ソロ・アルバム『只者』をリリースすると、楽曲「Chateau Blanc」のMVを突然展開した稲葉浩志。演出はお笑いタレントで映画監督の品川ヒロシ。ブラックマヨネーズの小杉竜一とのダブル・キャスト。この意表を突くスタッフとキャスティングに稲葉いわく「どんな仕事でも絶対に熱量のある人と組むべき」。撮影現場のバックヤードについて、品川と熱く語り合う。後編。【前編はこちら】
品川ヒロシの熱量。小杉竜一の愛情
「Chateau Blanc」のMVは、徹底的に稲葉浩志を撮影しているが、実はもうひとつのバージョンがある。そちらの主演は、ブラックマヨネーズの小杉竜一。
音楽は、もちろん稲葉が歌う「Chateau Blanc」。しかし、画面では稲葉と同じスタイリングで、同じ演出で、同じ振り付けで小杉が演じている。小杉は熱いB’zファン。ライヴに通い詰め、ライヴに参加したこともある。
品川 小杉さんバージョンもつくることは、冗談半分で稲葉さんと話しているうちに現実になってしまった企画です。
稲葉 同じ演出で小杉さん版も撮影したら面白い、という提案が品川さんからあって、僕が「いいっすね」と応えて。
品川 リハーサル感覚で小杉さんで撮影して、稲葉さんの本番に臨もうとも考えました。
稲葉 小杉さんも含めてみんなの負担にならなければ実現したいと思いました。
品川 小杉さんは尋常ではないB’zファンなんですよね。
稲葉 B’zのツアーも自身でチケットをとってくれて、物販販売にも並ぶそうです。ライヴで警備員に扮して登場してくれたこともあります。
品川 小杉さんは稲葉さんへの愛がありすぎて、もはや神のように崇めています。「B’z=小杉さん」と言ったら言いすぎだけど、そのくらい濃いファンです。
稲葉 3人一緒に食事をしたこともありましたよね。
品川 あの夜は、稲葉さんが小杉さんに「ちょっとやせたほうがいい」と言って。
稲葉 言いましたね。
品川 小杉さんは「やせます!」って宣言しました。僕も何度も忠告しているんですけれど、まったく言うことを聞きません。だけど、稲葉さんの前だと「はい! ダイエットします! 今日も歩いて帰ります!」と。
稲葉 食事したお店から自宅までは、かなり遠かったですよね。
品川 1時間半くらい歩いたはずです。歩くとは言ったものの、口だけだと思いましたよ。僕たちの姿が見えなくなれば、タクシーを摑まえるに違いない、と。
稲葉 でも、最後まで徒歩で帰ったんですよね。
品川 途中何地点かで、歩いている証拠の写真を送信してきました。「今ここを歩いています」って。「稲葉さんに、歩いて帰ると言ったからには、嘘はつかれへん」と言って。
稲葉 怖すぎます(笑)。うかつなことは言えません。飲んだ夜に1時間半も歩くよりも、翌朝から毎日少しずつ歩くほうが体重は落ちるし、健康的なのに。
品川 でも、稲葉さんの前で宣言した限りは有言実行を示したかったんでしょう。稲葉さんは小杉さんにとって神ですから。
――そんな小杉さんには、今回、品川さんからオファーしてもらったんですよね。
品川 電話したら、飲み会のさなかで、僕に対してすごく雑な対応だったんですよ。なんか用事か? という。でも、用件を話したら、態度ががらりと変わりました。「ほんま、ありがとう! この業界で頑張ってきたかいがあったわー」という。生まれてきてよかった、という感じでした。撮影当日も、大きな身体が千切れるんじゃないかと思うほどよろこんでいました。
稲葉 小杉さん、すごかったです。スタジオにいきなり現れて、大人数のスタッフに囲まれてのあのレベルのパフォーマンスは、ふつうはできません。
品川 愛です。小杉さんの稲葉さんへの愛情です。愛がパフォーマンスの質を上げました。
稲葉 撮影後、小杉さんとはおたがいを讃え合いました。
品川 稲葉さんとグータッチしていましたね。図々しいというか、稲葉さんとよくそんなことできるな、生意気だな、と思いました。小杉さん、僕にとっては先輩なんですけどね。僕はちょっと気分がよくなかったです(笑)。小杉さんは興奮しすぎて我を忘れていたのでしょうね。
「Chateau Blanc」のMVで僕の最後の作業は小杉さんバージョンのCGのチェックで、そのためだけに編集所へ行きました。パフォーマンスを見ながら、ちょっと納得できない思いはありました。なんで、オレ、小杉さんのCGチェックのために編集所に来なくちゃいけないんだ、って。
稲葉 (笑)。このMVでは、品川さんの熱量の大きさと、小杉さんの愛情の深さをたっぷりと受け取らせていただきました。
品川 「Chateau Blanc」の映像をやらせていただいて、改めてわかったのは、稲葉さんが歌詞を書き歌う曲は、ソロでもB’zでも、映像的な歌が好きだということです。今回のアルバムならば、入学式の日を描写した「シャッター」とか。
B’zならば、主人公が好きな女性のなかに入る自分をイメージする「今夜月の見える丘に」とか。確かTBSのドラマ『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』のテーマだったと思いますが、今も曲を聴くと、さまざまなシーンが蘇ります。稲葉さんの音楽はとても映像的。シーンがあります。
Koshi Inaba
岡山県生まれ。1988年にB’zのヴォーカリストとしてデビュー。1997年にソロ作『マグマ』をリリースし、その後5枚のソロ作とともにすべてがチャート1位。最新作は2024年6月リリースの『只者』。
Hiroshi Shinagawa
東京都生まれ。お笑いコンビ品川庄司、映画監督、脚本家、作家、俳優などマルチに活動。『ドロップ』『リスタート』『OUT』などを手がける。MVの演出も多数制作している。
稲葉浩志氏着用衣装:ベスト¥41,800、シャツ¥46,200、パンツ¥38,500、ブーツ¥79,200(すべてガラアーベント/サーディヴィジョンピーアール TEL:03-6427-9087)、その他スタイリスト私物
品川ヒロシ氏着用衣装:ジャケット¥24,200、Tシャツ¥6,930(ともに1PIU1UGUALE3 RELAX シフォン TEL:03-6666-4321)、パンツ¥38,500(ポリクアントcontact@74ltd.co.jp)、その他スタイリスト私物