PERSON

2023.04.06

WBC影のMVP、捕手・中村悠平の高校生時代

侍ジャパンの14年ぶり3度目の優勝で幕を閉じたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。いぶし銀の活躍が光ったヤクルト・中村悠平がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは……

ダルビッシュ有と中村悠平

WBC1次ラウンド韓国戦でのダルビッシュ有と中村悠平のバッテリー。

WBC攻守で存在感を見せた、いぶし銀・中村悠平

見事全勝で3大会ぶり3度目となるWBC優勝を果たした侍ジャパン。

MVPを受賞した大谷翔平(エンゼルス)、打線の中心となったヌートバー(カージナルス)、近藤健介(ソフトバンク)、吉田正尚(レッドソックス)、村上宗隆(ヤクルト)、強力な投手陣を牽引したダルビッシュ有(パドレス)、山本由伸(オリックス)などにスポットライトが当たることが多かったが、そんななかで影のMVPともいえる存在となっていたのが捕手の中村悠平(ヤクルト)である。

WBCが開幕した当初は甲斐拓也(ソフトバンク)との併用だったが、大会が進むごとに存在感を増し、4試合に先発出場。決勝戦でも最後までマスクをかぶり、登板した7人の投手の持ち味を引き出して、強力なアメリカ打線をわずか2点に抑え込んで見せたのだ。

また打撃でもオーストラリア戦では3安打を放ち、決勝のアメリカ戦でも2つの四球を選んでチャンスを作っている。甲斐が不調だっただけに、中村がいなければ頂点に立てていなかった可能性もあっただろう。

守備に関して高校生ではトップクラス

そんな中村は高校時代、福井県の強豪である福井商でプレーしている。1年秋には正捕手の座をつかむと、2年夏には甲子園に出場し、2回戦で優勝した佐賀北に敗れている。残念ながらこの試合は現地では見ていなかったが、下級生ながら当時から注目の選手だった。

ようやく実際にプレーを見ることができたのは2年連続出場となった3年夏の甲子園、対酒田南戦だ。この試合で中村は4番、キャッチャーとして出場しているが、まず圧巻だったのはそのスローイングである。

イニング間に行うセカンド送球は2.00秒を切れば強肩と言われているが、この試合で中村は計測できた5回すべてで2.00秒未満を記録し、最速は1.86秒をマークしたのだ。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「がっちりした捕手らしい体格。地肩の強さも素晴らしいが、捕球から送球の流れがスムーズで、コンパクトに腕を振って強いボールを投げることができている。ボールの軌道も安定しており、左右にぶれることがない。(中略)ミットをしっかり止めるキャッチング、ワンバウンドのボールに正面に入れるブロッキングも高レベルで、守備に関しては高校生ではトップクラス」

試合は初回に福井商が2点を先制し、6回に1点を返されて1点差のまま終盤を迎える緊迫した展開だったが、そのなかでも中村は終始落ち着いたプレーを見せていた。

当時のチームのエースは2年生の竹沢佳汰(元・トヨタ自動車)だったということもあって、積極的に声をかけ、守備に対しても指示する姿が印象に残っている。技術的な面はもちろんだが、こういった視野の広さも現在の活躍に繋がっていると言えそうだ。

WBCでも見せたしぶといバッティング

そして中村の持ち味は守備だけではない。前述したように4番を任せられていたが、打撃についても以下のようなメモが残っている。

「構えはそれほど大きくないが、下半身を使って全身で強く振ることができており、インパクトの強さも目立つ。タイミングを外されても下半身の粘りで対応し、バットに当てる上手さもある。(中略)4番というタイプではないが、確実性の高さは魅力」

実際の打席でも第1打席にライトへのツーベースを放ち、6回の第3打席にもライト前に運んでマルチヒットをマーク。この2本はいずれもツーストライクと追い込まれてからのものであり、WBCでも見せたしぶといバッティングの片鱗は当時から見せていたと言えるだろう。

チームのセ・リーグ連覇にも大きく貢献し、2年連続でベストナインとゴールデングラブ賞を受賞しているが、今回のWBCの活躍で名実ともに現在のセ・リーグナンバーワン捕手となった印象を受ける。

決して派手さはないものの、攻守ともに存在感は年々増しており、経験が生きる捕手というポジションを考えるとまだまだ第一線での活躍が期待できるだろう。レギュラーシーズンでもぜひその安定した守備と、しぶといバッティングに注目してもらいたい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=AP/アフロ

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