2024年6月7日のロッテ戦でノーヒット・ノーランを達成。前田健太、黒田博樹ら歴代エースの背中を見て育ち、広島カープの“中心”として、抜群の安定感を誇る大瀬良大地がスターとなる前夜に迫った。 連載「スターたちの夜明け前」とは
防御率は両リーグトップ、脅威の0.80
混戦のセ・リーグで現在首位争いを演じている広島。
不動の中軸だった西川龍馬がフリー・エージェントで移籍したこともあって苦戦が予想されていたが、チーム防御率は12球団トップを記録するなど、投手陣の踏ん張りで勝ちを積み重ねている。
そんななかで特に抜群の安定感を見せているのが大瀬良大地だ。
開幕当初は味方の援護に恵まれず、なかなか勝ち星はつかなかったものの、2024年6月7日のロッテ戦ではノーヒット・ノーランを達成。ここまで4勝0敗、防御率は両リーグトップの0.80という驚きの数字をマークしている(2024年7月4日終了時点)。
高校時代は“未完の大器”
そんな大瀬良は長崎県の出身で、高校時代は地元の強豪校である長崎日大でプレーしていた。
しかし、同学年で早くから注目を集めていたのは後に広島でチームメイトとなる今村猛で、今村を擁する清峰は3年春の甲子園で優勝も果たしている。
大瀬良の名前が広がるきっかけとなったのは、3年夏の長崎大会準々決勝でその今村に投げ勝ったことだった(3対1で長崎日大が勝利)。その後の準決勝、決勝でも勝利をおさめて見事に優勝。
しかし、続く夏の甲子園では菊池雄星(現・ブルージェイズ)を擁する花巻東に初戦で敗れ、大瀬良も試合終盤に打ち込まれている。
実際に現場でピッチングを見たのはこの花巻東戦が初めてだったが、当時のノートには以下のようなメモが残っている。
「ステップする前に軸足の膝が折れ、重心が上下動するのが気になる。力むと腕の振りも少し体から遠くなり、リリースのばらつきも課題。上半身の力に頼ったフォームで、ボールを抑え込めず、低めのボールに勢いがない。
(中略)
それでもストレートは140キロ台中盤をマークし(この日の最速は147キロ)、馬力は申し分ない。内角に思い切って腕を振って投げられるのも長所。馬力を残したまま上手くまとまりが出てくれば、今後が楽しみ」
ボールの力はありながらも課題は多く、まだまだ“未完の大器”だったということがよくわかるだろう。
この大会では菊池以外にも明豊の今宮健太(現・ソフトバンク)、智弁和歌山の岡田俊哉(現・中日)、中京大中京の堂林翔太(現・広島)など高校から上位指名でプロに進んだ選手も多く出場していたが、大瀬良の評価はそこまで高くはなかった。
成長が途絶えなかった
本格的に大瀬良の才能が開花したのは九州共立大に進学してからである。
1年春のリーグ戦でいきなり5勝をマークしてベストナインを受賞。続いて出場した大学選手権ではリリーフでの登板ながらいきなり151キロをマークしている。
残念ながらその試合は現場では見ていなかったが、2年春に出場した大学選手権、対東洋大戦で大学進学後の大瀬良の投球を初めて見ることができた。
1点ビハインドの6回から2番手として登板。味方のエラーもあって7回に1点は失ったものの、3イニングを投げて自責点0と好投を見せたのだ。この時のメモは以下のように書かれている。
「堂々とした体格で高校時代とは体つきは別人のよう。
少しステップの幅が狭いのは気になるが、高校時代のような沈み込む動きがなくなり、左肩の開きもギリギリまでよく我慢しながらも、スムーズに高い位置から縦に腕が振れている。
コンパクトなテイクバックでも肘が高く上がり、ボールの角度も素晴らしい。腕を振って右打者の内角に140キロ台後半を投げ込む(この日の最速は150キロ)。
(中略)
110キロ台のカーブはブレーキ、落差があり緩急を使うのも上手い。縦のスライダーもストレートと変わらない腕の振りで打者の手元で鋭く変化。
体格とストレートを見ると本格派だが、変化球のレベルが上がり、あらゆるボールでカウントをとれるようになった。総合力の高さは大学生でもトップクラス」
高校3年夏に出場した甲子園の時と比べて大きく成長したことがよくわかるだろう。
ちなみにこの時点ではまだ大学2年生だったが、メモの最後にもあるように上級生のドラフト候補と言われる投手たちと比べてもすべてが遜色ないレベルにあるように見えた。
大学に入学してからかなりの努力を積んでいたことは間違いないだろう。
また大瀬良が素晴らしかったのは、大学時代にその成長が途絶えなかったということだ。
大学生の場合、下級生の頃に華々しくデビューしても、上級生になると相手の研究も厳しくなって成績を落とすというパターンも多いが、大瀬良は4年間常に結果を出し続けたのだ。
全国大会にも4度出場し、2年と4年の時には大学日本代表にも選ばれている。2013年のドラフトでは3球団が競合したが、それも当然という存在だった。
プロ入り後も一度はリリーフに回り、またここ数年は怪我に苦しんだ時期もあったが、2024年の投球を見ていると全盛期はまだまだこれからという雰囲気も感じる。
残りのシーズン、そして来年以降も広島投手陣の大黒柱としてフル回転の活躍を続けてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。