MAGAZINE &
SALON MEMBERMAGAZINE &
SALON MEMBER
仕事が楽しければ
人生も愉しい

PERSON

2024.05.11

「努力したから成果が得られた」ではなく、「いつのまにかうまくいった」がいい 【養老孟司×和田秀樹⑤】

『80歳の壁』著者・63歳和田秀樹が、“長生きの真意”に迫る対談連載企画「医者ではなく、大先輩に聞け!」。初回ゲストは解剖学者・86歳養老孟司。『バカの壁』『80歳の壁』。記録的な大ヒット本を生んだ二人に共通する人生哲学とは。話の随所から、楽に生きるためのヒントが飛び出てきます。その第5回。【連載の過去記事はコチラ】

お金は使う。仕方ないから稼ぐ

和田 養老先生は虫捕り。僕が一番楽しいのは映画を撮っている時です。でもこればかりはお金を集めないとできない。それとワインを集めるのも楽しい。欲しいワインを見つけて、購入するのは最高です。だけどこれもお金がかかる。『80歳の壁』がヒットして印税もかなりいただいたのに通帳に残額がない(笑)。

養老 似たようなもんです(笑)。

和田 養老先生はお金に関してはどんな考えですか?

養老 若い時は給料を貰ってたでしょ。僕の口座にお金が入っている。するとね、心配になるんですよ。世の中の誰かがその分、困ってるんじゃないかって。だってお金というのは、政府が日本全体に必要なだけ配っているものでしょ。誰かの所に貯まってたら、誰かの所には行ってない。困ってる人がいるってことですよ。

和田 (笑)。面白い考えです。

和田秀樹/Hideki Wada
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授を経て、「和田秀樹こころと体のクリニック」院長に。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

養老 僕の常識ではそう。お金はあると便利だけど、自分の所だけに貯まっちゃうとダメだから、常に全部使っちゃう(笑)。

和田 使って還元する?

養老 還元なんて大それたことは考えませんよ。そもそもね、給料が足りないんだから(笑)。

和田 貯まる状態がおかしいと僕も思っています。

養老 そうです。僕はゾウムシを入れる家を作ったから。そのお金は自分で稼ぐしかない。誰も出してくれませんから。大変なんですよ、ゾウムシの家って。数も半端じゃないしね。

和田 温度管理とかも?

養老 いや、温度じゃなく湿度です。カビが生えるんでね。生えてもきれいにできるんだけど手数が大変。しょっちゅうカビを拭いてますよ(笑)。

和田 僕の人生観では、お金は使うために稼ぐと信じている。使いたいから馬車馬のように働く。養老先生は?

養老 馬車馬のように働こうと思ったことは一度もない。仕方がないから働いています(笑)。家族もいるしね。それくらいの責任は持たなきゃと思います。

和田 その責任はもう果たされましたよね?

養老 わかりませんね。実情を見てるとまだまだという気がしますね。奥さんがいるし、あの人に何をしてあげられるか、と考えますね。

養老孟司/Takeshi Yoro
1937年鎌倉市生まれ。東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入る。東京大学大学院医学系研究科基礎医学専攻博士課程を修了。東京大学医学部教授、北里大学教授を歴任。東京大学名誉教授。『ものがわかるということ』など著書多数。

努力する時代は終わった

和田 「居心地の悪いのは自分の努力が足りないから」と思う人がいるんですよね。

養老 そうなんです。でもそういう考え方は、そろそろやめたほうがいい。

和田 本当にそう思います。

養老 『土を育てる』って本がね、すごくよかったんです。ゲイブ・ブラウンっていうアメリカの農家の人が書いたんだけど。その人は除草剤や化学肥料を使わないだけじゃなく、畑を耕さない。だけど近隣の農家と同じように経済が成り立っている。驚きましたよ。

和田 常識が覆った?

養老 そう。農業の発祥から1万年でしょ。人間の世界ではその間、土は耕すものだと思い、汗水たらしてやってきた。だけど彼の本の写真を見ると、畑に種イモを並べて、その上に枯れ草をかけるだけ。秋になって枯れ草をどけるとジャガイモが育ってるんですよ。農業って何やってたんだって思いましたね。

和田 1万年、ずっと額に汗して一生懸命に耕してきたのに。

養老 本当は放っておきゃよかった(笑)。

和田 生き方の真理とも繋がりそうな話ですね。

養老 人間ってね、「自分が何かしたからこの成果が得られた」と思いたいのですよ。だけどそれがまずいんですね。もういい加減、そんな考え方はやめたらいいと思うんだけど。数年前に若い人の一番好きな諺が「棚からぼた餅」だった。それでいいんだよね(笑)。

和田 精神医学的にもそういう思考を持った方が健全です。

養老 頑張って得た成果が欲しいんだろうね、みんな。政治家は「俺が橋を造った」と威張るけど、「あなたはセメントの袋の一つでも運んだのですか」って言いたくなりますよ(笑)。

和田 言わないと票が入らない。

養老 すべての商売がそうなってしまっている。本当は「いつのまにかうまくいっちゃった」というのがもっとあるんだろうけど、それは言わない。

和田 マスコミも「頑張った結果、これができた」というストーリーが好きですからね。

養老 努力する時代は終わりましたね。環境問題が正面に出てくる時代ですから。環境はいじったらうまくいくというものではありません。自然だから。人間の手には余る。すべてを人間がいじるわけにはいかず、自然に任せるしかない。さっきの畑の話と同じで、耕さなくてもちゃんと育つんです。

※6回目に続く

この連載をもっと読む

連載
和田秀樹の「医者ではなく、大先輩に聞け!」

TEXT=大城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2024年7月号

恍惚レストラン ゲーテイスト2024

ゲーテ7月号表紙

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2024年7月号

恍惚レストラン ゲーテイスト2024

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ7月号』が2024年5月24日に発売。今号は、“美食四兄弟”が愛してやまない恍惚レストラン。 秋元 康・小山薫堂・中田英寿・見城 徹がこの一年の間に通ったベストレストランを紹介する。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる