊まりたい島ホテル】

どことも似ていない秘境ラグジュアリー
アクセスはバリからの国内線のみで、インドネシア人以外には名前も知られていないスンバ島。謎の多いその島に、世界中のラグジュアリートラベラーが「ニヒ スンバ」を目がけ集まっている。そこは2012年に米国の起業家クリストファー・バーチ(トリー・バーチの元夫)が開業したリゾート。すぐに話題となり、海外の旅雑誌で“世界No.1リゾート”に輝いたことも数知れず。ベッカム家族やジェニファー・ローレンスらセレブリティをも魅了する。
滞在の始まりは時代を忘れるほど朴訥(ぼくとつ)としている。スンバ島の玄関口であるタンボラカ空港から「ニヒ スンバ」までは専用車で1時間半。途中、牛や山羊の列に道を塞がれ、子供たちは外国人を見ると人懐っこく「Hello!」と手を振る。徐々に緑が深くなり、たどりつくのはサーフブレイクの目の前に広がる集落のようなリゾートだ。やがて日が落ち始める頃、目に飛びこむのは波打ち際を疾走する馬の群れ。リゾートが所有する馬で、海で水浴びする姿まで奔放で美しい。それを序章として、ここには高級な野性が集結している。
ジャングルに並ぶのは、とんがり帽子のような屋根を持つスンバ伝統の家を模したヴィラ。その特異な形状に倣ったことで天井は気持ちいいほど高く、全28棟がオーシャンビューのプールつきだ。天然資材の採用を徹底し、例えばゴミ箱などに使うビニールはバナナの葉で代用。自然派を象徴するのはツリーハウスで、釘を使用せず仕口で組み立て、2階の床を突き抜ける大樹が中心に立つ。木の茂みで外からは見えづらく、贅沢な秘密基地といった空間だ。
ワイルドな気分をさらに盛り上げる半日コースの“スパ サファリ”も見逃せない。スパ施設まで、「トレッキングだと2時間、クルマだと15分だけれど、どちらにする?」と聞かれるので迷わず前者を。スタートは朝7時半。足元を泥だらけにしながら森や田んぼを歩き、途中、例の伝統家屋が集まる村に立ち寄る。村人の生活を垣間見て、汗だくになって海辺のスパに到着。そこは電波もWi-Fiもなく、プールでクールダウンすれば動物の水浴び気分だ。
その後、ガウンのまま崖っぷちの絶景テラスで朝食をいただき、海に突きでる施術室でトリートメントを受ける。風と波音とゴッドハンドが一体となり、寝落ちはやむを得ない。
ボードの上や馬の背中で波を愛でるリゾート
もともとはサーファーズキャンプがあった場所で、サーフィンの聖地とされる。ケリー・スレーターや五十嵐カノアが滞在するなどプロが欲する波がある一方、サーフクラブでは各種板を用意して初心者レッスンも提供。海でいえば、乗馬で海に入るアクティビティもここの名物だ。馬が呼吸できる深さまで歩くが、地上よりも安定感を得られ、海を全身で感じられる。その背に揺られての海中散歩は、水平線まで近くに感じる心地だ。
また、「ニヒ スンバ」は地域貢献のための“スンバ財団”を運営していると知ると滞在が奥深くなる。教育支援や5つの診療所の新設など、島の生活向上に尽力。スタッフには財団の援助で教育を受け、ここに就職した島民も。現在スタッフの9割がスンバ島出身で、その面でも島らしさは色濃いのだ。
この記事はGOETHE 2025年6月号「総力特集:楽園アイランド・ホテル」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら