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2022.03.18

【星野佳路・前編】ホテル経営のプロも読めなかった、子供から手を離すタイミング──連載「イノベーターの子育て論」Vol.1

日本のビジネス界やエンタメ界を牽引するイノベーターたちがいかにして育ち、自身の子をふくめた次の世代の才能を育てているのか、その“子育て論”に迫る本連載。第1回目はリゾートホテル運営の達人と呼ばれる星野リゾート代表・星野佳路氏の子育て論。ホテル経営のためのビジネス書は数多く読み、大学では経営学を学んだが、子育ては指南書には頼らず、すべてが手探りだったという。ホテル経営のプロも悩み抜いた子育て。息子が20歳になった今、やっとたどり着いたひとつの結論とは。

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個性豊かな星野一族に囲まれた、自身の幼少期

軽井沢に1914年に開業した星野温泉旅館。その4代目として誕生した星野佳路氏。その幼少期の環境や思い出からは、世間一般的な家族像とは一風変わった星野家の片鱗が伺える。

「私が子供の頃は、一家というより、星野一族で住んでいたんです。両親はわりと自由になんでもやらせてくれたんですが、大家族のせいか、祖父や祖父の弟といった人物からあれこれ言われました。とくに祖父の弟だった三郎さんは、私の顔を見るたびに『勉強して東京のいい大学に行け』と。一方で、祖父は私を人に会わせるたび"佳路"でも"孫"でもなく『4代目です』と紹介して、『自分は4代目なのか』と子供ながらに感じて、とても印象に残っています」

幼い頃からそんな個性豊かな大家族のなかで育った星野氏いわく、星野家では、母や祖母といった女性陣がアカデミックだったそうだ。

「母が東京出身だったせいか、早めに東京に行った方がいいから中学受験をしようと言いだし、まずは塾に入るための試験を東京で受けたところ、3000人ぐらいいる受験生の中でビリから2番目でした。それを祖父に見せたら『お前よりもできない奴がいるな!』ってすごく喜んだんです(笑)。私はそんな星野一族の影響を受け、年齢とともに発想の仕方とか、得意不得意の分野に、ちょこちょこと遺伝子を感じさせるものが出てきたのは確か。あの人たちに似るのは嫌なんですが(笑)」

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年間60日間のスキー滑走を目標に掲げる星野氏は、かつては世界、コロナ禍では日本各地を巡りテレワーク。「昔は息子を連れて国内外あらゆるスキー場に行きました。彼は、今やまったく興味を示してくれなのが悲しいところ。いつかまた一緒に滑りたいですね」。写真は幼き頃の息子との1枚。

星野家は共働きで子育ては50/50。運動会にも全力投球

星野家には20歳になる一人息子がいるが、子育てに関しては夫婦でスケジュールを共有しながら、できる方がやるというスタンスだった。

「私も子育てはしっかりやっていたと思います。妻との分担はなく、動ける方が動き、やれる方がやる。保育園の送り迎えもしていましたから、いまだに保育園のママ友とは仲がいいです(笑)。運動会でも2年連続、親の部で優勝して。『これほど真剣に挑んでいる親は初めてです』と園長先生に言われましたよ(笑)」

子育てを義務感とは思わず、思い切り楽しんでやっていた。「子供に時間を割くことが嫌じゃなかった」という発言は、まさに何事も楽しむ、好奇心旺盛な星野氏ならではの言葉だ。

「息子が長い休みになると、彼はその頃スキーをやっていたので、国内外いろいろなスキー場に連れ立って行きました。毎年夏になると、星野リゾートの社員たちとニュージーランドでスキー合宿をするんですが、息子もそこに参加して、自然と社員たちとも交流が生まれたようです。20歳になった今は『今日は●●さんとカレーを食ってきた』なんて報告も聞くぐらい、仲良くなった社員もいるようですね」

そんな息子に、とある出来事をきっかけに、星野氏は自分と同じ遺伝子を感じたという。その出来事とは一体。

「彼が中学時代、問題ばかり起こして呼び出されていたんですが、ある時先生に『おたくのお子さんは天邪鬼です』と言われた瞬間、自分の過去の記憶がフラッシュバックしたんです。軽井沢にいた幼少時代、私も『天邪鬼だ』と言われ続けていたから。それを思い出してしまったせいか、その時は息子を怒れなくて……。とにかく言われたことの真逆をやるんです。私にしても、カーナビに『次を右折です』と言われた瞬間、ハンドルを左に切ってしまう自分がいる。言われたタイミングとか、言い方が気に入らなかったんでしょうね(笑)」

第一子の子育ては、誰もが戸惑うものだけれど、日本のホテル業界を代表する経営者である星野氏にとっても同じだった。

「今振り返ってみても、人に語れるほどよい子育てではなかったと思います。経営に関しては、社会人になる前は大学で『ホテル経営学』を勉強し、あらゆるビジネス書を読んでいたから、おおよその道筋や起こりうることが予測できます。でも、親になる勉強はほとんどの人がしていません。私もすべて手探りでやってしまった」

反省点は、子供を庇護から解き放つタイミング

経営とは違い、万人に通じるセオリーや手本がないのが子育てだ。誰しもが考え、悩み、手探りで子供を育てている。何事にも百戦錬磨に思える星野氏も、また例外ではなかった。そうして20年間、もがきながらも子育てをしてきたなかで、星野氏がたどり着いたひとつの結論があるという。

「子供は親が思っているよりも早く育っていくということです。決断力、判断力、自意識も思っている以上に早く育っている。それなのに『まだ小さいから親がやらないと、決めないと』という意識を持ち続けてしまう。それをどこかでやめなきゃいけないのに、私も含め、その判断が遅れる親が多いのではないでしょうか。そこの見極めこそが、子育ての大事なポイントだと思います。

子供が素直すぎる場合、そのシグナルがわかりにくいし、我が息子のように天邪鬼だと、衝突ばかりで気づけない。誰も教えてくれませんから。ビジネス本はたくさん読んでいますが、子育て本は軽んじて一冊も読みませんでした。自分は子育てくらい楽にできる。そう思っていたのかもしれません」

後編はこちら

Yoshiharu Hoshino
1960年長野県生まれ。’83年慶應義塾大学卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程終了。’91年星野温泉(現・星野リゾート)社長(現・代表)就任。「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」の5ブランドを中心に、国内外に56カ所の施設を運営。

TEXT=今井 恵

PHOTOGRAPH=杉村 航

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