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GOLF

2024.08.04

タイガー・ウッズ以来2人目、全米ジュニアを複数回制したジョーダン・スピース「カップに打つんだ、という意識を持つことで自然なストロークができる」

ジョーダン・スピースは、ゴルフは右打ちだが本来は左利きだ。中学時代は野球選手で球種の多い左投手として活躍した。2009年と11年に「全米ジュニア」を制し、タイガー・ウッズ以来2人目となる複数回優勝を達成している。

「ノールック・パッティング」の有効性

プロ転向後は2013年「ジョンディアクラシック」で初優勝。PGAツアー82年ぶりの10代での優勝で、ルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。2015年にウッズの大会記録に並ぶ通算18アンダーで「マスターズ」を制覇した上、「全米オープン」も勝ってシーズン5勝をマーク。世界ランキング1位に上り詰め、史上最年少の22歳2カ月でフェデックスカップ年間王者の栄冠を手にした。

 

2017年の「全英オープン」でメジャー3勝目をあげ、グランドスラムに王手をかけたが、その後は低迷した。2021年「バレロテキサスオープン」で4季ぶりの復活優勝を果たし、2022年「RBCヘリテージ」で通算13勝目をあげている。

スピースの武器は、正確なショットと卓越したパッティングだが、特にパッティングの名手としての呼び声が高い。ショートパットではボールを見ず、カップを見たままストロークすることがしばしばあり、よく話題になっている。

スピース本人は、このノールック・パッティングを次のように解説している。

「中継などで見たことがあるかもしれませんが、1・5メートル以内のストレートラインだったら、ボクはカップを見ながら打つことがあります。なぜかって? ボールに集中してしまうとプレッシャーで体がうまく動かなくなることがあるからさ。カップに打つんだ、という意識を持つことで自然なストロークができるんです」

スピースは、パッティングの練習ではボールはもちろんカップすらも見ず、顔はそっぽをむいたまま、5mぐらいのパットを打っているのが動画でも紹介されている。それがちゃんと入るのだから、パットって何だか簡単そうに思えてくる。

これと似た練習法では、パターのフェースを合わせるまでは普通にアドレスするが、アドレスが決まったら目をつぶってしまい、何も見えない状態でストロークするものがある。いずれの場合も、ボールを打つという意識がなくなり、スムーズでよいストロークをすることに集中できる効果がある。すると、入れなければならないというプレッシャーで、手がスムーズに動かないということもなくなる。

カップを見たまま、ボールは見ずにストロークする場合も、同様にプレッシャーからは解放され、目標に向かってストロークすることだけに意識を向けられるようだ。打ち出しの方向感覚と距離感の両方がよくなるから、入る確率は高くなるというわけだ。

「ノールック・パッティング」の可能性

このノールック・パッティングを取り入れて、復活の兆しをみせている日本の女子プロがいる。2024年の資生堂レディス(神奈川・戸塚CC西コース)で久々の優勝争いに加わり、惜しくも準優勝となった堀琴音プロだ。

堀プロはイップスに近い症状に悩まされていたらしく、まずは道具を長尺パターに替えることで改善を図った。1年前に長尺パターを使い始め、アドレスを決めたらボールを見ないで打つ「ノールック・パッティング」を取り入れたのが2カ月ほど前だった。理由は「(ボールを見ないと)ストロークを気にしなくてすむ」からだそうだ。

長尺パターは振り子の軸が物理的に長くなり、ヘッドがゆっくりと安定して動くのが利点だ。かつて長尺パターはシニアプロの使用率が高く、レギュラーツアーで使っている選手は少なかったが、最近は男女ともに若いツアープロが使っているのをよく見かけるようになった。

プロトーナメントのグリーンは高速で、より繊細なタッチが求められる。長尺パターのメリットはわかっていても、パターが下手と思われるのが嫌で使わない人も多かったが、今の若いプロは、合理的な思考からか、いいものであれば積極的に取り入れるようだ。

堀プロは、その長尺パターにノールック・パッティングを組み合わせることで、更なる「いいタッチ」を追求したようだ。資生堂レディスでは、アドレスをしっかりと決め、パターヘッドをボールの後方にセットした後は首を右にかしげて目線をカップへ向ける。その形のままストロークし、堀プロはジャストタッチの好パットを連発していた。

堀プロがギャラリーを驚かせたのは、そのノールック・パッティングを、スピースのようにショートパットに限定せず、ロングパットでも実践していたことだ。ロングパットはストロークが大きくなるのに、「よくボールを見ずにしっかりヒットできるな」と驚いたのだ。

しかし、よく考えてみれば、プロはドライバーショットですら目隠ししたまま打つことができると聞いたことがある。パッティングのストロークぐらいなら、ボールを見なくても、正確に芯で打つことなど朝飯前なのだろう。

アベレージゴルファーと「ノールック・パッティング」

では、アマチュアの一般ゴルファーはどうだろうか。堀プロと同じく、私も長尺パターを愛用しているので、ホームコースの練習グリーンで試してみた。

まず、ロングパットでカップの方を見たままストロークしてみると、トップしたりダフったりするんじゃないかと多少不安だったが、意外にも概ねちゃんとヒットでき、距離感もよかった。これならいけるかもしれないと、実際のラウンドでも試してみたところ、ボールを見ないとやはり「ミスヒットするのではないか」という不安が大きくて、あまりスムーズなストロークにならなかった。

一方、2m以内のショートパットは、練習グリーンでもラウンド中のグリーンでも、方向感覚・距離感ともによく、ごく自然にストロークできた。カップインの確実性も上がったように思う。もちろん、読んだラインに打てていても、予想より曲がったり曲がらなかったりして、カップインしないこともあるが、それは読みが間違っていただけで、ストローク自体はよかった末の結果なので納得できるものだった。

よって、アベレージゴルファーでも、ショートパットにおけるノールック・パッティングは、比較的容易に実戦に取り入れることができそうだ。ボールを見てパットしようとすると、固くなってしまってスムーズに打てずに苦労しているような方は、一度試してみてはいかがだろうか。

ただ、ロングパットをノールック・パッティングで堀琴音プロのようにうまく打てるようになるには、一定の練習を積み、自信をつける必要があると思う。ボールに集中することで受けてしまうプレッシャーからは解放されるが、今度はミスヒットするのではないかという不安が、実戦では大きくなってしまうからだ。

これらの試行結果から、私の場合は、ラウンド前の練習グリーンでその日のグリーンの速さを確かめる際には、ノールック・パッティングでロングパットを打って距離感を合わせるようにし、ショートパットは練習しない。ショートパットを練習しないのは、プロでも外すことがあるし、うまく打てても外れることもあるから、そんなものと割り切っているからだ。だから、ラウンド前はグリーンの速さを知り、距離感を合わせることにのみ重点を置くことにしているのだ。

プレッシャー対策になる「ノールック・パッティング」

実戦のコースのグリーン上では、ロングパットに際してはカップを見て距離をイメージしたら、ボールに視線を戻しイメージが消えない内にストロークするようにしている。一方、2m以内のショートパットはカップ方向に目標を設定し、ストレートなラインも曲がるラインも、その目標にフェースを合わせたら、フェースの向いているラインをたどっていって、設定した目標に視線が到達したのをきっかけに、ノールック・パッティングでストロークを開始するようにしている。

このやり方で、ロングパットもショートパットもよいパッティングができる確率が、かなり上がったように思う。ただ、中途半端な3~5mぐらいのパットは、ノールック・パッティングでいくか、ボールを見て打つかを決めきれていない。将来的には、ノールック・パッティングでいくようになるとは思っているが、今はまだその場のフィーリングでどっちつかずというところだ。

3~5mぐらいのパットは、勝負所のバーディ・パットや何とかしのぎたいパー・パットの距離である。そのため、それなりにプレッシャーを受けやすいことを考えると、ノールック・パッティングでいけるように練習して、自信をつけたいと思う。

私の例が、全てのゴルファーに効果的かどうかは疑問だが、ボールを見ているとプレッシャーで固くなってしまうゴルファーには、ノールック・パッティングを練習してみることをお薦めしたい。特に、練習グリーンにおける、ノールック・パッティングでのロングパット練習は、距離感を磨くのにかなり効果的なので、ぜひ練習してみていただきたいと思う。

参考資料:
「ジョーダン・スピースがアルバだけに教えてくれたパターが入る『4つの金言』」ALBA Net GOLF、2017年7月24日

「ジョーダン・スピース」GDOニュース

「女子ゴルフ観客仰天「球を見ずに打っている」 復活気配の2位、堀琴音がノールックパットを導入した理由」THE ANSWER、2024年6月30日

「堀琴音もメリットに言及 なぜシニアのイメージが強い「長尺パター」 を若手プロが使いだしたのか」日刊ゲンダイDIGITAL、2024年7月6日

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:ゴルフは名言でうまくなる
岡上貞夫

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