2024年7月20日にパシフィコ横浜で開催された「サマーコンファレンス2024」にて、公益社団法人日本青年会議所主催「TOYP(The Outstanding Young Persons)大賞」のグランプリ受賞者と特別登壇者によるセミナー「Report of JCI JAPAN TOYP~傑出した若者が、未来を変える!~」が開催された。自ら道を切り開く若きビジネスパーソンたちの熱き語り合いをレポートする。
「Report of JCI JAPAN TOYP~傑出した若者が、未来を変える!~」開催
2024年7月、真夏日の土曜日。いつもはスーツ姿であろう若きビジネスパーソンたちが、この日はTシャツなどラフな装いでパシフィコ横浜に集まってきた。登壇者たちの登場を待ちわびる彼らの期待で、会場はスタート前から熱気に満ちている。
リーダーを志す青年経済人によって社会貢献をすることを目的に組織された公益社団法人日本青年会議所が毎年行っている「TOYP大賞」、その受賞者である3名が舞台に現れると、大きな拍手が湧き起こった。
「TOYP大賞」とは、全国各地でさまざまな社会課題の解決に向けて挑戦する40歳までの若者を発掘し、その活動を表彰。彼らの活動を広く周知させ支援することでさらなる飛躍を促すことを目的としている。若手起業家にとっては“青年版国民栄誉賞”とも呼ばれるほど名誉ある賞だ。
この日、登壇したのは、2024年6月に発表された第38回「TOYP大賞」の受賞者3名。準グランプリであるElevation Space代表取締役CEOの小林稜平氏、SANU Founder / Brand Directorの本間貴裕氏、そしてグランプリであるOUI代表取締役の清水映輔氏が集まり、ファシリテーターはモデルの市川紗椰氏が務めた。
それぞれが向かい合った社会課題
市川氏からの3人への最初の質問は、「それぞれが活動を始めるきっかけとなった社会課題は何だったのか」。
準グランプリのElevationSpace小林氏は自らの活動を紹介しながら、そのきっかけを振り返った。
「私たちは仙台に本社を置く、東北大発の宇宙ベンチャーです。簡単にいえば宇宙から地球に戻ってくることができる人工衛星をつくっています。もともと建築を学んでいたのですが、これからは確実に人類が宇宙に出ていく時代が来る、そう考えた時に、ではどうやって宇宙に居住空間をつくるのか、エネルギーや食糧問題はどうするのか、あまり議論されていないと感じたのが、このビジネスを立ち上げたきっかけです」
小林氏は宇宙で人間が生活していくためには、実際に、あらゆる商品を宇宙空間で試す実験が不可欠になってくると考えた。
ElevationSpaceの衛星は「宇宙に行って帰ってくる」ことができるため、衛星に商品を搭載し宇宙空間を旅させた後に回収、宇宙空間で商品にどのような変化が起こるのか実証実験をすることができる。
さらに地上での生活も宇宙での実験により、もっと豊かにできるとし、あらゆる産業の実証実験のプラットホームをつくっている最中だ。例えば無重力の環境で高性能なタンパク質結晶をつくり、それを地上での創薬に応用するなど、さまざまな可能性がこの衛星により切り開かれている。
次にマイクを握ったのはSANUの本間氏。別荘の月額サブスクリプションサービスを開始し、現在20拠点102室と日本全国にその規模は拡大している。
「私は福島県会津若松で生まれ育ち、裏磐梯の綺麗な湖に行くのが子供の頃から大好きでした。30代を超えて人生の有限性を考えるようになり、有限であるならもっと自然の中で生きたい、遊びたい、と思うようになったんです。今まで出合うことができなかった世界中の美しい自然に出合える仕組みをつくりたい、そう考えたのがSANUを始めたきっかけです」
自然の中で生き、遊ぶためには、自然環境を守る生活様式をつくることが大事だと話す本間氏。SANUの建築はすべて木造の高床式で、コンクリートなどの基礎が地面につくことで起こる土壌汚染などを極力少なくしている。さらに釘や接着剤を使わない設計になっていて、いつか解体する日が来ても、木材として再利用できるようになっているのだという。
世界の失明を50%減らすというミッション
グランプリのOUI代表取締役清水氏は2人の言葉に頷きながら最後にマイクをとる。
「私の起業のきっかけとなった社会課題は、世界の失明率の高さと、眼科受診率の低さです。眼科医としてベトナムの田舎にボランティアに行った際、白内障で失明する人の多さに驚きました。先進国では白内障は手術で治せますが、世界全体で見ると、それを発見する眼科医も医療器具もない。そのことに気がついたのが大きなきっかけでした。
眼科医にとって失明とは、他の医者にとって患者が亡くなるに等しいことです。だから世界の失明を50%減らす、そのことをミッションに私たちは取り組んでいるのです」
眼科医も医療機器も足りない、であればもっと簡単に眼科診断ができる機器があればいい。そう考えた清水氏はスマートフォンのカメラに取りつけ、スマートフォンのバッテリーと光源で使用できる眼科診察用カメラ「Smart Eye Camera」を開発。
このカメラ自体にバッテリーはなく、3Dプリンターでも簡単につくることができるので、世界中にこの機器を行き渡らせることができる。これにより眼科専門でない医師、例えば島にひとりきりの駐在医なども患者の眼を撮影して、その撮影データを眼科医に送れば遠隔での診療が可能になるのだという。
実際にファシリテーターの市川氏の眼を撮影し、いかに診察が簡単であるか披露してみせた清水氏。
「小さい機器ですし、それこそ宇宙にも持っていける。そう考えると、ここに集まっている人たちともすごく親和性がありますね。それに今日、私は白いTシャツで登壇していますが、会場に集まってこられた方々もみんな同じような格好で(笑)。同年代の仲間が集まってくれたようで嬉しいです」
辛い経験に助けられる時もある
さらに特別登壇者として、NPO法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクト代表理事の木戸俊介氏が呼ばれ舞台に上がる。
交通事故で脊髄を損傷し車いす生活になったあと、海外でリハビリに励み、現在は日本の脊髄損傷患者の生き方の選択肢を拡げるために日々奔走。障がいのある人、泳げない人など、誰でも安心して楽しめるビーチづくりを行い、海水浴が困難な人へ向けて遊泳のサポートもしている。
「障がいのある人って、チャレンジするのを止められることがあります。でもそのチャレンジの心を花咲かせる、そんなことができたらいい」
そう語る木戸氏は、海の中で満面の笑みを見せる子供たちの写真をスライドに写す。
「海が怖いから泣いてしまう子もいます。それでもいいんです。喜怒哀楽が花咲くきっかけになったら」
その木戸氏に市川氏がこう質問を投げかける。
「自分を成長させた、大きな困難、ターニングポイントは何でしょうか」
それに対して木戸氏はこう答えた。
「交通事故に遭った時でしょうか。集中治療室で『でも、会社員時代、営業に回ってる時のほうがきつかったかもな』と、過去の辛い経験に助けられまして(笑)。もともとポジティブな人間でしたが、事故に遭ってから突き抜けられた。そこからいろいろな活動のアイデアも湧きましたね」
受賞者3人も、事業を始めたばかりの頃にぶつかる困難について語り合った。
自分に制限をかけずに挑戦していく
最後に清水氏は市川氏の「これから未来を担う人材が挑戦するために、必要な社会環境とはどんなものか」という質問に、こう答えた。
「社会環境というよりは、挑戦する人自身が、自分に制限をかけないことが大事だと思います。私は医局にいて、専門はドライアイ。毎日患者さんの診察をし、論文も書いています。そして同時に自分のやりたい事業もどんどんやっていく。忙しいですが、自分に制限をかけず、やりたいことに挑戦していきたいと思っています。皆さんもいろいろやってみて、ダメだったらそれでもいい。そういう制限をかけず挑戦できる人が増えていけば、希望のある社会になっていくんじゃないかと思います」
大きな拍手とともに終了したこのセミナー。40歳までの若いビジネスパーソンたちが、ともに切磋琢磨を誓った熱い夏の1日だった。
問い合わせ
公益社団法人日本青年会議所 TOYP委員会 https://www.jaycee.or.jp/toyp/