HEALTH

2023.03.08

【堀江貴文】経口ワクチンやダイエットサプリにも! “カイコ”が持つ可能性とは

カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。今回のキーワードは「カイコ」。桑の葉を食べ、蛹(さなぎ)になる時に自ら糸を吐き出して作る白い繭が絹糸として使われる、あのカイコが体内で機能性タンパク質を発現させ、ウイルスの抗体測定や経口ワクチンの原料になるという。九州大学と協業するバイオベンチャー「KAICO」の大和建太氏に最新情報をたずねた。連載「金を使うならカラダに使え!」とは……

堀江貴文氏と大和建太氏

日本にアドバンテージがあって、世界で勝負できるのがカイコ

堀江貴文(以下堀江) 大和さんは2018年に創業した九州大学発のバイオベンチャーの代表で、カイコを利用して(ワクチンや栄養補助食品に活用できる、身体によい働きかけをする)機能性タンパク質を生産、開発しています。その技術を応用した新型コロナウイルスの抗体の測定ができる製品は、自宅で少量採血してポスト投函すると、ウェブで結果を確認できる。すごく手軽ですよね。

大和建太(以下大和) 『COVID-19抗体測定サービス』という製品で、抗体の有無だけでなく、ワクチンの有効性がどの程度残っているのかを5段階評価で確認できます。2021年9月に福岡県限定で発売し、初日で初回ロットが完売。その後、半年で1万個を販売しました。ワクチン接種後の抗体量の推移は個人差がありますが、そろそろワクチン接種をするほうがいいか、判断の目安として利用されています。

堀江 カイコって世界最古の家畜ですよね。

大和 そうです。5000年以上前から中国で、カイコが作る繭から絹糸を取りだすために飼育技術が進化しました。日本は戦前まで絹織物が輸出の主要産業で、養蚕(ようさん)業が盛んでしたね。

堀江 以前、僕が東大で取材した人はカイコを利用して抗生物質を作っていて、筑波の研究所の方は遺伝子組み換えカイコで、強い絹糸を作っていました。日本にアドバンテージがあって、世界で勝負できるものを考えると、カイコの可能性ってすごくある。でもなぜ、御社はカイコを使おうと思ったんですか?

大和 現在の日本には養蚕農家が全国で200軒くらいしか残っていなくて、大学の農学部でカイコの研究を行っている所はわずか。そのひとつが九州大学で、100年以上も継代飼育してきたカイコや、遺伝子ゲノム研究の蓄積があります。その資源をバイオリソースとして残すため、カイコのリソースセンターというのが九州大学にあり、そこで絹糸を取る以外の新たな使い道を研究して、「カイコは体内でタンパク質を作れる」ことに着目したんです。

堀江 そして、機能性タンパク質を作らせてみたんですね。

大和 はい。テクノロジーとしては、目的とするタンパク質の遺伝子を挿入した(昆虫にのみ感染する)バキュロウイルスをカイコに接種すると、4日後にはカイコ体内で目的タンパク質が発現します。その体液から目的タンパク質を取得して注射液や試薬を作ったり、蛹の状態でまるごと粉砕してパウダー状にしたものを、錠剤やカプセル状の経口型ワクチンやサプリメントとして用いることができます。

機能性タンパク質を体内産生させ、ローコストでの創薬が現実に

堀江 細胞培養をする大きなタンクとか、工場のような設備は要らないんですね。

大和 要りません。カイコは1頭2頭と数えるのですが、1頭のカイコがひとつの培養タンクのようなもので、2頭いれば、それぞれ別のタンパク質を作れます。しかも飼育スペースは小さくていい。少量で多品種の機能性タンパク質を作るのに向いているんです。

堀江 大和さんは、特許出願技術の“まるごと粉砕”パウダーを使った経口ワクチンの開発に注力しているんですよね。

大和 飲むワクチン、食べるワクチンなら、注射と違って医師や看護師が少なくて済むし、注射器や保管する冷凍庫・冷蔵庫も要りません。発送、運搬もしやすく、本人に渡しさえすれば飲んでもらえるし、非常に使い勝手がいいんです。

新型コロナウイルスのパンデミックで、日本でも医療危機を経験しました。ワクチンが注射ではなく経口の錠剤だったら、医療の負担も減らせるんです。特にアフリカなど衛生環境のよくない地域では感染症が重症化しやすく、医療インフラも整っていません。免疫力の低い5歳以下の子供が亡くなる割合も多いんです。

感染症から命を守るために、経口型ワクチンを開発して認可される意義は大きいと思っています。我々の研究では、カイコに発現させた一部のタンパク質が、経口摂取でも抗体効果が上がることがわかっています。

堀江 ワクチンは厚労省の認可に時間がかかりますよね。

大和 なので、先行して動物用の事業計画を進めています。ブタ用経口ワクチンを飼料添加物として供給し、2023年度に海外での販売を目指しています。ウイルスの種類によりますが、注射型だとカイコ1頭で約500頭のブタの感染症予防が可能です。そして養殖魚の分野にも。現状は1匹ずつ生簀(いけす)から出して注射しているのですが、それを撒き餌で済ませることができます。

堀江 ワクチンという“薬”ではなく、食品カテゴリーのサプリメントはどうですか? 認可が不要で早く販売化できるかと。

大和 そちらも進行中です。実は、カイコで作ったある物質を加えた餌をマウスに与えてみたところ、短期間で劇的に痩せたんです。いま原因を調べているところです。

堀江 ダイエットサプリができそうじゃないですか!

大和 安全性の検証で「食べるのをやめたら元に戻る」ことなども確認している最中です。

堀江 ダイエットドリンクとかなら飲めるかも。

大和 美味しいかどうかはまだわかりませんけどね。サプリの研究もしていますが、経口ワクチンをヒトに応用するのが、我々の“その先”の目標です。カイコの蛹をパウダー状にする技術開発はそのためなんです。

堀江 大量のカイコが必要になって、養蚕業が復活するかもしれませんね。

大和 そうなることも目指しています。例えば廃校になった校舎を利用して、周囲に桑の木を植えて、近隣の住民の方々が教室でカイコを育てて、そのカイコを我々が引き取るとか。教室くらいの空間ならカイコを100万頭ほど飼えるんですよ。

堀江 100万頭!?

大和 夢がありますよね。

Kenta Yamato
1976年東京都生まれ。KAICO代表取締役CEO。1991年横浜国立大学経営学部卒業。三菱重工業入社、ブリオ起業、九州大学大学院経済学府MBAコース(ビジネススクール)、同大学大学院特任准教授を経て2018年、50歳でKAICO設立。

Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。新刊『不老不死の研究』(幻冬舎刊)が好評発売中。

■連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する連載。

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COMPOSITION=海野由利子

PHOTOGRAPH=古谷利幸

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