PERSON

2024.09.05

高校時代は無名の9番。矢野雅哉が広島カープのシン・守備職人になったのはなぜ?

し烈な首位争いが続くなか、抜群の守備で度々素晴らしいプレーを見せている矢野雅哉がスターとなる前夜に迫った。

亜細亜大時代の矢野雅哉(現・広島)
亜細亜大時代の矢野雅哉(現・広島)。

守備力は球界トップクラス

不動の中軸として活躍していた西川龍馬がフリー・エージェント(FA)でオリックスに移籍しながらも、粘り強い戦いで優勝争いを演じている広島。

そんなチームにあって抜群の存在感を示しているのがショートの矢野雅哉だ。

開幕直後は守備固めや代走での出場が多かったが、2024年5月以降は不動のレギュラーに定着。三遊間、二遊間のヒット性の当たりを度々アウトにし、その守備範囲の広さと強肩で多くの失点を防いでいる。

セイバーメトリクスでの守備力を示すUZRでも12球団でダントツの数字をマークしており、ショートとしての守備力は球界トップクラスと言えるだろう。また課題だった打撃でもセ・リーグトップとなる6本の三塁打を放つなど、大きな成長を見せている(2024年8月29日終了時点)。

高校時代は無名の9番

そんな矢野は兵庫県の強豪である育英高校の出身だが、当時は決して評判の選手ではなく、プロのスカウトたちの間でもまったく無名の存在だったという。3年夏の兵庫大会はショートのレギュラーとして出場しているが、打順は9番であり、チームも3回戦で敗れている。

矢野の存在がプロ関係者の間で話題となり始めたのは亜細亜大進学後だ。

レベルの高い選手が揃うチームの中でも高い守備力と脚力が評価され、1年春から内野手のバックアップ要員としてリーグ戦に出場。2年春にはレギュラーをつかみ、規定打席不足ながら打率.333という好成績を残した。

しかし打撃についてはまだまだ本当の実力があったわけではく、2年秋は打率0割台、3年春も打率1割台とほとんど良いところを見せることができなかった。

ただそれでもレギュラーとして起用され続けたのは守備力の高さがあったからと言えるだろう。

打撃面で大きな成長が見られたのは3年秋のシーズンだ。

2019年9月10日に行われた秋季リーグの開幕戦、対中央大戦ではチームは4対11で敗れたものの矢野はスリーベースを含む2安打と活躍。当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「体は小さいが守備の動きの良さと肩の強さは抜群。シートノックでも深い位置から見事なスローイングを連発。守備範囲の広さはなかなか見ないレベル。

(中略)

バッティングは非力だが、自らの武器である脚力を生かそうという姿勢が見えるのが良い。1回にいきなりセーフティバントで出塁。初球から積極的に振れる姿勢も目立つ。

足が速くても当て逃げになることなく、しっかり体を残して振ろうという意識も見える。第4打席で追い込まれてから粘ってセンターへのスリーベース。

いやらしさもあり、スピードを残したままパンチ力がついてくれば面白い」

ちなみにセーフティバントでの一塁到達タイムは3.61秒、スリーベースでの三塁到達タイムは11.16秒といずれも素晴らしい数字をマークしている。

このシーズンで矢野はその後もしぶとい打撃でヒットを量産し、最終的に打率.415で首位打者を獲得して見せたのだ。

高校時代に9番を打っていた選手が大学野球の最高峰である東都大学リーグで首位打者を獲得するというのはなかなかないことである。持ち味の守備と走塁だけでなく、打撃のレベルアップにも取り組んできた賜物と言えるだろう。

4年時は新型コロナウィルスの感染拡大の影響で春のリーグ戦が中止となり、アピールする機会は限られていたが、そのなかでも印象深いのが3月22日に行われたNTT東日本とのオープン戦だ。

相手のショートは上川畑大悟(現・日本ハム)、味方チームのセカンドは田中幹也(現・中日)と守備力の高い選手が多く出場していたが、そのなかでも矢野の動きと送球の強さは際立っており、打撃でも2四球、1死球で3度出塁する活躍を見せたのだ。

数少ないアピールの場でも持ち味を発揮できるところに選手としての“強さ”を感じたのをよく覚えている。

侍ジャパンのショートは源田壮亮(西武)の後継者が大きな課題となっているが、今シーズンのプレーぶりを見ると矢野もその有力候補の1人と言えるのではないだろうか。残りのシーズン次第では、オフに開催予定のプレミア12の代表メンバーに選出される可能性も高そうだ。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=AP/アフロ

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