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2024.01.20

経営者やトップアスリートがハマる、話題の“脳を鍛える”瞑想法とは

Googleやゴールドマンサックス、セールスフォースをはじめとして、世界の最先端企業が日常的に取り入れているといわれる瞑想。なかでも、今話題となっている瞑想法は脳を鍛え、自己実現を可能にするというWINメディテーション。その創始者、兼下まゆこが教えるメソッドとは。トレーニング法の実践編はこちら

木の上で瞑想する兼下さん
©️Tak.iijima

脳を鍛えるメンタルトレーニング

早朝6時。街がまだ静まり返るなか、とあるマンションの一室で、ヨガウェアに身を包んだ女性が、モニターに向かって「こんばんは!」と笑顔で呼びかけている。WINメディテーション創始者の兼下まゆこだ。モニターの向こうから手を振るのは、ヨーロッパで活躍中、日本代表にも名を連ねる某サッカー選手。早朝の兼下とは真逆に、彼は練習を終え、夕食をとったあとのリラックスタイムだという。チベットボウルの鐘の音を合図にふたりが目を閉じる。

「息をゆっくり吸って、吐いて。自然な呼吸を続けましょう。決してがんばらない。心地よく」

ふたりが行っているのは、兼下が考案したWINメディテーションだ。

それは主に現役アスリートに向けたメディテーション(瞑想)を主体とする脳神経メンタルトレーニングメソッドで、脳神経に有効なエビデンスが取れた「瞑想」「呼吸法」「イメージトレーニング」で脳を鍛え、自己実現、自己解決へと導く。

「大谷翔平選手がWBC決戦前に他の選手に『憧れるのをやめましょう』と声をかけたのを覚えていますか? あれこそ脳の仕組みを理解している人の言葉です。憧れとは瞬時に“自分は相手より能力が低い”と脳に認識させ、無駄に萎縮してしまう。脳に『〜しよう』『〜できる』と指示を送り、思いこませることが大切なんです」

兼下が独自のメソッドを公開してわずか2年にもかかわらず、今やメジャーリーガー、日本のプロ野球選手、プロゴルファー、そして多忙な経営者たちが、セッションを順番待ちする状態だ。

「メソッドは“いつでも”“どこでも”“誰でも”“簡単に”できるのが特徴です。特別な方だけのものではなく、今まで受講された8000人以上のなかには、子育て中のママやスポーツトレーナー、会社員、小さなお子さんもいらっしゃいます」

レッスンの様子
レッスンは基本一対一の対面で、海外のアスリートとはオンラインで行う。ほかにグループセッションも。©️太田隆生

海外ではGoogle、ゴールドマンサックス、マイクロソフトといった一流企業が瞑想やヨガ、マインドフルネスを取り入れているのは有名な話。しかし、日本ではまだまだ認知度が低い。多くの人が「瞑想? 宗教っぽくないか」という感想を持つという。しかしメンタルヘルスを少しでも学んだ人、そして海外でトレーニングを行うアスリートたちは、いち早く呼吸法や瞑想を取り入れている。タイガー・ウッズや、ノバク・ジョコビッチが、瞑想やヨガを長年トレーニングに取り入れているのも周知の事実である。

「試合のたびに困難に直面し、疲労とストレスが絶えず押し寄せるアスリートは、ヨガや瞑想で肉体×精神のバランスをとると、暴走した心が静まるだけでなく、何事にも影響を受けず、常に平常心を維持できるようになるのです。仕事で厳しい判断を下す経営者も同じです」

兼下のメソッドで最初に結果を見せたのは、ある野球選手だったという。「呼吸法を習いたい」とSNSを通じて連絡がきて、たった一度のトレーニングで「世界が180度変わった」と感動。翌日1試合で2本のホームランを放ったのだ。そのあとも何度かセッションを重ね、今やメジャーリーグで活躍する。

「福岡ソフトバンクホークスの板東湧梧選手は『WINメディテーションのようなメンタルトレーニングをチームに導入してほしい』と、契約時にチームに直訴してくださったことがニュースにもなりました」

いわゆる瞑想とは、5000年ほど前、ブッダが悟りを開くために行っていたもの。心を無にし、リラックスするのが主な目的だ。一方でマインドフルネスとは、1979年にマサチューセッツ大学医学大学院教授のJ・K・ジンが、仏教の修行法と心理学の理論を組み合わせ、臨床的な技法として体系化したもの。マインドフルネス=「過去や未来ではなく、今目の前で起こっていること」に集中すること。そこに到達する方法として呼吸法が行われる。その効果にはしっかりした根拠もあり、現在は医療分野でうつや糖尿病の治療に用いられている。

「WINメディテーションはマインドフルネスより一歩先を行く、新時代の瞑想法です。大きな違いは、瞑想や呼吸法で柔軟になった脳に、イメージトレーニングによって目標を明確にし、WIN、つまり勝利や自己実現に導くことなのです」

兼下はこの手法を、いったいどのようにして構築したのか。

14歳で親元を離れ、夢に向かって単身上京

広島県福山市のごく普通の家庭に、3人きょうだいの長女として生まれた兼下。8歳の時に老人ホームを慰問した際、自分の歌でひとりの老人が号泣し、何度も手を握り、感謝をしてくれたという原体験から「誰かのために何かをしたい」と強く願うように。その後、歌で周りの人を喜ばせたいと広島で芸能活動をしたあと、14歳で親元を離れ、ひとり上京する。

「寂しい気持ちより、自分ができることをやりたい。歌手になりたい気持ちが優っていました」

10代の間は学校に通いながらミュージカル養成所でレッスンとオーディションの日々。そして19歳の時、テレビのオーディション番組に合格したのをきっかけに芸能界デビュー。美月という芸名を得て、シングルCDを2枚発売し、レギュラー番組を持つなど充実の滑りだしだったが、デビューから2年が過ぎた頃、突然予期せぬ病に。

「パニック障害を発症してしまったんです。ライヴでも思うように声がでなくなり、あれほど好きだった歌うことが、楽しくなくなってしまったんです」

芸能活動を続けながらでは体調とメンタルを立てなおすことができず、引退の道を選んだ。

その後、ひとりの男性との出会いが、原点を作るきっかけに。現役アスリートの方とお付き合いをするなかで、その生活の過酷さに心底驚いたという。

シーズン中はひたすら体調を管理して試合に臨み、成績が大きくメンタルを左右する。たとえオフでも、頭の中は練習とスキルアップ方法を模索している。

「常に努力する彼の姿を見ながら、何かできることは? と考えるうちに、精神面で支えるべきだと気づいたんです」

残念ながらその彼とは別離。でも自分が進むべき道がはっきり見え、それを形にしていった。2021年にヨガ・瞑想講師である恩師と出会い、講座に通いながら目指す先が一致して意気投合。一緒に会社をつくり、メンタルトレーナーとしての事業展開が始まった。ところが、その3ヵ月後に恩師は急逝。

「“瞑想で日本を救う”という恩師の信念を知る私が辞めるわけにはいきませんでした」

どんな時も自分を信じ、やると決めて行動すること。生半可な目標でなく、今の自分には不可能と思えるほど大きな“現状の外のゴールを目指す”のがWINメディテーションの教え。彼女はそれを実践した。

この世に誕生して約2年のメソッドは、野球界をはじめとしたアスリート界に旋風を巻き起こしている。

「河本結プロ、力プロ姉弟は変化の賜物です。結選手はQTランキング4位で、来季前半戦出場権を獲得。姉弟とも好調へのきっかけを問われ、メンタルトレーニングを取り入れたことが奏功と語ってくれて、改めてお役に立てたと実感できました」

プライベートでは食べることや旅好きと語るが、今や自由時間もほぼゼロで、それらも仕事の一環になっている。

「人の役に立てることが何よりの喜び。どれだけ承認欲求が強いんでしょうね(笑)。でも老若男女を問わず人と向き合うなかで、世間や親、会社や学校の価値観に洗脳され『自分を押し殺して生きている人』が多いと感じます。一生に一度の人生をそんなふうに生きてはもったいない。メンタルひとつで人生は変わります。WINメディテーションを通じて、世界中の人に『人生は変えられるんだ』ということを広げていきたい」

2024年は世界展開を視野に渡米予定。兼下自身も達成したい目標を掲げ、WINメディテーションを体現し続けていく。

兼下まゆこのターニングポイント

8歳|生きる目的を見つけた広島での原体験
被爆者が入居する老人ホームを慰問。歌を歌うと、ひとりの老人が号泣し「ありがとう」と感謝される。人の役に立つ原体験から芸能活動を開始。

14歳|単身上京
広島では芸能活動に限界があると14歳で単身上京。ミュージカルの養成所に入り、中学、高校と通いながらレッスンと舞台の日々が続く。

兼下さん14歳の頃
デビュー前は役者として全国を回る日々。出演した『小公女セーラ』の舞台裏での一枚で、左が兼下さん。この時は少年役を演じた。

20歳|吉本興業からメジャーデビュー
19歳の時、オーディション番組で勝ち抜き、デビューが決まる。その最終選考で意識して、呼吸を整えることの大事さを実感する。

兼下さん20歳のころ
歌が大好きで20歳の時にメジャーデビュー。「美月」の名前で芸能活動をしていた頃のシングルCD『Discover』のジャケット写真。

22歳|パニック障害発症
芸名「美月」としてCD発売や冠番組を持つなど順調なスタートを切ったものの、徐々に身体が不調になり、パニック障害を発症。引退を決意。

29歳|NYでヨガの資格を取得
引退と同時期に始めていたヨガと瞑想でも“人の役に立てる”と考え、29歳で芸能活動をやめて渡米。現地でヨガの国際資格を取得した。

兼下さん29歳のころ
29歳で芸能生活から引退後、アメリカに渡り、ヨガの国際資格である「全米ヨガアライアンスRYT200」をNYにて取得。

32歳|アスリートの恋人との別れ
現役アスリートと交際することになり、何か手伝えないかと考えるうちにメンタルに行きつく。結婚の話も出ていたが、破局。

35歳|WINメディテーションが誕生
ヨガ・瞑想講師の恩師と出会って講座に通い始め、志が共感してともに会社を作り、WINメディテーションが誕生。しかし恩師が急死。

37歳|講師養成にも力を入れる
恩師の「瞑想で日本を救う」の志を受け継ぎ、学び、仕事を続け、WINメディテーション受講者を8000人まで広げる。初の著書も刊行。

兼下さん37歳のころ
後進たちを育てるべく、WINメディテーション講師養成講座も定期的に開催。2023年9月の時点で、述べ160名のプランナーが誕生。

世界中が注目しているマインドフルネスや瞑想

【企業】Google、ゴールドマンサックス、セールスフォースなど
脳を休ませ、集中力を高めることで仕事のパフォーマンスを上げるマインドフルネスや瞑想を、多くの最先端企業が採用している。

【アスリート】タイガー・ウッズ、ノバク・ジョコヴィッチ、イチローなど
瞑想は多くのアスリートにとって、トレーニングや技術の研鑽と同じぐらい必要なもの。

⬇︎ さらにその上を行く

WINメディテーションとは

いつでも・どこでも・誰でも・簡単にできる脳神経メンタルトレーニングメソッド
毎日たった5分で、苦しみや不調から逃れ、なりたい自分に近づくことができる、8週間で効果がでるといわれているトレーニング法。

福岡ソフトバンクホークス栗原陵矢が実践中!

メンタルの安定が気持ちよいプレイを可能に

「メンタルのブレに悩んでいた時、シカゴ・カブスの鈴木誠也選手から、兼下先生を紹介され、WINメディテーションを始めました。すると、打席でも守備でも心が落ちつき、自信を持ってプレイできるように。怪我や手術の際も、心が焦りがちになるところ、今は目標設定をしながらリハビリに取り組めています。

さらに、打てない時やミスをした時に、その負の感情をいつまでも引きずらず、素早く気持ちを切り替えられるようになったのも大きいです。先生の『大丈夫』という言葉で、今は安心して野球に打ちこめています」

栗原陵矢選手
栗原陵矢/Ryouya Kurihara
1996年福井県生まれ。右投げ左打ちで、一塁、三塁、左翼、右翼を守る福岡ソフトバンクホークスのユーティリティープレイヤー。2022年からWINメディテーションを実践している。

兼下まゆこの3つの信条

1.ないものではなく、あるものにスポットライトを当てる

「過去を後悔し、未来への不安にとらわれては、心の充電を無駄使いし、出したい時にパフォーマンスを発揮できません」。見るべきものは、今目の前にあるもの。

2.一生に一度の人生、今を全力で楽しむ

「人生に“いつか”はありません。限りある命ゆえ、今が“やる時”と心に言い聞かせています」。“全部できる”そう信じて今を全力で取り組み、楽しむ。

3.誰よりもWINメディテーションの体現者でいる

「指導するだけでなく、自分自身も常に現状の外の目標を掲げて前進したいと考えています」。生徒が理想とするロールモデルであるために努力し続ける。

兼下まゆこさん
兼下まゆこ/Mayuko Kaneshita
WINメディテーション®創始者
1986年広島県生まれ。2021年にWINZONEを創業。自らの経験と学びから得た新たな脳神経メンタルトレーニングメソッド「WINメディテーション®」を考案。現在はメディテーションサロンとメディテーション講師養成スクールの2社を経営。主に現役アスリートにメディテーションを指導するほか、講師育成など幅広く活動する。ヨガインストラクターやパーソナルトレーナーなど多数の資格を保有。©️桐生 真

Information

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TEXT=今井恵

PHOTOGRAPH=Tak.iijima、太田隆生、鈴木規仁、桐生真

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