カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。今回のキーワードは「肺炎」。新型コロナウイルス感染症の症状としてここ3年は注目を集めているが、発症の原因や後遺症、そして重症化を防ぐワクチンがあることなどは意外に知られていない。その現状と問題を肺炎球菌と免疫の研究で知られる、琉球大学山本和子教授にたずねた。連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
肺炎球菌ワクチンの未接種が多い日本
堀江貴文(以下堀江) 新型コロナウイルス感染症の症状としても知られるようになった肺炎についてレクチャーをお願いします。
山本和子(以下山本) コロナ禍前に9400人に対して肺炎のイメージをたずねたアンケートでは、59%が「抗菌薬で治る」、14%が「安静にしていれば治る」で、「死につながる怖い病気」と回答した人は27%。7割超の方が、肺炎は薬を服用して安静にしていれば治る病気と捉えていたことがわかります。
堀江 今聞いたら答えは違うでしょうね。
山本 肺炎とは、肺の中に炎症が起きている状態です。肺には袋状の肺胞が数億個あり、そのひとつひとつが二酸化炭素と酸素をガス交換し、毛細血管から血液を通じて酸素を全身に届けています。肺に炎症が起きると肺胞の上皮細胞が腫れて膨張したり、ガス(気体)が入っていた肺胞の中に、血漿(けっしょう)タンパク、白血球や浸出液が入りこみ、酸素が取りこめなくなります。CT画像で白く写っている部分が、そういう状態です。
堀江 酸素濃度が低下して、人工呼吸器が必要になってしまうんですね。
山本 人工呼吸器をつけないと呼吸ができないとか、ICUへの入院が必要な状態になると、日本では肺炎の「重症」とされます。コロナ禍以降は変わっていると思いますが、病院外で発生した肺炎の死亡率は約6%。高齢者施設では15%、病院に入院した患者ですと30%の方が亡くなる、命に関わる病気です。
堀江 肺炎は、菌が原因であることが多いんですよね。
山本 そうです。さまざまな菌によって発症しますが、もっとも多いのが肺炎球菌。全体の20〜30%ほどを占めます。肺炎球菌はダンベル形の双球菌で、非常に厚い莢膜(きょうまく)という殻で覆われているのが特徴です。肺炎球菌は鼻腔に定着していて、特に小児の保菌率が高く、そこから周囲の成人に伝播します。身体が弱っていたり免疫力が低下している人ですと、鼻腔についた肺炎球菌が肺に入りこみ感染することで肺炎を発症します。
それだけでなく、血液の中にも菌が入って菌血症になったり、脳の髄液に入って髄膜炎を引き起こしたりと重症化しやすく、そうなると肺炎が治ったあとも後遺症が現れやすい。世間のイメージよりも危険な感染症と言えるんです。また、肺胞を包んでいる上皮細胞は炎症で壊れます。軽度なら元に戻りますが、一定のレベルを超えると治らず、肺の機能が低下したままになります。
堀江 重症化のリスクは高齢者のほうが高いですよね。
山本 そうです。ただし働き盛りの40〜50代も、20〜30代に比べると肺炎の重症化リスクは格段に上がります。コロナを例にとると、30代を1とすると、50代の重症化・死亡率はその10倍。また、肺炎に罹ると、認知症のリスクが2倍以上になります。
堀江 肺炎の発症と重症化を減らすワクチンがありますよね。僕は接種しています。
山本 そうですか! 肺炎球菌ワクチンは菌の莢膜の「型」を標的にしていますが、「型」は100種類ほどあり、そのすべてをワクチンでカバーすることはまだできていません。現在、主に成人に接種されるワクチンは2種類で、23個の型に効果がある「23価」ワクチンと、13個の型に効果がある「13価」のワクチン。13価のワクチンは免疫を賦活化(ふかつか)させる作用が強いのが特徴です。
堀江 僕は23価のワクチンを接種したんですが、13価とどちらがいいんですか?
山本 堀江さんは基礎疾患がある方ではないですし、年齢もお若いので、特別に接種を薦める対象ではありませんが、最初に接種される場合は、免疫自体を強くする働きがある13価をお薦めします。堀江さんが接種した23価は、高齢者の定期接種にも広く使われているものです。
堀江 ということは、13価を打っていない僕はどうすればいいんですかね?
山本 ワクチンの効力が弱まる5年後に継続して23価を打つか、1年以上空けて13価を、ということでいいと思います。今すぐ急いで13価のワクチンを打つ必要はないでしょう。
堀江 ワクチンの効果に関するデータは出ていますか。
山本 日本の施設に入所している高齢者500人に対し23価型ワクチンを接種後、肺炎球菌による肺炎の発症率は20%減。死亡率は35%減です。接種してから5年後の安全性も確認されています。問題は接種率です。2014年に接種がスタートして以来増えてはいますが、2023年に発表された日本国内のある都市における2021年の接種率は、65歳以上で40%、70代以上は20%ほど。70%近い接種率のイギリス、アメリカ、カナダに比べると低いのが現状です。
堀江 高齢者以外でワクチン接種をしたほうがいい人は?
山本 心臓、肺、腎臓などに慢性疾患がある方、糖尿病、肥満、がんやHIVの投薬治療中の患者さんなどですね。
堀江 公費による助成は?
山本 あります。23価ワクチンの自己負担額は自治体によって違いますが、平均で3000円程度。65歳以上で、5歳刻みの年齢で助成が受けられます。13価ワクチンは助成がなく、自費で1万1000円です。
堀江 費用の助成が受けられるのは、5歳刻みの年齢でのみなんですか?
山本 そうなんです。なので、66歳で接種しようと思っても助成を受けられず、自費になってしまうんです。
堀江 それ、意味わかんない!
山本 予算の問題か、日本は高齢者が多くて全年齢の助成はできない、ということなのかもしれませんね。
堀江 おかしいですよ、それ。だってワクチン接種したら、肺炎の発症も重症化も減らせるデータが出ていて、肺炎治療に関わる医療費が下がることがわかっているんでしょう? だとしたら、ワクチンの接種率を上げればいいだけの話。特別な理由なしに肺炎球菌ワクチンを接種していない人は保険料率が上がりますとか、政治が決断してやるべきだと思いますね。
Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。新刊『不老不死の研究』(幻冬舎刊)が好評発売中。
■連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する連載。