5年ぶりに日本球界復帰を果たし、古巣のDeNAへ戻ってきた筒香嘉智(つつごうよしとも)がスターとなる前夜に迫った。 連載「スターたちの夜明け前」とは
古巣のDeNAに復帰
開幕から約1ヵ月が経過した2024年のプロ野球だが、ここへ来て大きなニュースが飛び込んできた。
2019年オフにポスティングシステムを利用してメジャー・リーグへ移籍し、2024年はサンフランシスコ・ジャイアンツの招待選手としてキャンプに参加していた筒香嘉智が、古巣のDeNAに5年ぶりに復帰することが発表されたのだ。
2024年4月19日に支配下登録が公示されると、翌日には早くも巨人との二軍戦に出場。チームは下位に沈んでいるだけに、巻き返しへのキーマンとして期待が高い。
入学直後から4番を任されるも未完成だった高校1年
そんな筒香は和歌山県の出身で、中学時代は大阪の強豪として知られる堺ビッグボーイズでプレー。ちなみに森友哉(オリックス)はチームの後輩にあたる。
当時からその名前は高校野球関係者の間で評判となっており、多くの強豪校の誘いのなかから横浜高校へ進学。入学直後から4番を任せられている。
高校1年の春、夏は現場でプレーを見る機会がなく、初めて試合を見たのは2007年9月9日に横須賀スタジアムで行われた秋の神奈川県大会、対藤沢翔陵戦だった。
この試合で筒香は4番、サードで先発出場。8回にダメ押しの2点タイムリーツーベースを放ち、チームの勝利に貢献している。しかしヒットはこの1本だけで、2三振を喫するなど課題も多く感じられた。
当時のノートには以下のようなメモが残っている。
「体つきはとても1年生とは思えない(当時のプロフィールは183㎝、85㎏)。少しトップの時のバットの位置が浅く、手首を使ってタイミングをとるのが気になる。
ヘッドも投手の方向を向くため、振り出しが遅れ、内角のボールに対して余裕がない。それでも力感とヘッドスピードの速さは出色。軽く振っているようでも打球の速さが他の選手とは違う。少し上半身の力に頼り、踏み込みの強さが不十分で崩されやすいのも課題。
(中略)サードの守備は重心が高く不安定で動きも悪い。肩の強さはあるが脚力もなく、高いレベルでもサードで勝負するのであればかなりの練習が必要か」
ポテンシャルの高さはあるものの、まだまだ未完成な部分が多かったのがよく分かるだろう。
守備については特に上手くなかった印象が強く、3回にバント処理でタイムリーエラーを喫しており、試合途中でファーストに回っている。
ただバッティングに関しては「少し」という言葉を2回使っているように、欠点と見られた部分もそこまで極端に悪いわけではなく、十分に解消の見込みがあるように感じたことも確かだ。
次にプレーを見たのは約2ヵ月後、関東大会での対千葉経大付戦。この試合でも3番で出場して4打数2安打と結果を残しているが、この時も大きく印象は変わっていない。当時のメモも紹介しておく。
「好素材が揃うチームのなかでも体つきとパワーは間違いなくナンバーワン。芯でとらえた時の打球はとても1年生のものではないが、まだまだそのパワーを持て余しているように見える。
タイミングをとる動きが急でバットも動き、余裕がないため(体と)ボールの距離がとれない。詰まることを恐れずに強く振れるが、なかなか自分のポイントでとらえられない。外のボールに対する踏み込みももうひとつ。
(中略)サードの守備の動きも良くないが、走塁で走る意欲が出てきたのはプラス材料」
関東大会で優勝を果たし、翌年春の選抜高校野球にも出場しているが、チームは初戦で北大津に敗れ、筒香自身も4打数1安打に終わっている。
さらにその後はマークの厳しさが増し、高校2年夏もチームは南神奈川大会を勝ち抜いたものの、筒香は打率1割台と低迷していた。
横浜高校の主砲へと成長
ようやくその才能が大きく開花したのが高校2年夏の甲子園大会だ。
初戦の浦和学院戦、地方大会での不振から7番での出場となったが、第1打席でいきなりツーランを放つなど2安打4打点の活躍。
続く広陵との試合では4番に戻って2本のタイムリーを放つと、準々決勝の聖光学院戦では2打席連続ホームランを放つなど大暴れを見せ、チームの準決勝進出にも大きく貢献して見せたのだ。
この大会の広陵戦のノートを見ても、まだ課題を記すメモは残っているものの、振り出しが明らかにスムーズになったことをよく覚えている。
この大会での活躍で筒香は世代ナンバーワン打者の座を確立し、翌年2009年のドラフト1位で横浜ベイスターズ(当時)に入団。プロでも少しブレイクまでに時間はかかったものの、押しも押されもせぬ“ハマの大砲”へと成長を遂げた。
こうして振り返ってみると、エリートという印象は強いが、高校でもプロでも決して順調ではなかったことがよくわかる。
メジャーでも結果を残せずに日本球界復帰となったが、その挫折を乗り越えて、再び横浜の空に特大のアーチをかけてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。