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2024.03.24

神戸優勝の秘密。酒井高徳「自分のパフォーマンスが周りに響かなければ、リーダーではない」

酒井高徳選手は、2016年にドイツ・ブンデスリーガ、ハンブルガーSV(以下HSV)でキャプテンに指名されている。当時、日本人初のブンデスリーガキャプテン就任だった。ドイツ人だけでなく、ヨーロッパ、アフリカ、南米など、世界各国の選手が所属するチームをまとめた経験は、日本でも活かされている。ヴィッセル神戸のリーダーとして活躍する酒井選手が語る信頼を得るリーダー論、第2回は「コミュニケーション」。【#1

酒井高徳/Gotoku Sakai
1991年3月14日生まれ。地元のアルビレックス新潟ユースに加入し、2008年にはトップチームの公式戦にも出場。高卒ルーキー2年目の2010年にはレギュラーに定着、同年南アフリカで行われたW杯に、サポートメンバーとして帯同。2012年1月より、母親の母国であるドイツ・ブンデスリーガシュトゥットガルトに所属。2015年夏、ハンブルガーSVへ移籍。翌年秋、監督よりチームキャプテンに指名される。2018年W杯ロシア大会後、日本代表引退。2019年夏、ヴィッセル神戸へ加入。2023年Jリーグ優勝し、ベストイレブンにも選ばれた。

きちんと会話する、投げっぱなしも、取りっぱなしもしない

――ご自身のことをリーダーだと思っていますか?

「思ってないですよ(笑)。周りからリーダーだと思われている人って、自分のことをリーダーだと思っていないし、言わないと思うんです。多分、ほかの方もそのへんのメンタリティは同じなのかなと思うんです。キャプテンやリーダー的存在の人間は信頼感のある人間ですよね」

――当然そうですね。

「サッカーに限らず、どんな仕事でもそうだけど、パフォーマンスが伴っていないと、信頼は得られないと思うんです。100%のパフォーマンスを発揮するための、身体やメンタル的な準備を行なった先に、トレーニングがあり、試合のパフォーマンスがある。そこで力を出し続けることで、初めて信頼が生まれていく。良いパフォーマンスを安定的に発揮できることで、どんどんどんどん信頼が湧いてリーダーっぽく、キャプテンっぽくなっていくということだと思うんです。

そういう人間は、どんなに言葉でいろいろ言っても、自分のパフォーマンスが周りの選手に響かなかったら、自分がキャプテン、リーダーでいる意味がないという結論に最終的には至る。だったら、発言よりも行動が先だろうと。まずは自分のパフォーマンスを安定させるためにと考える。それが最優先になります。だから、おれがリーダーだ、キャプテンだっていうような人間は少ないのかな」

――リーダーになりたいと思うよりも、安定したパフォーマンスを大事にしている人間がリーダーになるということですね。

「できれば、誰もキャプテンやリーダーになりたいとは思っていないんじゃないかな(笑)」

――責任が増えますからね。

「一目置かれる立場になりますから、なかなか大変です。それがいいと思っている人はあんまりいないと思います。でも、リーダーやキャプテンはいなくてはいけない。キャプテンという肩書きがなくとも、年齢や経験を重ねれば、自分がやるべき仕事も理解できる。そして、自然とそういう行動をとらなくてはいけないという自覚が芽生えるものだと思っています」

――ヴィッセル神戸へ来たとき、「チームの空気を変えなければ」と考えたのも自身の任務だという覚悟があったからだと思います。チームのマネジメントは監督の仕事でもありますが、選手間で組織をマネジメントする意識はありますか?

「現場では、監督や上司が言いづらいことは当然あって、そのためのクッション役というか、間を取り持つようなこともリーダーの役割だと思います。サッカーに関して言えば、監督はピッチに立てないし、細かい指示もハーフタイムでないと伝えられない。でも、瞬間瞬間に試合の状況は変化するので、誰かが『こうしよう』と言ったときに、それを実行できる組織が作られていることは大事なことだと思います。選手間で誰が中心となり、決断するのか、そういうものをチームとして共通で持つことは、めちゃくちゃ重要なことだと思います」

国が違えば性格も違う。とことん話し合い、寄り添った

――部活などでは、ベンチだけどキャプテンというケースがありますが、やはりプロは、パフォーマンスや結果が伴うものでしょうか?

「そうですね。それが一番だと思います。でも、そういう人は、ほかの人間にはできない努力をしているとか、人としての信頼があるんだということ。本人にとっては、ちょっと残酷かもしれないけれど、結果が伴わなくても、チームが彼や彼女をリーダー、キャプテンだと思える素質があるのだから、結果に関係なく、上に立つべき人間だと思います」

――酒井選手は2016年にHSVで監督から、キャプテンに指名されましたね。

「はい。そのとき監督からは、『なんでお前をキャプテンにしたのかっていうと、お前の発言に耳を傾けない選手はこのチームにはいないからだ。キャプテンじゃないのに、その立場なのだから、キャプテンができるはず』ということを強く言ってもらいました。『それは、お前が普段から、プロとして正しい振る舞いができているからだろう』って」

――それはうれしかったですね。

「シュトゥットガルトからHSVへ加入したときは、注目されていたわけではないんです。チームにフィットしてくれれば良いだろうという程度で。それがキャプテンにと言われたわけですけど、うれしいというよりも、キャプテンというのは、そういうものなのかという感じでした。外から見ている人が、この人の話はみんなが聞いているし、うまくコミュニケーションが取れている人材というのが、まとめる役割を担うのは当然なんだなという感覚でした」

――チームメイトからの信頼を集めるうえで、大切にしたのは、やはり安定したパフォーマンスでしたか?

「そうですね。シュトゥットガルト時代には通訳の力を借りていたのですが、HSVへ加入したときは通訳をお願いしませんでした。拙いながらもドイツ語で直接チームメイトとコミュニケーションをとることが必要だと考えたので」

――ダイレクトでの交流が生まれたんですね。

「やはり向こうは、日本よりもさらに結果主義です。どんなにいいパフォーマンスをしていても、得点やアシストがないと批判されたりすることもある。そんななかで、安定したパフォーマンスというのは、すごく大事でした。それが信頼に繋がるし、くわえて、日ごろの態度や選手たちへの対応、接し方とか、そういうのを見られているという感覚もありましたね」

――キャプテンとして、気を配ったことはどんなことでしたか?

「ブンデスリーガは外国人選手の枠に制限がないこともあって、世界中から選手が集まる多国籍軍。国や文化の違いが、選手の性格にも表れるんだということに気づきました。言われることが苦手な人種がいれば、すごく言う人種や抱え込んでしまう人種もいます。本当にお国柄というか、出身国の色が出るので、とことん会話をしましたね。それぞれに合った接し方を模索し、寄り添うことが大事だと考えていました。それは、キャプテンになる前から意識していたことかもしれません」

――外国籍の酒井選手だからこそできることだったのかもしれませんね。

「HSVでは『高徳はドイツ人だ』と言ってもらうような感じになりましたけど(笑)。でも、ドイツ人選手にも特長があるんですよ。彼らは本当にドイツ人同士で群れたがるんです。外国人選手からすれば、あまりいい気にはなりませんよね。

だから、『お前たちが自国の選手でチームの中心なのはわかるけど、お前たちがそうやって固まっちゃうと、ほかの選手とバラバラになるし、亀裂が入ると分断しちゃうから、なるべくそれはやめて』という話をしましたね。ちゃんと人に合った寄り添い方や話し方を、アプローチしながら、見極めたのがHSV時代でした」

まずは相手が思っていることを聞くことから

――行動を大切にしている印象でしたが、やはり会話も重要視されている?

「もちろん、俺を見ろというのはありましたが、コミュニケーションは欠かしませんでした。ただただ、無口で黙々とやっているだけではなくて、発言も大事です。ただ、言い過ぎないというか、言いっぱなしにはしない。

自分のパフォーマンスというのが前提にあって、『こうすれば良いんじゃない?』とアドバイスするときには、『僕はこっちがいいと思うんだけど、お前はどう?』というふうに相手の意見も聞く。

たとえば、僕はサイドバックですが、前にいるサイドハーフの選手には、『攻撃しやすいか?』とか、『守りにくくないか? 辛くないか?』って聞いたり。実際は試合中なので、こんなに優しくは言わないけど(笑)。大丈夫かって、ちゃんと彼らの意見を聞きつつ、対話し、僕は後ろでパフォーマンスを発揮して、しっかり支えるというのを意識しています。行動で示しながらも、しっかりとコミュニケーションをとるというのは、一番大事だと思いますね」

――日本人はなかなか自分の意見を言わない。引き出すことが必要ですか?

「やっぱり若手からすれば、僕には言いづらいと思うんです。ドイツや代表でやっていた選手からなにかを言われたら、『はい』とか『うん』以外は言いづらくても不思議ではない。それ以上に、『自分が間違ったことを言っているんじゃないか』と思ってしまうことだってあるかもしれません。僕が若いころ、やっぱり先輩に対してそうだったから。アルビレックス新潟の先輩は良い人ばかりで、常に僕に必要な正しいことを言ってくれたし、僕を伸ばしてくれたんで、感謝しています」

――だからこそ、今は若手の言葉を引き出したいと。

「ですね。まず向こうが思っていることを聞いて、『だったら、お前がやりやすくするために、俺はこういう考えがあるけど、どうかな』とか、『もうちょっとこうしたいから、こうしてほしいんだけど、どう思う?』とか、きちんと会話する、キャッチボールする、投げっぱなしにも、取りっぱなしにもしない、というのが大事だと思います」

――指示待ちが多い世代に対しても、指示を与える前に、「お前はどうだ」と聞くから、相手も考えるし、自分の状態を言葉で表現しなければならないと。コミュニケーションが求められるシチュエーションが生まれれば、自分で行動できるようになるのかもしれませんね。

「それはあると思います。自分が意見していいんだという意識にもなると思うし、お互いを理解しようとなる。人間は理解してくれた相手を理解しようとするもの。この人は自分が言ったことをちゃんと理解してくれている。ときどき厳しいことを言われるけれど、それはうれしいことだと。

厳しいことを言ってくれる人間の言葉は、その人への信頼が強ければ強いほど、受け入れられるものでしょう? そういう信頼を築くうえで、『この人はきちんとこちらの意見も聞いてくれる』というのは大きいと思うんです。もし、苦言を呈されても、自分の意見が言えるのは、ある種の逃げ道というか、考える猶予にもなると思うんです。

その苦言を無条件に受け入れるのはしんどいけど、間違っていれば、意見が言えるし、正しいと思えば受け入れられるので。僕としては、『でも、僕はこういうふうに考えている、こうしたい』という提案があれば、なおさら良いと思っています」

※3回目に続く

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=森田直樹/アフロスポーツ

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