NBAで日本人最長となる6季目を終えたメンフィス グリズリーズ所属の渡邊雄太(29歳)が2024~2025年シーズンからBリーグでプレーすることを決断した。2024年4月20日にインスタライブで表明し、翌21日に都内で会見を開いて改めて国内でプレーすることを明言。来季の所属チームは未定で、激しい争奪戦が展開されることは必至だ。連載「アスリート・サバイブル」
「小さい頃に夢見たNBA選手になれた。1ミリも後悔はない」
2024~2025年シーズンもメンフィス グリズリーズに所属する契約オプションがあるなか、渡邊雄太が自らの意思でNBAを去る。
Bリーグ入りを決断した理由を「シンプルにバスケットが大好きだから。試合に出てプレーしたい」と説明。NBA挑戦当初の目標が“本契約”と、“20代の間は絶対に逃げない”だったことを明かした。
「自分で決めたふたつのことをクリアできた。小さい頃に夢見たNBA選手になれたし、逆境を乗り越えて成長できたので、自分を褒めていいと思う。最高に楽しい6年間だったことは間違いない。(大学時代を含めた)11年間は宝物で、一生自分のなかで誇れる。1ミリも後悔はない」
綱渡りの6年間だった。2018年にGリーグ(NBAの株リーグ)とNBAを一定期間行き来できる「2ウェイ契約」をグリズリーズと締結。同10月に、日本人では田臥勇太以来2人目のNBAデビューを果たした。
2020年のトロント・ラプターズ、2022年のブルックリン・ネッツとの契約も年俸は保証されておらず、常に解雇と隣り合わせ。「ずっと監視されているような状況。まともな精神状態でプレーした時期は少なかった」と振り返った。
2023年にフェニックス・サンズと2年契約。初めて金銭的な保証を得たが、2024年2月にトレードでグリズリーズに放出された。
古巣復帰初戦で好プレーをしたが、次戦の試合前にコーチ陣から「今日は起用しない」と伝えられた。
「この一言が効いた。感情がおかしくなってホテルで泣いた」
それを機に身体に異変が生じ、試合でコートに立つと筋肉が硬直する状態に陥った。終盤の22試合を欠場してシーズンが終了。「これまでの疲労、ストレスが一気に来た」と、心身ともに限界だった。
NBA通算213試合に出場。ロサンゼルス・レイカーズ所属の八村塁(26歳)には、3月に米国を去ることを伝えていた。
「来季はNBAにはいない」と八村に打ち明けると、「雄太さんがやってきた6年間はすごい」と労いの言葉をかけられた。
「塁が珍しく褒めてくれたし、嬉しかった。彼がいてくれたから、僕も頑張ってこられた部分もある。同じ日本人として、自信になっていた。モチベーションになったのは間違いない。来季が彼にとって6年目だが、10年、その先もプレーすると思う。やれるところまでやってほしい」
渡邊雄太をどのチームが獲得するのか
関係者によると、すでに20近い国内クラブが渡邊の獲得に興味を示しているという。
Bリーグでは、2019~2020年シーズンに千葉ジェッツの富樫勇樹(30歳)が日本人で初めて年俸1億円を突破した。
渡邊の今季の年俸は234万6614ドル(約3億6284万円)で、Bリーグ史上最大規模の争奪戦となる見通しだ。
渡邊は「NBAでは欲してもらえる立場ではなかった。僕を本気で欲しいという熱量のあるチームに、自分の全力を注ぎたい」とチーム選びのポイントを挙げた。
「現状では次に決めたチームで引退するまでやりたいと思っている。またアメリカで挑戦することは考えていない。NBAで優勝したかったという思いはあるので、Bリーグではもちろん優勝を目指したい」
今回の決断理由のひとつには、2023年夏に沖縄で開催されたW杯で感じたバスケ熱の高さもある。渡邊は大黒柱として日本代表を牽引。アジア最上位の19位に導き、パリ五輪出場権獲得に貢献した。
「パリ五輪出場を決めた瞬間は、バスケ人生で一番嬉しかった。パリ五輪で結果を残せれば、注目度がどんどん上がる。これからが全盛期という年齢。パリ五輪直後に日本に帰って来るのは、一番いいタイミング」
パリ五輪の目標に掲げる8強進出を果たして、日本のバスケ熱をさらに上げ、2024年秋に新シーズンが開幕するBリーグでの挑戦をスタートさせる青写真を描く。
「新たな章が始まる。30代の渡邊雄太もどんどん進化したいと思っている。今後もあたたかい目で見てもらえたらうれしい。日本に帰るので、道とかでデカイやつを見つけたら声をかけて下さい(笑)」
重大な決断を下したその表情は、晴れやかだった。
渡邊雄太/Yuta Watanabe
1994年10月13日香川県生まれ。尽誠学園高校時代に全国選手権で2年連続準優勝。米ジョージ・ワシントン大学を経て2018年にメンフィス グリズリーズと契約し、日本人2人目となるNBA公式戦出場を果たした。NBA通算213試合に出場し、1試合平均4.2得点、2.3リバウンド、0.6アシスト。2021年の東京五輪は日本代表の主将を務めた。妻はフリーアナウンサーの久慈暁子。身長2m6cm、98kg。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。