カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第33回は「歯科と糖尿病」。歯科を受診した患者の血糖値を調べて、糖尿病のハイリスクならば内科の受診につなげている歯科医師がいると聞き、その取り組みを続ける歯科医・山西喜寛氏にたずねた。
歯の痛みで受診すれば、血糖値の検査で糖尿病かがわかる
堀江貴文(以下堀江) みんな、なかなか検診に行かないってこの連載で何度も嘆いてきたけれど、歯科による新しい取り組みが広がり始めていると聞きました。「小倉ゆめ歯科おとな歯科こども歯科」の山西喜寛先生もそのおひとりで、虫歯で受診する患者さんに血糖値の測定を行い、異常があれば内科の受診につなげているそうです。これは、どういう取り組みなのですか?
山西喜寛(以下山西) 患者さんの診察では歯茎の状態を必ずチェックし、虫歯や歯周病の治療を行い、歯磨きのブラッシング指導も行います。それでも歯茎の状態がなかなか改善しない場合は、糖尿病や他の疾患の可能性が高いと考えて血糖値の測定も行うようにしているのです。
堀江 糖尿病だと唾液に含まれる糖分濃度が高くなるから、歯周病菌が繁殖しやすくなりますしね。
山西 はい。患者さんに、最近、検診や血液検査を受けたかをたずねて、糖尿病が疑われる場合は、血糖値とかヘモグロビンA1c(HbA1c)の数値も見て判断しますが、歯科では詳細な把握がしきれないので、内科医に紹介状を書いて受診を勧めます。
堀江 それはいい方法ですね。糖尿病は痛みがないから、酷くなるまで気づかない。でも虫歯は痛いから、みんな歯科医院に行く。歯の痛みで受診すれば血糖値の検査で糖尿病かどうかもわかる。糖尿病が進行する前に内科にかかれて、早期で治療も始められますね。
そもそも年に2〜3回、歯のクリーニングに通っていれば歯周病は防げるし、歯茎の状態から糖尿病を疑われることもないと思うけど……。歯石クリーニングの受診って、地域差がありますよね。
山西 九州にある当院では、初診で歯石クリーニングを希望する人は少ないですね。歯が痛い、歯茎が腫れた、詰め物が取れたという症状で来院する方が多いです。診察、検査の後に「歯をきれいにしてから治療をします」と説明すると、抵抗なく歯石クリーニングに応じてくれます。
堀江 虫歯で歯科医院に行く中高年の方って、甘いものが好きで糖尿病体質であることが多い。糖尿病は早期に医療が介入しないと、膵臓のインスリン生成機能が衰えてしまうから、早めの受診が必要なのに、糖尿病って自覚症状がないから病院に行かないんですよね。
山西 そうですね。異変を自覚できた段階では、かなり進行していることも。だから早期発見が重要で、糖尿病と歯科の関わりは強めていく必要があります。実際、糖尿病の患者は全国で1000万人、予備軍も1000万人いて、実に20歳以上の国民の4分の1にあたります。
医科と歯科が連携、全身状態を確認しながら治療を行う方向に
堀江 健康意識が高い人は糖尿病を予防できる。問題なのはそうじゃない人たち。健康意識が低く、やる気もないし、自由診療にお金を払いたくないという人たちです。彼らはマジョリティなので、虫歯になった時が医療介入できるいい機会になる。
山西 歯周病が脳梗塞と関係があることはだんだん知られるようになってきましたが、糖尿病との関係も大きいことも、もっと知ってほしいですね。
堀江 糖尿病の恐ろしさ自体、さほど知られていないのが現状ですからね。実は日本人はインスリンを出す能力があまり高くない。血糖値が上がると膵臓からインスリンを大量に出して血糖値を下げようとするけれど、膵臓が疲弊するとインスリンの分泌が減る。そうなると高血糖状態が続いて、毛細血管が詰まって壊死するし、末端の神経も死んでしまう。
するとどこかに脚をぶつけて出血しても気づかなかったり、傷が治りにくくなったり、感染症にかかりやすくなる。悪化して壊死した腕や脚の切断が必要になったり、腎臓の毛細血管が機能低下して人工透析になるとか、目の網膜の毛細血管がダメになって失明にいたったりもする。
でも、それまでの間は、全然痛みがない。糖尿病は恐ろしい病気です。早期発見や予防に取り組む歯科医師はこれからも増えていくのではないでしょうか。
山西 国も政策を考えていて、2010年代ごろから全身疾患も診ることができる歯科医をつくっていこうという取り組みが始まり、医科と歯科が連携して患者さんの全身状態を確認しながら治療を行う方向になってきています。2024年6月から保険の改定があり、糖尿病患者に対し歯周病治療を積極的に行える対策が組みこまれました。
健康意識が高い患者さんには我々も説明しやすいし、提案も受け入れてもらいやすい。ですが「とりあえず痛いところだけ治してくれ」という考えの方には説明や提案をなかなか受け入れてもらえない。まだそんな状況があるので、堀江さんが勧めている予防医療の啓蒙活動は、歯科医としても、とてもありがたいです。
堀江 健康や予防の意識が高い人は、そうそう増えないと個人的には思っていて。だから、いかに意識が高くない人の治療に介入していくか、僕はそこに興味があって、いろいろなやり方を考えています。虫歯がきっかけで糖尿病の恐ろしさを知るというのは、いい方法だとわかりました。
山西 歯科から専門の医師や病院につなげられれば、病気の進行や悪化が防げます。逆に、内科医や眼科医が患者さんに定期的な歯科の受診を勧めることにもなりました。保険診療の改定で、糖尿病などの全身疾患に関われる歯科医を増やしていかないといけません。
堀江 そもそも、中高年になって虫歯ができるのは、本当はおかしいこと。健康管理ができていない証拠だし、歯周病になるのも“当たり前”じゃないんです。だから大人の虫歯は大チャンス。歯科医から間違った習慣を修正してもらい、全身の状態を調べよう。そういう啓蒙活動はアリだなと思いました。
堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書に『堀江貴文のChatGPT大全』ほか。本連載をまとめた書籍が好評発売中。
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