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2024.02.06

堀江貴文も納得、「運動が健康寿命を延ばす」科学的根拠とは

カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第29回は「運動」。「運動は健康にいい」と多くの人が認識しているが、実際にどんなメカニズムで運動が健康や長寿に影響しているのか、その関係性が解き明かされつつあるという。分子生物学の視点から運動効果の研究を行っている第一人者、東京都立大学の藤井宣晴先生に話を聞いた。■連載「金を使うならカラダに使え!」とは……

堀江貴文氏の健康連載「運動」

運動は最も効率がいいアンチエイジング

堀江貴文(以下堀江) 僕個人の実感ですが、40〜50代になると、日常的に運動している人とまったくしない人に分かれてきませんか? 小学生から10数年は体育の授業があるから強制的に運動させられるけど、社会人になったり家庭を持ったりすると、運動の機会はどうしても減ってきますよね。

藤井宣晴(以下藤井) 私も、ジムに行く程度ですね。

堀江 僕はキックボクシングやゴルフ、年に2〜3回のアドベンチャーレースとか、いろいろな運動を習慣にしています。全身の筋肉や運動機能を維持することは、日常の活動をするうえでも、老化に対処するうえでも重要だと思っているので。

藤井 素晴らしいです。運動をする時に使う筋肉は、骨についていて、伸び縮みによって身体を動かしたり支えたりしている骨格筋です。運動に本当に効果があるのか、どんなメカニズムで身体に影響を与えているのか、という研究は近年進んでいる分野で、使った部位の筋肉が増えるだけではないということがわかっています。例えばジムでは、筋肉を大きくするトレーニングを部位別に行いますが、その効果は全身に及んで、実に多様であることが、疫学研究分野でもエビデンス(科学的根拠)に基づいて示されているんです。

堀江 どんなことですか?

藤井 運動の健康効果でわかっているのは、筋肉の増大、骨密度の増大、血圧の低下、糖尿病の予防・改善、動脈硬化の改善、脳卒中の減少、認知症(アルツハイマー病)の予防、心疾患の予防・改善、肝機能の改善、膵臓機能の改善、免疫機能の亢進(こうしん)、鬱・不安の抑制、がん発症率の低下(大腸、乳、子宮、膵臓、肝臓、前立腺)などです。

堀江 運動がこれほど多様な効果を全身に与えているメカニズムはわかっているんですか?

藤井 はい。私の研究室ではシャーレ内の実験で骨格筋の培養細胞を動かすことに世界で初めて成功しました。骨格筋が運動することで何が起きているかを厳密に調べることができるのです。そして2022年には、骨格筋細胞が収縮した時に分泌するホルモン物質「マイオカイン」を発見しました。

マイオカインの名前の語源はギリシャ語の「Myo=筋 Kine=動作」。ホルモン物質なので血液などの体液を経由して全身に運ばれて情報が伝わるので、身体のさまざまな働きが調節されます。骨格筋細胞由来のマイオカインは筋肉の代謝に関わるだけでなく、別の臓器へ作用してそれらの状態を調節したり、血圧や骨密度の増大を促すメッセージを送っていることが考えられます。

堀江 なるほど。運動効果が全身に及ぶ理由は、全身に運ばれるマイオカインの存在で説明がつきますね。

藤井 ですので、これを“マイオカイン仮説”としています。現在までに、骨格筋細胞由来の運動に関係するマイオカインを数十種類発見しています。

あらゆる方面で老化や病を防ぐ科学的根拠がある

堀江 筋肉を太らせるだけが、運動じゃないんですね。

藤井 筋肉を太らせること自体に効果があることも、マウスの実験でわかっています。がんを発症して筋肉が萎縮したマウスに筋肉増強剤を注射して、筋萎縮が抑えられる状態にすると、がんが大きくなっても筋肉量が維持されて、生存日数も生存率も飛躍的に伸びたのです。

堀江 病気になっても筋肉量を維持できれば、生き延びられるということですか。

藤井 はい。その理由はまだ解明されていませんが、筋肉を適切に保つことが病気を遠ざけ、長く生きられることを示唆していると思います。人間の場合もさまざまなデータから、全身の筋量が多く・筋力が高いほど病気にかかりにくく、長く生きる傾向があることがわかっています。ところで、日本人は長寿ではありますが……

堀江 健康寿命との差が大きいという問題ですね。

藤井 そうです。日本人は男女とも世界トップクラスの長寿ですが、健康で生きられるのは何歳ぐらいまでなのかを調査した、2022年度の内閣府・高齢社会白書のデータがあります。令和元年時点で男性の平均寿命は81.41歳。健康寿命は72.68歳でその差は8.73歳。女性の平均寿命は87.45歳。健康寿命は75.38歳。その差は12.07歳です。

堀江 10歳の差ですね。

藤井 健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。男女ともに人生80年が当たり前の時代になっても、最後の10年は日常生活に不便が生じて支援や介護が必要な、あまりハッピーではない状態で生きなければいけない。メディアでは高齢者のアスリートや100歳を超えても現役で仕事をしている人を取り上げることが珍しくありませんが、それはまだまだ少数者。支援なく日常を送れる健康寿命が70代というのが現実です。

堀江 健康寿命を終わらせてしまう、要支援、要介護にいたる原因は何ですか。

藤井 厚労省の「国民生活基礎調査」のデータによると、運動器の障害が25%、脳血管疾患が19%、認知症が16%、高齢による衰弱が13%、その他が27%。4分の1を占める「運動器の障害」というのは、膝、股関節の疾患、脊椎・腰椎の脊椎症、大腿骨の骨折、そしてサルコペニア。つまり骨格筋の衰退です。

堀江 筋力、筋量の低下が著しいのはつまり病気であり、そこからいろんな病気につながるから治療が必要だと。予防が重要ってことになりますね。

藤井 はい。筋量は30代から低下しますから、40〜50代の方は日常に運動を取り入れて筋量を維持することが大切です。そして、座りっぱなしなど「不活動時間」を減らすことも意識して行っていただきたい。

堀江 健康に年を重ねるための有効手段のひとつが運動であり、その効果は全身に及ぶことを、もっと多くの人に理解してもらいたいですね。

藤井宣晴先生
藤井宣晴/Nobuharu L Fujii
1966年生まれ。東京都立大学人間健康科学研究科 運動分子生物学研究室教授。博士(体育科学)、専門は分子生物学。ハーバード大学医学部ジョスリン糖尿病センターを経て現職。研究テーマは「運動が糖尿病の予防・改善に貢献するメカニズムの探索と、筋収縮による細胞内情報伝達の変容解析」。

堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書に『堀江貴文のChatGPT大全』他。本連載をまとめた書籍が2024年3月に発売予定。

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■連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する連載。

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COMPOSITION=海野由利子

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