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2024.01.20

【ホーキンソン】パリ五輪に向けて、世界のトップと戦うための目標設定

2023年8月に行われたワールドカップ(以下、W杯)において、格上の強豪国であるフィンランドやベネズエラを打ち破り、実に48年ぶりとなる、自力でのパリ五輪出場権を獲得したバスケットボール男子日本代表「アカツキ ジャパン」。その歴史的快挙を成し遂げたメンバーのなかでも、最大の殊勲者であり、2023年に日本国籍を取得、帰化選手になったばかりのジョシュ・ホーキンソンに、自身の哲学を訊いた。2回目。#1

ジョシュ・ホーキンソン/Josh Hawkinson
1995年アメリカ・ワシントン州シアトル生まれ。元プロバスケットボール選手の両親の元に生まれ、高校時代は野球で頭角を現し、150km近い速球を投げる投手として注目。ワシントン州立大学でバスケに専念し、「通算1000得点、1000リバウンド」という記録を樹立。しかしNBAドラフトでは惜しくも指名漏れという結果に終わり、2017年夏、当時B2だったファイティングイーグルス名古屋でB.LEAGUEのキャリアをスタートさせる。2020年からB1の信州ブレイブウォリアーズ、2023年からサンロッカーズ渋谷に所属し、同年に日本国籍を取得。日本名は名字の「Hawk(鷹)」から「鷹大(たかひろ)」とし、ファンからは「鷹ちゃん」の愛称で親しまれる。

本当に目標を信じているのか

2023年夏に沖縄アリーナで開催されたW杯全出場チームのなかでも、最も活躍したビッグマンとして世界にその名を轟かせた、ジョシュ・ホーキンソンとは何者なのか? W杯でトム・ホーバス=ヘッドコーチ(以下、HC)から学んだことや、トップアスリートとしてのメンタリティを紐解きながら、アカツキ ジャパンをパリ五輪へと導き、日本バスケ界の未来を力強く切り拓いていく、アメリカ生まれの侍の素顔に迫る。

Q: ジョシュさんは2023年に帰化し、トム・ホーバスHCの下、初めてのW杯を日本代表として戦いました。2020東京オリンピックでも女子日本代表を銀メダルへと導いたトムHCから、学んだことを教えてください。

目標を立てて、それを強く信じることです。日本代表チームが招集されて最初の練習の時、トムHCは僕たちに共通の目標を設定するように言いました。僕たちはみんなで話し合い、「W杯でアジア1位となり、パリ五輪の出場権を獲得すること」を目標に掲げたんです。その後トムHCは、選手はもちろん、コーチやトレーナーなどのスタッフまで、チームに関わる全員を同じ場所に集めて、本当に目標を信じているのか、を一人ひとりに問うていきました。

チームで共通の目標を立てたとしても一人ひとりがその目標を100%信じていなければ、100%の力を捧げることはできません。うまくいかないことがあっても、練習に身が入らない日があっても、一人ひとりが共通の目標を信じて、そのために全員が力を尽くしているんだということを理解していれば、日々本気で競い合い成長するために死力を尽くせます。それが、トムHCから学んだ一番重要なことです。

Q: W杯では、代表メンバーそれぞれの個性や長所がいかんなく発揮され、それが勝ちという結果を引き寄せました。どのようにチームワークを高めていったのでしょうか?

トレーニングキャンプはたったの1週間しかなく、しかも他のメンバーは何年も前から一緒に代表としてプレイしていますが、僕の場合は初めての代表選出でしたから、最初は本当に探り探りでした。

少なくとも、マコ(比江島慎選手。宇都宮ブレックス所属)や勇輝(河村選手。横浜ビー・コルセアーズ所属)のようにB.LEAGUEにいるメンバーであればどのようなプレイをするか知っていましたが、雄太(渡邊選手。フェニックス・サンズ所属)、雄大(馬場選手。取材時はテキサス・レジェンズ所属)、啓生(富永選手。ネブラスカ大学所属)のような海外チームに所属しているメンバーとは初めて一緒にプレイするわけですから、チームとしてゲームをどう運んでいくかを掴むのには苦労しました。ただ、パリ五輪出場のために全力を尽くして練習し続けたことで、徐々にチームとしてのケミストリーが生まれて。やはり、みんなが選手個々の好きなプレイを知り、お互いにそれを引きだし合う意識が重要なんです。

Q: W杯が始まって、最初の数試合はショット面で苦労しているように見えました。困難な状況に陥った時、そこから抜けだすために心がけることは?

僕はアウトサイドからのシュートを得意とするプレイヤーなんですが、なぜか最初の4試合はまったくシュートが入らず、3ポイントシュートは9本中8本失敗するような状況でした。インサイドでもアウトサイドでもプレイできるという自分の長所をまったく活かすことができない状況には、正直フラストレーションがたまりました。だって、練習では全然問題なくシュートが入るんですよ。でも試合では入らない。あの数試合は本当に苦労しました。

ただ、3ポイントが入らないんだったら、ゴールに向かってドライブすればいいし、ディフェンスやリバウンドなど、みんなで立てた共通の目標のために、他のプレイで貢献すればいいと考え方を変えるようになり、だんだんと自分らしいプレイができるようになりました。

「コートの上で何でもできる完璧なプレイヤーになりたいんです。オフェンスもディフェンスもうまくなりたい」

パリ五輪に向けて

Q: 今回のW杯では、見事にチームとしての目標を達成することができました。この結果は自信に繋がりましたか?

短期的に見れば、今回の目標達成は代表チームに非常に大きな自信を与えてくれたことは確かですし、48年ぶりに自力でオリンピック出場権を獲得できたことは、とても大きな成果だと思います。とはいえ、我々はまだ世界ランキングで見ると19位か20位という状況。まだまだ長い道のりがあるし、成長できるし、もっともっと上を目指していきたいです。まだパリ五輪に向けた活動は始まっていませんが、もう一度全員で集まって話し合い、新たな共通の目標を立てるところから始めたいと思っています。

Q: 最後のカーボベルデ戦では、40分間フル出場して躍動していましたが、どんなことを考えてプレイしていましたか?

たとえシュートが入らなかったとしても、コーチやチームメイトは僕を信じてサポートしてくれて、僕自身も必ず入ると信じてシュートを打ち続けることができました。カーボベルデ戦では最初の2本の3ポイントシュートこそ外しましたが、3本目のシュートが入った時は「やっと入った!」って、本当に嬉しかったです。

特に私のマークマンは2m21cmのビッグマン(ボバン・マリヤノヴィッチ選手。ヒューストン・ロケッツ所属)で、世界でもトップクラスのブロッカーです。彼がゴール下のペイントエリアにいる以上、ゴールに近づいてフィジカルなプレイをすることはできません。だから僕の役割は、彼にアウトサイドからのシュートを警戒させて、ペイントエリアの外までおびきだすこと。彼がゴール下から離れれば、みんなのプレイエリアが広がって、オフェンスの幅も広がります。

結局、2ポイントシュートは5/6本で83%、3ポイントシュートは4/8本で50%という、納得の数字を残すことができました。

B.LEAGUEの今季のレギュラーシーズンは、2023年10月5日(木)~2024年5月6日(月)まで。

最高レベルのコートに立ち、最高のパフォーマンスを残す

Q: シュートが入った時の感覚は、バスケットボールの世界でよく言われる「ゾーンに入る」という感覚ですか?

どんなに難しいシュートでも、自分の手からボールが離れた瞬間に、それがゴールに入ることを確信できるような時、その人は「ゾーンに入った」状態と言われます。でも僕の場合はあまりそのことを意識することがなくて、ただトレーニングしたとおりに、その状況に対して反射的に身体を動かしている感覚が強いので、実際のプレイではいつも通り、簡単なことをやっているように感じるんです。

試合までに積み重ねてきた努力があれば、「ゾーンに入る」という神秘的な力に頼らなくても、単純に自分のやるべき仕事として遂行できるようになるんだと思います。そのように毎試合高いレベルのパフォーマンスを発揮するためには、練習も常に試合でプレイしているような意識が重要です。もし練習で自分の能力を100%引きだすことができなければ、試合中に同じシチュエーションになったとしても、いきなり100%の力を出すことはできないでしょう。

Q: W杯ではジョシュさんのプレイヤーとしての素質が世界中に知れわたり、NBAなど海外リーグからも一気に注目されるようになりました。2023年からサンロッカーズ渋谷でプレイしていますが、ご自身では今後、どのようなキャリアを想像していますか?

僕の目標は常に、自分が到達できる最高レベルのコートでプレイすることです。それは高校生の時から変わりません。最初の目標は、奨学金をもらってアメリカのディヴィジョン1の大学でプレイすることでした。次の目標は、ディヴィジョン1の“パワー5カンファレンス”と呼ばれるトップリーグに上がること。その後、NBAを目指しましたがドラフトで惜しくも選ばれず、日本に来てB2からスタートし、3年間でB1に上がりました。

そして今、日本人として日本代表チームに選ばれ、W杯で世界を相手に自分の力を示しています。NBAでプレイしていなくても、僕はW杯という舞台で世界のトップ選手たちと対戦し、自分も世界のトップクラスの選手であるということを証明できたと思っています。次の目標は、サンロッカーズ渋谷にチャンピオンシップをもたらすこと。成長のために大事なのは、自分がどこにいても、常に最高レベルのコートに立ち、最高のパフォーマンスを残すことです。

今回のW杯で結果を残せたことには、非常に満足しています。MVPを獲得したドイツのシュルーダー(デニス・マイク・シュルーダー選手。トロント・ラプターズ所属)や、フィンランドのラウリ・マルカネン(ラウリ・エリアス・マルカネン選手。ユタ・ジャズ所属)など、NBAのスター選手たちと対等にプレイできることを実感できたのは、とても大きな収穫となりました。

※3回目に続く。

TEXT=佐野慎悟

PHOTOGRAPH=秦淳司

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