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2024.07.28

シングルファザーで3人を子育て。笠原将弘、思春期の子供との会話は「自分の話をしゃべりまくる」

2004年にオープンした予約が取れない日本料理店「賛否両論」を率い、約100冊もの料理本を出版し、メディアでも活躍。多忙を極める料理人・笠原将弘氏は、25歳と23歳の娘、19歳の息子という3人の子を持つシングルファザーでもある。「指針になったのは自分の子供時代」という笠原流子育てに迫る。

【賛否両論】笠原将弘

親が子供に教えるべきことは今も昔も変わらない

高校を卒業後、焼き鳥店を営んでいた父の背中を追い、料理の道に進んだ笠原氏。修業先で出会った妻と結婚、一男二女を授かったが、最愛の妻は病気のため2012年に他界した。

「妻が生きている間は、子育てはすべて彼女に任せっきりでした。店は日曜休みにしていたけれど、地方出張なんかもあったから、家族で出かけるのは月に1、2回程度。平日は、子供と過ごす時間なんて、ほぼなかったですね。だから、妻が亡くなって途方にくれました。当時、長女は13歳で次女は11歳、長男は7歳。まだまだ手がかかる年齢でしたから。

幸いにも、妻のお姉さんが同居してくれ、子供たちの世話から家事まで、日頃の生活はすべてみてくれました。でも、子供のしつけまで丸投げするわけにはいきませんからね。自分なりに、やれることはやろうと腹は括ったものの、僕は一人っ子だったから、女の子の育て方はまったくわからなくて。長女は思春期にさしかかっていたし、難しいなと思いつつ、手探りでなんとかやってきた感じです」

指針としたのは、自身が親から受けてきた教育だった。

「親が子供に教えるべきことって、今も昔もそんなに変わらないと思うんですよ。悪いことをしたらすぐに謝る、挨拶は大きい声で自分からする、時間は守る。昔、自分が、両親やおじいちゃん、おばあちゃんに言われてきたことを、そのまま子供たちに教えてきました。

昔からあることわざって、今の時代にもじゅうぶん通用するでしょ。それと同じで、昔の人はいいこと言っているなと、つくづく思います」

“女の子の育て方”にしても、「性別が違うだけで、同じ人間。女だからとか男だからではなく、昔から正しいとされてきたことを教えればいい」という結論に至った。

「ただし、門限だけは別。娘たちには息子よりも厳しくしましたね。一度長女に破られて、ちょっとしたバトルにはなりましたが(笑)」

子供の頃、親にどうしてほしかったかを思い出す

門限に関して長女からの反発はあったもの、それ以外は、3人共、反抗期らしい反抗期がなかった。

「反抗しようにも、僕がふだん家にいませんからね。反抗どころか、たまに家で顔を合わせると、子供たちから大切にされるんですよ、『お父さん、久しぶり!』なんてね(笑)。子供にとっても、一緒に過ごす時間が貴重に思えるんでしょうね。だから、子供が反抗期で困っているという友人に言うんです、『お前が家にいるから反抗されるんだよ』って」

反抗期はないにしても、思春期の接し方は難しかったのではないか。そうたずねると、「自分が思春期だった頃、親にどうしてほしかったかを思い出せばいいんです」と、笠原氏。

「思春期って、ただでさえ親がうっとうしい頃じゃないですか。しかも、今やろうと思っている時にかぎって、親から『〇〇しなさい』とガミガミ言われる。それじゃあ、子供も、『わかってるよ!』と反発したくもなりますよ。いつの時代も、その繰り返しだと思います。古代エジプト時代の壁画にだって、『今時の若い者は』って言葉が刻まれているそうですからね。

だから、人としてダメなこと以外は、あまり口を出さなかった。それでも、子供は勝手に巣立ちます。僕自身、両親が店をやっていたし、高校1年の時には母親が病気で亡くなってしまったけれど、なんとかやれていますからね」

【賛否両論】笠原将弘
笠原将弘/Masahiro Kasahara
1972年東京都生まれ。「正月屋吉兆」で修業後、実家の焼き鳥店を継ぎ、2004年、東京・恵比寿に「賛否両論」を開店。名古屋と金沢にも支店を持つ。YouTube「笠原将弘の料理のほそ道」は登録者数70万人を突破。『笠原将弘の献立の極み70』(扶桑社)はじめ多数の著書があり、メディアでも活躍している。

思春期特有の“だんまり”には“今週の笠原”で対抗

何を聞いても、「別に」や「わからない」といった実のない答えが返ってくる。それも、思春期の子供を持つ親にとって気になるところ。

「それはウチもありました。一緒にいても、子供からは何の話題も出ず、だんまりが続くようなことはね。でも、他人同士だと、いっしょにいる時に無言が続いたら気まずいけれど、親子なんだからいいじゃないですか。むしろ、黙っていても大丈夫なのが家族だと思い、あまり気にしませんでしたね。それに、毎日毎日、『今日学校で何があった?』と親に聞かれても、子供だって答えに困りますよ。劇的なことが、そうしょっちゅう起こるわけがないんだから」

無言でもOKという笠原氏だが、前述した通り、多忙な分、子供と顔を合わせる時間は貴重だ。そこで実践したのが、子供の口を無理に開かせるのではなく、自分が話をするという方法。

「今日ものすごい腹が立つことがあったとか、こんなことがあって嬉しかったとか、とにかく自分の話をしゃべりまくる。“今週の笠原”みたいな感じでね(笑)。僕は、自慢話はあまり好きじゃないけれど、家族にならいいかと思って、『お父さん、すごいだろ』なんて自慢もけっこうしましたよ。そうやって話題を振ると、向こうも反応するんです。『それは、私でも腹が立つな』とか、『お父さんってすごいんだね』とかね」

笠原氏の子育ては、気負いがなく、自然体だ。それは、子供たちが自立した今も同じ。後編は、大人になった子供たちとの接し方について話を聞く。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=鮫島亜希子

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